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第二章

大事な大会には、最高の状態で挑むべき。――4

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「さあ、次はクロの出番だ! 『アブソーブウィスプ』!」
『ピィ……ッ!』

 クロが体をたわめ、ぐぐっと力を溜める。

 ブラックスライムの必須スキル。HP吸収効果のあるアブソーブウィスプの準備態勢だ。

『QWOOOO……!』

 負けじと、サンダーガルーダも攻撃スキルの準備をする。

 ゲイルガルーダと左右対称に、左の手のひらを突き出すモーション。雷属性の魔法攻撃スキル『サンダーボルト』の構え。

 チャージピアスをやり過ごしたユーだが、いまだにHPは1。

 そして、サンダーボルトは魔法スキルだから、『霊体状態』のユーにも通用する。

 ユーに勝てると踏んだのだろう。サンダーガルーダが口端をつり上げた。

『ピィッ!』

 サンダーボルトより早く、アブソーブウィスプが発動した。

 クロの体から、紫色の火の玉が浮かび上がり、サンダーガルーダにまとわりつく。

 サンダーガルーダは意に介さない。余裕の表情で、ユーに左手を向け続ける。

 サンダーガルーダの左手が、バチバチと放電をはじめた。

 稲光いなびかりは徐々に輝きを増し、破裂音は音量を上げていく。

 そして、チャージタイムの5秒が経過し、

『QWOOOOOOHH!!』

 サンダーボルトが発動した。

 稲光が放たれ、雷の槍と化す。

 雷槍は狙いたがわずユーへと襲いかかった。

 直撃コース。

 このままでは、ユーが戦闘不能になってしまう。

「いや、そんなこと百も承知なんだ。対策を施さないわけねぇだろ」

 焦りひとつなく、俺は指示を出す。

「『エクスディフェンス』!」
『ムゥ!』

 ユーがロングソードを盾のように構えた。

 直後、雷槍がユーを突く。

 だが、

『ムゥッ!』

 ユーのロングソードに触れた瞬間、バチンッ! と音を立ててはじかれた。

『QWOO!?』

 余裕ぶっていたサンダーガルーダの顔が強張こわばる。

 勝利を確信していたようだから仕方ないだろう。

 ユーが用いたエクスディフェンスは、先制効果を持つ、防御用の物理スキル。その効果は、『どんな攻撃を受けてもHPが減らない、防御態勢となる』だ。

『防御態勢』は、30秒経過するか、なんらかの行動をとると解除される。

 要するに時間稼ぎ用のスキルなんだが、ユーの戦法とは相性バッチリだ。

 なにしろ、バーサクリバスト直後に倒されるところを、30秒も耐えさせてくれるのだから。

 そして30秒あれば、クロがケリをつけてくれる。

『QWOOOO……!』

 動揺から立ち直ったサンダーガルーダが、次なるスキルの準備に入った。

 両腕を広げたサンダーガルーダの体を、電流が駆けめぐる。

 雷属性の範囲攻撃スキル『エレクトリックディスチャージ』のモーションだ。

 サンダーガルーダがまとう電流が、時間とともに勢いを増していく。

 だが、俺には毛ほどの恐れもなかった。

「残念だが、一手遅かったな」

 エレクトリックディスチャージのチャージタイムは10秒。

 10秒あれば充分すぎる。クロのほうが早い。

 アブソーブウィスプのHP吸収が発生。

 サンダーガルーダの体から光の粒子が浮かび上がり、宙を漂う紫色の火の玉に吸い込まれ、

『ピッ!』
『ピィッ!』

 固有アビリティ『分裂ぶんれつ』により、クロの体から分身が飛び出した。

 エレクトリックディスチャージの発動まで、あと2秒。されど2秒。

「ぶちかませ! 『サクリファイスボム』!」
『ピィィィィ……』

 クロの分身が、まばゆい光を放ちながら、ピョンコピョンコとサンダーガルーダに向かっていく。

 サンダーガルーダのまとう電流が、放たれようとするその間際まぎわ

『ピィ――――――ッ!!』

 轟音ごうおんを響かせて、クロの分身が爆発した。

『QWOOOOOOOOOOHHHH!!』

 分身の自爆攻撃をまともに食らい、サンダーガルーダが絶叫する。

 爆発の余波により、モウモウと砂煙が立ち込めるなか、

『QWOOOO……!!』

 ガクリとサンダーガルーダが膝を折り、魔石へと姿を変えた。

「よし! クロもユーもよくやったぞ!」
『ピィッ!』
『ムゥ!』

 クロとユーが、満面の笑顔で俺のもとに戻ってくる。

 クロはスリスリと俺の脚に体をすり寄せ、ユーは両手を挙げてクルクルと回っていた。まったくもって可愛いやつらだ。

 クロとユーが喜ぶ様子に癒やされながら、俺はメニュー画面を開く。



 クロ:81レベル

 ユー:78レベル



 よっし! レベルも上がった! 順調、順調!

流石さすがはロッドくんです! 快勝でしたね!」
「おう! ありがとな、レイシー!」

 駆けよってきたレイシーが、尊敬の眼差しで俺を見上げる。

 俺はレイシーにニカッと笑いかけ、地下へと続く階段を指差した。

「さあ、ダンジョン探索と行こうぜ!」
「おお――っ!」

 レイシーが意欲満々といった様子で拳を突き上げた。
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