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第3章 再会、苦悩。
1・わたしの家
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朝の光に目を覚まして、毎回裏切られる。
目を覚ますとき、未だにここが美希さんと煉さんの部屋なんじゃないか、ってつい期待してしまう。でも、そんなことはないんだって、その数秒後に思い知らされる。
そんな繰り返し。
そして今日も、朝日を浴びた居間の中で、こぼれたお酒がキラキラと光っている。
「……おはよう」
隣で大きないびきをかくお父さんに声をかけて、わたしは立ち上がる。
それも、戻ってきてからの日常風景だ。
お父さんは、人が変わったみたいになっていた。
4月1日。連れ戻された家には、お母さんの姿はなかった。ただ真っ暗闇みたいな廊下に赤い夕陽が入り込んで、でもそのせいで余計に光の外の暗さが際立っていて、つい2週間くらい前まで住んでいたはずなのに、あまりの不気味さに後じさりしそうになって。
「おかえり、麻衣。ただいまは?」
お父さんの太って重いお腹に道を塞がれていて。
「ただいま、は?」
わたしを見下ろすお父さんの顔は、影になっていて全然見えなかった。
声も今までみたいな優しげな声なんかじゃなくて、暗く落ち込んで、まるでお父さんじゃなくなったみたいで。目の前にいる人は本当にお父さんなの? そう何度も訊きたくなった。
「どうした、麻衣? そうか、ほとんど喧嘩みたいにして家を出ちゃったから入って来づらいんだろう。大丈夫だよ、お母さんならいないから」
朗らかな、お父さんによく似た声。
わたしを追い越して先に家に入ったお父さんの、夕陽を浴びてようやく見えた優しい雰囲気の笑顔に逆らえなくて、わたしはこの家に戻って来た。
リビングにも、寝室にも、キッチンにも、お風呂場にも、お母さんの姿はない。
本当に、お母さんはいないんだ。
でも、何でだろう。「どうしたの?」とはお父さんに訊けなかった。何となく、その言葉をかけてしまったら今ご飯を作ってくれているお父さんの笑顔が、電池が切れるみたいに止まってしまうような気がして、怖くて。
だから、必死に触れないようにしていたのに。
それをぶち壊しにしたのは、お父さん自らだった。
「なぁ、麻衣。お母さんがどこに行ったか、全然気にしないんだな」
その声は、わたしを家に連れ戻してくるときみたいに、暗く感情のないような声だった。
目を覚ますとき、未だにここが美希さんと煉さんの部屋なんじゃないか、ってつい期待してしまう。でも、そんなことはないんだって、その数秒後に思い知らされる。
そんな繰り返し。
そして今日も、朝日を浴びた居間の中で、こぼれたお酒がキラキラと光っている。
「……おはよう」
隣で大きないびきをかくお父さんに声をかけて、わたしは立ち上がる。
それも、戻ってきてからの日常風景だ。
お父さんは、人が変わったみたいになっていた。
4月1日。連れ戻された家には、お母さんの姿はなかった。ただ真っ暗闇みたいな廊下に赤い夕陽が入り込んで、でもそのせいで余計に光の外の暗さが際立っていて、つい2週間くらい前まで住んでいたはずなのに、あまりの不気味さに後じさりしそうになって。
「おかえり、麻衣。ただいまは?」
お父さんの太って重いお腹に道を塞がれていて。
「ただいま、は?」
わたしを見下ろすお父さんの顔は、影になっていて全然見えなかった。
声も今までみたいな優しげな声なんかじゃなくて、暗く落ち込んで、まるでお父さんじゃなくなったみたいで。目の前にいる人は本当にお父さんなの? そう何度も訊きたくなった。
「どうした、麻衣? そうか、ほとんど喧嘩みたいにして家を出ちゃったから入って来づらいんだろう。大丈夫だよ、お母さんならいないから」
朗らかな、お父さんによく似た声。
わたしを追い越して先に家に入ったお父さんの、夕陽を浴びてようやく見えた優しい雰囲気の笑顔に逆らえなくて、わたしはこの家に戻って来た。
リビングにも、寝室にも、キッチンにも、お風呂場にも、お母さんの姿はない。
本当に、お母さんはいないんだ。
でも、何でだろう。「どうしたの?」とはお父さんに訊けなかった。何となく、その言葉をかけてしまったら今ご飯を作ってくれているお父さんの笑顔が、電池が切れるみたいに止まってしまうような気がして、怖くて。
だから、必死に触れないようにしていたのに。
それをぶち壊しにしたのは、お父さん自らだった。
「なぁ、麻衣。お母さんがどこに行ったか、全然気にしないんだな」
その声は、わたしを家に連れ戻してくるときみたいに、暗く感情のないような声だった。
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