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Diary1.旅立ち

5.ぬくもり

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 え、嘘だ。
 もう何回も自分の中で考えていたことなのに、やっぱり認められない――認めたくない。

 わたしは、売られたの?
 売られたって、どういうこと?

 わからない。ううん、わからないわけじゃない。
 海賊と聞いたときにビクッと震えて、暗くなってしまったことも。
 裏路地を通っているときに周りをキョロキョロしていたことも。
 港で船のおじさんがパパとママに向けていたちょっと厳しい目つきも。
 そのあと船に乗っているうちに帰って行った2人の手に握られた袋も。
 わたしが呼んだとき、振り返って見せた泣き出しそうな悲しい顔も。

 もう、今から思えばでしかなくて。

 考えようとしても考えられないくらいに、はっきりとした事実があるのに、パパとママがわたしを売ったんだっていうことをわかりたくない。受け入れたくない。自分で考えてしまったことも訂正したいくらい。

 もしかして、わたしがそんなこと考えたから本当になっちゃったの?

「どうしよう、パパ、ママ……っく、うっ」
 わたしが悪かったのかな?
 パパとママを怒らせたかな?
 嫌われちゃったのかな?
 あんなにニコニコしてたのに。

「お嬢ちゃん、可哀想になぁ……」
 肩に置かれた手が、とても温かくて。
「どうしよう」
「とりあえずこっちにおいで」
 だから、船のおじさんが開けたそのドアの奥に、何も疑わずに、入ってしまったんだ。その先で、何が起こるかなんて全然考えないで。
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