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第一章

たとえゲーム廃人でも、女の子に好かれたらやっぱり嬉しい。――5

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 夕方になり、俺とレイシーは寮に戻ってきた。

 レイシーの純金の艶髪つやがみには、俺がプレゼントした髪飾りがつけられている。

 ふたりの手は繋がれたままだ。

「楽しかったな」
「はい! また行きましょうね?」
「約束、忘れたのか、レイシー? 俺を誘ってくれるんだろう?」
「ふふっ、そうでした」

 レイシーが冗談めかすようにペロッと舌を出す。

 そんなレイシーを眺め、俺はクスッと笑う。

 茜色の夕日も手伝って、俺とレイシーのあいだには、温かい空気が漂っていた。

「レイシー!? マサラニアくん!?」

 穏やかな気持ちにひたっていると、不意に、驚いたような声が聞こえた。

 見ると、俺たちの進行方向に、瞠目どうもくするエリーゼ先輩がいる。休日にもかかわらず制服姿だ。

「き、きみたち、どうして手を繋いでいる!? いつの間にそんなに仲睦なかむつまじくなった!? いままでなにをしていたんだ!?」
「今日はレイシーと外出してたんすよ。手を繋いだのは成り行きみたいなものです」
「が、外出!? まさかデートか!?」

 俺の発言に、エリーゼ先輩が血相を変える。

 ゲームに登場するエリーゼ・ガブリエルはクールな才女だったが、目の前にいる先輩女子は、まるで別人だ。

「マサラニアくん! レイシーときみはどういう関係だ!」
「お、落ち着いてください、エリーゼ先輩!」

 詰め寄ってくるエリーゼ先輩に気圧されて、俺は諸手もろてを挙げた。

「というか、なんで先輩がレイシーと俺の仲を気にするんすか?」
「そ、それは、あれだ! 風紀を乱す者は看過かんかできない的なやつだ!」
「自分で『的なやつ』って言ってるじゃないすか! いま、確実に誤魔化ごまかしましたよね!?」
「いいから答えろ、先輩命令だ!」
「俺とレイシーはただの友達ですよ! そうだよな、レイシー?」

 なぜ、こんなにも取り乱しているのかはわからないが、エリーゼ先輩の剣幕は普通じゃない。

 そもそも、俺とレイシーはデートしていたわけじゃないし、あくまで友達だ。エリーゼ先輩は完全に誤解している。

 その誤解が暴走の原因だとしたら、可及的速かきゅうてきすみやかにかないといけない。

 話を合わせてくれと視線で訴えながら、俺はレイシーに話を振った。

「デート……やっぱりそう見えちゃうのですね……えへへ、えへへへへへ……!」

 しかし、俺の思いはレイシーに届かなかった。

 それどころかレイシーは、ゆるゆるフニャフニャな笑顔を浮かべ、くねくねと体をよじらせる。

 どうしてそんな反応をするのかはわからないけど、これ、完全に誤解を加速させるやつぅ――――っ!!

 俺が頬をヒクつかせていると、エリーゼ先輩が、ガーン! という擬音オノマトペが似つかわしい顔をして、ガックリと項垂うなだれた。

「あのー、エリーゼ先輩?」
「ふ、ふふ、ふふふふふ……そうか、仕方ないかもしれないな。レイシーもそういう年頃なのだから」

 レイシーのお母さんも言ってたけれど、『そういう年頃』ってどういう意味なんですかね?

「だが、そう簡単にレイシーとの仲を認めるわけにはいかない」

 幽鬼ゆうきのように、ゆらり、と顔を上げたエリーゼ先輩が、ビシィッ! と俺に指を突きつけた。

「勝負だ、マサラニアくん! きみがレイシーを任せるに足る男か、わたしが試してやろう!」
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