6 / 6
Diary1.旅立ち
6.聲
しおりを挟む
通された部屋の中には、優しそうに笑っているおじさんがひとりいた。
「おや、お嬢ちゃんかな? この先の港で奴隷として売られちまうのは」
たぶん、何事もなく出てしまった言葉なんだと思う。きっと、このおじさんたちにとってはいつも聞いている、わたしたちで言う「おはよう」とか「いただきます」とかいう挨拶の言葉と同じくらいにありふれたもの。
だから、きっと悪意なんてない。
でも、そんな言葉だからこそ、どこか心に刺さる物言いで。
「まぁ心配すんなって、いい買い主さんなら綺麗なおべべ着せてもらっていい暮らしできんぜ?」
「おぉ、そだねー! そう思えば、まぁ奴隷も悪かぁねぇなぁ! はっはっは!」
「いやいや、確か今回注文出してきたのはシュヴァイツ侯爵のボンだかだった気がするぜ」
楽しく陽気に、まるで私の気持ちが沈みこんでいるのを楽しんでいるみたいだった声も、おじさんたちの気持ちに嫌になるくらい正直に萎んでいってしまう。代わりに、わたしの不安ばかり膨らませていく。
それってつまり、シュヴァイツ侯爵の子ども……さん?がとんでもなくひどい人ってこと?
わたし、そんなところにこれから売られるの?
ねぇ、パパ。ママ。
わたし、これからすっごく酷い人の家に買われるみたい。
こんな海賊のおじさんたちが黙っちゃうんだよ? あんなに、お酒飲んだりお肉食べたりして楽しそうに騒いでいたおじさんたちが、わたしがそのお家に売られるのかも、って話しただけで止まっちゃうんだよ?
そんな人のところに、わたしを売ったの?
わたしが、どうなってもいいの?
もう、わたしのこと嫌いになっちゃったの?
もっといい子にしてたらよかったの?
パパとママとわたし、ずっと一緒だと思ってたのに。
目の前がぼやけてきて、喉の奥が痛くなってきて、息ができなくなってきて。
「っく、う、うぅ~」
わたしが何かしたなら、謝るから。
だから、どうか朝まで時間を戻してほしい。
「ぱぱ、まま……!」
涙が溢れて、止まらない。声が出なくなっても、止まらない。近くでバタバタと音がして、ガヤガヤと声がして、おい、だとか、やめとけ、だとか、うるせぇ、だとか、そんな乱暴な言葉が聞こえてくるとそういう言葉遣いをしたパパを注意してたママの姿を思い出してまた涙が溢れてきて。
「いいじゃねぇか。泣いてる子どもを泣き止ますのはコレって相場が決まってんだ」
だから、近くで聞こえたそんな声に振り向くのも、肩に手を置かれてからになってしまった。
目の前には、ムワッとするような熱い空気に包まれた大きなおじさんがいて。優しそうだけどどこか怖い感じのする目でわたしのことを見ていた。
「なぁ、お嬢ちゃん。助けを求めるのもいいけどな、お嬢ちゃんを売ったのはそのパパとママなんだぜ?」
そう言っているおじさんの言葉よりも、おじさんの後ろに倒れているみんなのことが、気になった。
「ね、ねぇおじさん。何でみんな倒れてるの?」
でも、おじさんはわたしの言葉には答えてくれない。
「それにな、奴隷にならなくてもいい方法があるぜ」
言いながら、その笑顔がどんどん怖い雰囲気になってくる。
「あそこのボンは、処女しか相手にしないって話だからな」
まるで、昔パパに連れて行ってもらった泉の傍で見た、狩りをする獣みたいな目つきになっているおじさんから逃げたくても、肩を強く掴まれて動けない。
怖くても、助けを求める相手は思いつかない。
「ひっ、ぱぱ、まま……!」
だから、もう助けてくれないってわかってるのに、その名前しか呼べない。
「そんなにママが好きならよぉ、お嬢ちゃんがママになればいいよなぁ!!!!」
大きく口を開けて叫ぶ声と一緒に、着ていた服が肩からビリッと音を立てて破けて。
怖い。
何かしなきゃいけないのに。
怖くて、何もできない。
逃げないと。
怖い。
押しのけないと。
怖い。
動かないと。
怖い。
やっと出そうだった声も、「楽しもうぜ、なぁ!!」という大声ですっかり出なくなって。
「おい、お前何してやがる!」
そのとき、別の大きな声が聞こえた。
「おや、お嬢ちゃんかな? この先の港で奴隷として売られちまうのは」
たぶん、何事もなく出てしまった言葉なんだと思う。きっと、このおじさんたちにとってはいつも聞いている、わたしたちで言う「おはよう」とか「いただきます」とかいう挨拶の言葉と同じくらいにありふれたもの。
だから、きっと悪意なんてない。
でも、そんな言葉だからこそ、どこか心に刺さる物言いで。
「まぁ心配すんなって、いい買い主さんなら綺麗なおべべ着せてもらっていい暮らしできんぜ?」
「おぉ、そだねー! そう思えば、まぁ奴隷も悪かぁねぇなぁ! はっはっは!」
「いやいや、確か今回注文出してきたのはシュヴァイツ侯爵のボンだかだった気がするぜ」
楽しく陽気に、まるで私の気持ちが沈みこんでいるのを楽しんでいるみたいだった声も、おじさんたちの気持ちに嫌になるくらい正直に萎んでいってしまう。代わりに、わたしの不安ばかり膨らませていく。
それってつまり、シュヴァイツ侯爵の子ども……さん?がとんでもなくひどい人ってこと?
わたし、そんなところにこれから売られるの?
ねぇ、パパ。ママ。
わたし、これからすっごく酷い人の家に買われるみたい。
こんな海賊のおじさんたちが黙っちゃうんだよ? あんなに、お酒飲んだりお肉食べたりして楽しそうに騒いでいたおじさんたちが、わたしがそのお家に売られるのかも、って話しただけで止まっちゃうんだよ?
そんな人のところに、わたしを売ったの?
わたしが、どうなってもいいの?
もう、わたしのこと嫌いになっちゃったの?
もっといい子にしてたらよかったの?
パパとママとわたし、ずっと一緒だと思ってたのに。
目の前がぼやけてきて、喉の奥が痛くなってきて、息ができなくなってきて。
「っく、う、うぅ~」
わたしが何かしたなら、謝るから。
だから、どうか朝まで時間を戻してほしい。
「ぱぱ、まま……!」
涙が溢れて、止まらない。声が出なくなっても、止まらない。近くでバタバタと音がして、ガヤガヤと声がして、おい、だとか、やめとけ、だとか、うるせぇ、だとか、そんな乱暴な言葉が聞こえてくるとそういう言葉遣いをしたパパを注意してたママの姿を思い出してまた涙が溢れてきて。
「いいじゃねぇか。泣いてる子どもを泣き止ますのはコレって相場が決まってんだ」
だから、近くで聞こえたそんな声に振り向くのも、肩に手を置かれてからになってしまった。
目の前には、ムワッとするような熱い空気に包まれた大きなおじさんがいて。優しそうだけどどこか怖い感じのする目でわたしのことを見ていた。
「なぁ、お嬢ちゃん。助けを求めるのもいいけどな、お嬢ちゃんを売ったのはそのパパとママなんだぜ?」
そう言っているおじさんの言葉よりも、おじさんの後ろに倒れているみんなのことが、気になった。
「ね、ねぇおじさん。何でみんな倒れてるの?」
でも、おじさんはわたしの言葉には答えてくれない。
「それにな、奴隷にならなくてもいい方法があるぜ」
言いながら、その笑顔がどんどん怖い雰囲気になってくる。
「あそこのボンは、処女しか相手にしないって話だからな」
まるで、昔パパに連れて行ってもらった泉の傍で見た、狩りをする獣みたいな目つきになっているおじさんから逃げたくても、肩を強く掴まれて動けない。
怖くても、助けを求める相手は思いつかない。
「ひっ、ぱぱ、まま……!」
だから、もう助けてくれないってわかってるのに、その名前しか呼べない。
「そんなにママが好きならよぉ、お嬢ちゃんがママになればいいよなぁ!!!!」
大きく口を開けて叫ぶ声と一緒に、着ていた服が肩からビリッと音を立てて破けて。
怖い。
何かしなきゃいけないのに。
怖くて、何もできない。
逃げないと。
怖い。
押しのけないと。
怖い。
動かないと。
怖い。
やっと出そうだった声も、「楽しもうぜ、なぁ!!」という大声ですっかり出なくなって。
「おい、お前何してやがる!」
そのとき、別の大きな声が聞こえた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
奇跡の少女セリア〜私は別に特別ではありませんよ〜
アノマロカリス
ファンタジー
王国から遠く離れた山奥の小さな村アリカ…
そこに、如何なる病でも治してしまうという奇跡の少女と呼ばれるセリアという少女が居ました。
セリアはこの村で雑貨屋を営んでおり、そこでも特に人気な商品として、ポーションが好評で…
如何なる病を治す…と大変評判な話でした。
そのポーションの効果は凄まじく、その効果は伝説のエリクサーに匹敵するという話も…
そんな事から、セリアは後に聖女と言われる様になったのですが…?
実は…奇跡の少女と呼ばれるセリアには、重大な秘密がありました。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる