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第三章 本性
10年祭*
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「10年祭?」
エクムントが、城の裏手で鍋の修理をしていた。
取っ手が外れた物、形が歪んだ物、焦げ付いてしまった物。
それらを整え、直し、ピカピカに磨いている。
傍にしゃがんで見ていると、椅子を一つ用意してくれた。
「ありがとうございます」
礼を言って腰掛けた僕に、エクムントは10年祭について話した。
「そうそう。10年に一度、ドワーフが集まって飲み明かすんじゃが。そこにお前さんもどうかと思ってな」
「行っていいんですか?」
ドワーフのお祭りに呼んでもらえるなんて、こんな嬉しいことはない。
「ああ、明後日なんだが始まる時間が決まったら知らせるよ」
僕はお祭りの様子を思い浮かべ、お酒についても考えた。
きっとこれまで呑んだことのないお酒だってあるはずだ。
そこでふと、後ろに控えるグンターのことを考えた。
僕の護衛ということは、お祭りにもついてくることになるわけで。
それなら──。
「リディアン王子が一緒でもいいですか?」
「ん?」
エクムントはぴたりと手を止め、目深にかぶっていた帽子を引き上げた。
「王子って……。いやいや。たとえこっちがお誘いしたところで、ドワーフの祭りになんて来ないだろうよ」
そんなことはない、と思う。
きっとリディアンだって、参加したいはずだ。
「一度聞いてみてもいいですか?」
「そりゃあ、わしらは嬉しいけれどもねえ」
エクムントが何を躊躇っているのかはわからない。
僕は、10年祭の話を夜にでもしてみようと思った。
そして、その夜。
僕は、いつものように部屋に訪れたリディアンに、早速その件について話した。
「明後日、ドワーフのお祭りがあるんです」
「ああ、10年に一度の祭りだったか」
やっぱりリディアンは知っていたらしい。
僕は頷いてから続けた。
「リディも一緒にどうですか?」
「……一緒に?」
リディアンは、怪訝そうに眉根を寄せ、僕に真意を聞くように問い返す。
そんな顔をするほどのことなんだろうか。
僕は、詳しく説明することにした。
「ドワーフの10年祭には、近親者だけではなく付き合いのある人を呼ぶ習わしがあるそうなんです。エクムントさんが僕を誘ってくれたので、リディもどうかなと思って。ドワーフのお酒、飲んでみたいって言っていたでしょう?」
リディアンは、珍しくキョトンとした顔つきになる。
もしかしたら、王子という身分だと、そういう場には参加しにくいのだろうか。
「俺も参加していいと、エクムントが言ったのか?」
「ええ、そうです」
エクムントといい、王子といい。
この反応は、何なんだろう。
「わかった。予定を空けておくから、時間が決まったら教えてくれ」
リディアンはそう言って話を終わらせ、僕を抱き寄せた。
「じゃあ、始めようか」
「……お手柔らかに」
あまりに激しく濃厚なキスをされ過ぎて、この間は気を失いかけた。
酸欠になったんじゃないかと思ったほどだ。
リディアンは、くすくすと笑いながら顔を寄せ、鼻先にキスをしてから唇を触れ合わせた。
「タカト、今日はお前が上に乗ってくれ」
「……僕はあまり、得意じゃないですよ」
「知っている。だから、させたいんだ」
仕方なく、僕は仰向けに寝るリディアンの上に乗った。
乱れた髪を梳き、覆いかぶさって耳元やこめかみに唇を押し当てる。
そして、微笑むリディアンの唇に唇を重ねた。
すべて、リディアンに教わったキスの仕方だ。
キスを仕掛けていると、リディアンの手が僕の背中を撫で、背筋を指先で辿った。
「ん……っは……んん」
くすぐったくて身を捩ったけれど、リディアンの手は去らない。
僕は、上になっても翻弄されて、キスどころじゃなくなった。
やがてリディアンが上下を入れ替えて、改めてキスを仕掛けてくる。
僕は、その身体の下で、リディアンの思うように貪られ、身体をくすぐられた。
それから2日後の夕暮れ時。
僕とリディアンは、エクムントの寄越した案内状を手に、街の外れにある区域に来た。
グンターも同行して、ビアホールのような大きな建物の前で馬車を降りる。
馭者は近くの空き地で待機することが決まり、もう一人護衛が立った。
「あら、いらっしゃい」
ビアホールの入り口には、エプロンをした女性が数人いて、僕たちを見ると招き入れた。
招待状を出して見せると、大ぶりの木製のジョッキを手渡される。
「これを持って行ったらお酒を注いでもらえるから。好きに飲んでちょうだい」
僕はお礼を言った後、リディアンと顔を見合わせた。
招待状から、王子だとわかっているんだろうけれど。
リディアンは特に気にした様子もなく、グンターと共に建物の内部に行く。
中を見回すと、縦長のテーブルが縦横無尽に並べられていて、ドワーフたちが既に飲んだくれていた。もしかしたら遅れてしまったのではと思ったくらいに、できあがっている。
「タカト!」
名前を呼ばれて振り返ると、エクムントが遠くで手を振っているのが見えた。
「行きましょう」
リディアンとグンターを連れてそっちに向かうと、エクムントは帽子を取った。
「ようこそ、リディアン様」
「お招きありがとう。エク爺さん」
二人はそう言って笑い合い、エクムントは僕に言う。
「席はこっちに用意した。ここに座ってくれてもいいし、ドワーフの輪の中でもいい。好きに座ってくれ。王子にもそう言っておくれよ」
「はい、わかりました」
そうか。エクムントとリディアンは言葉が通じないんだっけ。
僕が話の内容を伝えると、リディアンは頷いてから笑った。
「せっかく来たから、みんなと座りたい。まずは酒を取りに行きたいと伝えてくれ」
エクムントはリディアンの言葉に喜びを露わにし、僕たちに会場内を案内した。
エクムントが、城の裏手で鍋の修理をしていた。
取っ手が外れた物、形が歪んだ物、焦げ付いてしまった物。
それらを整え、直し、ピカピカに磨いている。
傍にしゃがんで見ていると、椅子を一つ用意してくれた。
「ありがとうございます」
礼を言って腰掛けた僕に、エクムントは10年祭について話した。
「そうそう。10年に一度、ドワーフが集まって飲み明かすんじゃが。そこにお前さんもどうかと思ってな」
「行っていいんですか?」
ドワーフのお祭りに呼んでもらえるなんて、こんな嬉しいことはない。
「ああ、明後日なんだが始まる時間が決まったら知らせるよ」
僕はお祭りの様子を思い浮かべ、お酒についても考えた。
きっとこれまで呑んだことのないお酒だってあるはずだ。
そこでふと、後ろに控えるグンターのことを考えた。
僕の護衛ということは、お祭りにもついてくることになるわけで。
それなら──。
「リディアン王子が一緒でもいいですか?」
「ん?」
エクムントはぴたりと手を止め、目深にかぶっていた帽子を引き上げた。
「王子って……。いやいや。たとえこっちがお誘いしたところで、ドワーフの祭りになんて来ないだろうよ」
そんなことはない、と思う。
きっとリディアンだって、参加したいはずだ。
「一度聞いてみてもいいですか?」
「そりゃあ、わしらは嬉しいけれどもねえ」
エクムントが何を躊躇っているのかはわからない。
僕は、10年祭の話を夜にでもしてみようと思った。
そして、その夜。
僕は、いつものように部屋に訪れたリディアンに、早速その件について話した。
「明後日、ドワーフのお祭りがあるんです」
「ああ、10年に一度の祭りだったか」
やっぱりリディアンは知っていたらしい。
僕は頷いてから続けた。
「リディも一緒にどうですか?」
「……一緒に?」
リディアンは、怪訝そうに眉根を寄せ、僕に真意を聞くように問い返す。
そんな顔をするほどのことなんだろうか。
僕は、詳しく説明することにした。
「ドワーフの10年祭には、近親者だけではなく付き合いのある人を呼ぶ習わしがあるそうなんです。エクムントさんが僕を誘ってくれたので、リディもどうかなと思って。ドワーフのお酒、飲んでみたいって言っていたでしょう?」
リディアンは、珍しくキョトンとした顔つきになる。
もしかしたら、王子という身分だと、そういう場には参加しにくいのだろうか。
「俺も参加していいと、エクムントが言ったのか?」
「ええ、そうです」
エクムントといい、王子といい。
この反応は、何なんだろう。
「わかった。予定を空けておくから、時間が決まったら教えてくれ」
リディアンはそう言って話を終わらせ、僕を抱き寄せた。
「じゃあ、始めようか」
「……お手柔らかに」
あまりに激しく濃厚なキスをされ過ぎて、この間は気を失いかけた。
酸欠になったんじゃないかと思ったほどだ。
リディアンは、くすくすと笑いながら顔を寄せ、鼻先にキスをしてから唇を触れ合わせた。
「タカト、今日はお前が上に乗ってくれ」
「……僕はあまり、得意じゃないですよ」
「知っている。だから、させたいんだ」
仕方なく、僕は仰向けに寝るリディアンの上に乗った。
乱れた髪を梳き、覆いかぶさって耳元やこめかみに唇を押し当てる。
そして、微笑むリディアンの唇に唇を重ねた。
すべて、リディアンに教わったキスの仕方だ。
キスを仕掛けていると、リディアンの手が僕の背中を撫で、背筋を指先で辿った。
「ん……っは……んん」
くすぐったくて身を捩ったけれど、リディアンの手は去らない。
僕は、上になっても翻弄されて、キスどころじゃなくなった。
やがてリディアンが上下を入れ替えて、改めてキスを仕掛けてくる。
僕は、その身体の下で、リディアンの思うように貪られ、身体をくすぐられた。
それから2日後の夕暮れ時。
僕とリディアンは、エクムントの寄越した案内状を手に、街の外れにある区域に来た。
グンターも同行して、ビアホールのような大きな建物の前で馬車を降りる。
馭者は近くの空き地で待機することが決まり、もう一人護衛が立った。
「あら、いらっしゃい」
ビアホールの入り口には、エプロンをした女性が数人いて、僕たちを見ると招き入れた。
招待状を出して見せると、大ぶりの木製のジョッキを手渡される。
「これを持って行ったらお酒を注いでもらえるから。好きに飲んでちょうだい」
僕はお礼を言った後、リディアンと顔を見合わせた。
招待状から、王子だとわかっているんだろうけれど。
リディアンは特に気にした様子もなく、グンターと共に建物の内部に行く。
中を見回すと、縦長のテーブルが縦横無尽に並べられていて、ドワーフたちが既に飲んだくれていた。もしかしたら遅れてしまったのではと思ったくらいに、できあがっている。
「タカト!」
名前を呼ばれて振り返ると、エクムントが遠くで手を振っているのが見えた。
「行きましょう」
リディアンとグンターを連れてそっちに向かうと、エクムントは帽子を取った。
「ようこそ、リディアン様」
「お招きありがとう。エク爺さん」
二人はそう言って笑い合い、エクムントは僕に言う。
「席はこっちに用意した。ここに座ってくれてもいいし、ドワーフの輪の中でもいい。好きに座ってくれ。王子にもそう言っておくれよ」
「はい、わかりました」
そうか。エクムントとリディアンは言葉が通じないんだっけ。
僕が話の内容を伝えると、リディアンは頷いてから笑った。
「せっかく来たから、みんなと座りたい。まずは酒を取りに行きたいと伝えてくれ」
エクムントはリディアンの言葉に喜びを露わにし、僕たちに会場内を案内した。
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