【後日談追加】男の僕が聖女として呼び出されるなんて、召喚失敗じゃないですか?

佑々木(うさぎ)

文字の大きさ
20 / 70
第三章 本性

10年祭*

しおりを挟む
「10年祭?」

 エクムントが、城の裏手で鍋の修理をしていた。
 取っ手が外れた物、形が歪んだ物、焦げ付いてしまった物。
 それらを整え、直し、ピカピカに磨いている。

 傍にしゃがんで見ていると、椅子を一つ用意してくれた。
 
「ありがとうございます」

 礼を言って腰掛けた僕に、エクムントは10年祭について話した。

「そうそう。10年に一度、ドワーフが集まって飲み明かすんじゃが。そこにお前さんもどうかと思ってな」
「行っていいんですか?」

 ドワーフのお祭りに呼んでもらえるなんて、こんな嬉しいことはない。

「ああ、明後日なんだが始まる時間が決まったら知らせるよ」

 僕はお祭りの様子を思い浮かべ、お酒についても考えた。
 きっとこれまで呑んだことのないお酒だってあるはずだ。
 
 そこでふと、後ろに控えるグンターのことを考えた。
 僕の護衛ということは、お祭りにもついてくることになるわけで。
 それなら──。

「リディアン王子が一緒でもいいですか?」
「ん?」

 エクムントはぴたりと手を止め、目深にかぶっていた帽子を引き上げた。

「王子って……。いやいや。たとえこっちがお誘いしたところで、ドワーフの祭りになんて来ないだろうよ」

 そんなことはない、と思う。
 きっとリディアンだって、参加したいはずだ。

「一度聞いてみてもいいですか?」
「そりゃあ、わしらは嬉しいけれどもねえ」

 エクムントが何を躊躇ためらっているのかはわからない。
 僕は、10年祭の話を夜にでもしてみようと思った。
 

 
 そして、その夜。
 僕は、いつものように部屋に訪れたリディアンに、早速その件について話した。

「明後日、ドワーフのお祭りがあるんです」
「ああ、10年に一度の祭りだったか」

 やっぱりリディアンは知っていたらしい。
 僕は頷いてから続けた。

「リディも一緒にどうですか?」
「……一緒に?」

 リディアンは、怪訝そうに眉根を寄せ、僕に真意を聞くように問い返す。
 そんな顔をするほどのことなんだろうか。
 僕は、詳しく説明することにした。

「ドワーフの10年祭には、近親者だけではなく付き合いのある人を呼ぶ習わしがあるそうなんです。エクムントさんが僕を誘ってくれたので、リディもどうかなと思って。ドワーフのお酒、飲んでみたいって言っていたでしょう?」

 リディアンは、珍しくキョトンとした顔つきになる。
 もしかしたら、王子という身分だと、そういう場には参加しにくいのだろうか。

「俺も参加していいと、エクムントが言ったのか?」
「ええ、そうです」

 エクムントといい、王子といい。
 この反応は、何なんだろう。

「わかった。予定を空けておくから、時間が決まったら教えてくれ」

 リディアンはそう言って話を終わらせ、僕を抱き寄せた。

「じゃあ、始めようか」
「……お手柔らかに」

 あまりに激しく濃厚なキスをされ過ぎて、この間は気を失いかけた。
 酸欠になったんじゃないかと思ったほどだ。
 リディアンは、くすくすと笑いながら顔を寄せ、鼻先にキスをしてから唇を触れ合わせた。

「タカト、今日はお前が上に乗ってくれ」
「……僕はあまり、得意じゃないですよ」
「知っている。だから、させたいんだ」

 仕方なく、僕は仰向けに寝るリディアンの上に乗った。
 乱れた髪を梳き、覆いかぶさって耳元やこめかみに唇を押し当てる。
 そして、微笑むリディアンの唇に唇を重ねた。
 すべて、リディアンに教わったキスの仕方だ。
 キスを仕掛けていると、リディアンの手が僕の背中を撫で、背筋を指先で辿った。

「ん……っは……んん」

 くすぐったくて身をよじったけれど、リディアンの手は去らない。
 僕は、上になっても翻弄されて、キスどころじゃなくなった。
 やがてリディアンが上下を入れ替えて、改めてキスを仕掛けてくる。
 僕は、その身体の下で、リディアンの思うように貪られ、身体をくすぐられた。



 それから2日後の夕暮れ時。
 僕とリディアンは、エクムントの寄越した案内状を手に、街の外れにある区域に来た。
 グンターも同行して、ビアホールのような大きな建物の前で馬車を降りる。
 馭者は近くの空き地で待機することが決まり、もう一人護衛が立った。
 
「あら、いらっしゃい」

 ビアホールの入り口には、エプロンをした女性が数人いて、僕たちを見ると招き入れた。
 招待状を出して見せると、大ぶりの木製のジョッキを手渡される。

「これを持って行ったらお酒を注いでもらえるから。好きに飲んでちょうだい」

 僕はお礼を言った後、リディアンと顔を見合わせた。
 招待状から、王子だとわかっているんだろうけれど。
 リディアンは特に気にした様子もなく、グンターと共に建物の内部に行く。
 
 中を見回すと、縦長のテーブルが縦横無尽に並べられていて、ドワーフたちが既に飲んだくれていた。もしかしたら遅れてしまったのではと思ったくらいに、できあがっている。
 
「タカト!」

 名前を呼ばれて振り返ると、エクムントが遠くで手を振っているのが見えた。

「行きましょう」

 リディアンとグンターを連れてそっちに向かうと、エクムントは帽子を取った。

「ようこそ、リディアン様」
「お招きありがとう。エク爺さん」

 二人はそう言って笑い合い、エクムントは僕に言う。

「席はこっちに用意した。ここに座ってくれてもいいし、ドワーフの輪の中でもいい。好きに座ってくれ。王子にもそう言っておくれよ」
「はい、わかりました」

 そうか。エクムントとリディアンは言葉が通じないんだっけ。
 僕が話の内容を伝えると、リディアンは頷いてから笑った。

「せっかく来たから、みんなと座りたい。まずは酒を取りに行きたいと伝えてくれ」

 エクムントはリディアンの言葉に喜びを露わにし、僕たちに会場内を案内した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき
BL
 仕事帰りにマンホールに落ちた森川 碧葉(もりかわ あおば)は、気付けばヌメヌメの触手生物に宙吊りにされていた。 「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」  通りすがりの銀髪美青年に助けを求めたことから、回らなくてもいい運命の歯車が回り始めてしまう。  異世界からきた聖女……ではなく聖者として、神聖力を目覚めさせるためにドラゴン討伐へと向かうことに。王様は胡散臭い。討伐仲間の騎士様たちはいい奴。そして触手生物には、愛されすぎて喘がされる日々。  どうしてこんなに触手生物に愛されるのか。ピィピィ鳴いて懐く触手が、ちょっと可愛い……?  更には国家的に深刻な問題まで起こってしまって……。異世界に来たなら悠々自適に過ごしたかったのに!  異色の触手と氷の(天然)騎士様に溺愛されすぎる生活が、今、始まる――― ※昔書いていたものを加筆修正して、小説家になろうサイト様にも上げているお話です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒(https://x.com/cacaotic)さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

処理中です...