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第二章

大事な大会には、最高の状態で挑むべき。――1

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 レドリア学生選手権で、戦闘に用いることができる従魔は最大3体。当然ながら、従魔は3体いたほうが有利だ。

 そこで、

「3体目の従魔を手に入れに行こうと思う」

 自分の席についている俺は、隣の席を借りているレイシーに告げた。

「どこに向かうのですか?」
「『ジェア神殿しんでん』だ」

 コテン、と小首をかしげて問うレイシーに答える。

 ジェア神殿は、ガブリエル家が保有するダンジョンだ。

 ガブリエル家の領地の東にある『オルボスやま』の中腹に位置し、風・雷・氷・光属性のモンスターが生息している。

 80レベル以上の従魔で挑むことが奨励しょうれいされているが、クロとユーなら充分だろう。

「ジェア神殿の最奥さいおうでは、クロ用の装備品も入手できることだし、一石二鳥だ。早速こいつを使う機会がきたってわけだな」

 言いながら、『不思議なバッグ』から入場許可書を取り出す。タイラントドラゴンを討伐したことで、ガブリエル家からもらったものだ。

 本来、ジェア神殿にはガブリエル家の者しか入れないが、この許可書があれば俺でも入ることができる。

「あの……わたしもついて行って構わないでしょうか?」

 入場許可書を掲げる俺に、小さく挙手しながらレイシーがいてきた。

 思いも寄らぬ頼みに、俺はパチパチと瞬きをする。

「レイシーが? どうしてだ?」
「ロッドくんのお手伝いがしたいのです!」

 レイシーが胸元でグッと拳を握りしめ、ふんす、ふんす、と鼻息を荒くした。

「けど、レイシーは許可書を持っていないから、ジェア神殿には入れないんじゃないか?」

 俺が指摘すると、レイシーは内緒話をするように顔を近づけ、ささやく。

「お父さんとエリーゼ姉さんを味方につけます! 一応、わたしもガブリエル家の血を継いでいますので!」
したたかになったなあ、レイシー」

 感心かんしん半分、呆れ半分の心境で俺は嘆息たんそくする。

「これからも生きられるのですから、目いっぱい好きなことがしたいのですよ」

 レイシーがいたずらっ子みたいに笑った。

 どうやら、タイラントドラゴンの一件が片付いたことで、いろいろと吹っ切れたらしい。

「それもこれもロッドくんのおかげです。あなたがいたから、わたしは生きながらえることができた。ロッドくんには一生を通して恩返ししていくつもりです」
大袈裟おおげさだなあ、そんなに堅苦しく考える必要はないぞ? レイシーの人生はレイシーのものなんだから」

 ヒラヒラと手を振りながら、俺はさとす。

「俺は恩返ししてもらいたくてレイシーを助けたわけじゃない。助けたかったから助けたんだ」
「わたしもロッドくんと同じです! 恩返ししたいから恩返しするのです!」
「……ホント、強かになったもんだよ」

 レイシーに切り返され、俺は苦笑した。

 姿勢を戻しながら、レイシーはニッコリと笑顔を咲かせる。

 レイシーがしたいって言うなら、俺が止めのは間違っているよな。

 レイシーの人生はレイシーのもの。どう生きるかはレイシーが決めるんだから。

 ただ、ジェア神殿に連れていくかどうかとは、話が別だ。

「けど、ジェア神殿に挑むのは俺の都合だ。レイシーに付き合わせるのはしのびねぇ」
「で、ですが……」
「いまの俺なら、ジェア神殿の攻略は簡単だ。レイシーの手をわずらわすまでもねぇよ」
「そ、そうですか……」

 気をつかったつもりだが、どういうわけかレイシーは、シュン、と肩をすぼめた。

 んー? なんか落ち込んでるみたいだけど、俺、失言でもしたか?

「ロッドは女心がわかってないね」

 頭をひねっていると、苦笑交じりの声が聞こえた。

 そちらに目を向けると、柔和にゅうわな顔付きの青年が歩いてくる。

 薄緑のミディアムヘアに、人の良さそうな緑の瞳。

 中背細身ちゅうぜいほそみ優男やさおとこ系イケメンだ。

「聞いてたのか、アクト」
「『ジェア神殿に挑むのは俺の都合だ』あたりからね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど」

「ゴメンよ?」とアクトが片手を立てた。

 こいつの名前はアクト・ジグリット。2週間前にセントリア従魔士学校にやってきた転校生だ。

 扱う従魔は、『デイズスネーク』という珍しいモンスター。

 コミュ力がバツグンで、転校初日からクラスに溶け込んでおり、俺やレイシーとも仲がいい。

「女心がわかってないってどういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。ロッドは罪な男だよね」
「ますますわからんのだが……」

 ジト目になると、アクトは微苦笑びくしょうしたまま肩をすくめた。

「レイシーさんに気を遣って断ったんだろうけどね? いまのロッドの対応は30点だよ」
ひっくいな! なにがいけなかったって言うんだよ! レイシーに無駄な苦労をさせたくないんだよ、俺は!」
「ほかのひとが相手なら正解だったよ? ただ、『レイシーさんに限っては』不正解なんだ」
「……意味がわからん」

 不満を込めて溜息ためいきをつくと、アクトは「そのうちわかるよ」とクスクス笑った。

「とにかく、レイシーさんは、なにを差し置いてもロッドのお手伝いがしたいってことさ。ダンジョンでの苦労より、ロッドに断られるほうがツラいんだよ」

「そういうもんか?」と首をかしげると、レイシーがコクコクコクコクと何度も頷いた。心なしか頬が赤らんでいるように見える。

 いまだに理由はわからないが、アクトの言うとおり、レイシーは俺の手伝いをしたいようだ。

 そこまで望んでいるなら、断るのは失礼だろう。

「なら、付き合ってくれるか、レイシー?」
「はいっ!」

 頬をきながら尋ねると、レイシーはヒマワリのような笑顔で頷いた。
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