【後日談追加】男の僕が聖女として呼び出されるなんて、召喚失敗じゃないですか?

佑々木(うさぎ)

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第三章 本性

蒼穹の泉

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「ここの樽が蜂蜜酒。こっちがこの間のポブク酒。炭酸水で割ることもできるから、好みを言ってくれればいい」
「煉水で、割る?」

 リディアンは驚いたようで、すぐにそれを注文した。

「グンターさんはどうしますか?」
「オレは、残念ながら飲めません」

 アルコールが駄目なわけじゃなく、護衛のためだろう。

「なら、ミテンのサイダーを出してやる」

 エクムントは、ミテンのジャムに炭酸水を注ぎ入れた。

「ほらよ」

 それでも、最初は拒んでいた。
 でも、リディアンが飲んでいるのに、自分が警戒して飲まないのもと思ったんだろう。
 僕とリディアンに勧められて、最後には口にしていた。

「……っ美味い!」
「だろう?」

 エクムントが得意げに胸を張り、周りにも笑いが広がった。

 僕たちは、ドワーフの輪の中に入り、次々に運ばれてくる料理を食べた。
 見たこともない料理も多く、特にソーセージやハムといった、アデラ城では出されたことのない肉料理もあった。
 リディアンももちろん、食べたことがなかったようで、目を瞠りながらも端から口に入れていった。

 こんな場所でも、リディアンの食べ方はきれいで、こういうところに王子らしさが出るのかもしれないと感じた。僕たち以外にもぽつぽつと人の姿はあったけれど、やっぱりリディアンは注目の的だ。

 服装は、華美ではないけれども、質がいいのは一目でわかってしまう。
 お忍びで来ても、忍びきれないのは、もうどうしようもない。

「煉水は、こんなに美味しいものなんだな」

 一通り食べたところで、王子はぽつりとそう言った。
 エクムントに通訳すると、何度も大きく頷く。

「そうさ。これでもっと低地で汲めれば、言うことないんだがなあ」

 そこまで言ってから、リディアンの方へと椅子を引き寄せ、エクムントは手招きした。
 何か内緒の話でもあるのかと僕も近寄ると、耳打ちしてくる。

「王子に、炭酸の水脈が見つけられないか聞いてくれないか?」
「ええ!?」

 突然そんなことを頼まれて、僕は驚いてしまう。
 エクムントにほらほらと急かされて、僕はちらりと傍に控えるグンターを見る。
 きっと、心の読めるグンターなら、リディアンの力については既に知っているはずだ。
 それなら、ここで隠すこともない。

「エク爺さん、何だって?」
「リディアン王子に頼みごとがあるそうです」

 僕はそこで声を潜めた。

「炭酸の水脈を見つけていただきたいと」
「……っ!?」

 リディアンは驚いた様子で、エクムントを見た。
 まさか、自分の力を知られているとは思わなかったとでもいうように。

 リディアンには、水の能力がある。
 雨を降らせることも川の氾濫を抑えることもできる。
 水の力で空気を浄化させ、土地を潤し、肥沃な大地を生み出すことも。
 本当に圧倒的で、絶大な力を有していた。

 驚きを隠せないリディアンを、エクムントはじっと見つめる。

「いい能力だ。この国を根底から支えられる」
「僕もそう思います」

 エクムントの言葉を肯定し、僕はリディアンの返答を待った。
 どういう答えを出すつもりなのか。

 今更ここで、力を否定することはできないはずだ。
 そんな能力はないと言ったところで、嘘であることはエクムントにすぐに看破されてしまう。

 たっぷり5分は沈黙を続けたところで、エクムントは肩を竦めた。

「隠したいのなら、わしらが見つけたことにしてもいい。ぜひ、位置を教えてほしい。あとはわしらでやれる」

 僕がその言葉を伝えると、リディアンは否定も肯定もせずに立ち上がった。
 そして、建物の外へと歩いていく。
 もしかして、怒らせてしまったのだろうか。

 無言で帰るつもりなのかと、僕とエクムントは後を追った。もちろんグンターもリディアンを追いかける。

 リディアンは、外に出ると建物の裏手へと向かった。
 岩肌の見える斜面を登っていき、小高い丘に立つ。
 そして、大きく両腕を広げた。

 一体何をと思ったところで、身体が光り出した。
 足元から頭の天辺まで、全身を包み込むように青く光が揺らぐ。その光は徐々に大きく強くなり、キンと耳鳴りがした。

 次の瞬間。
 ドドンと地響きがし、地中から空に向けて、勢いよく水柱が上がった。

「うおっ」

 エクムントが低い声を上げ、グンターがリディアンに駆け寄る。
 剣を抜き、身構えるグンターに、王子は言葉を掛けた。

「何ともない。煉水を掘り出しただけだ」

 水柱はしゅわしゅわと音を立て、やがて膝丈になるくらいに落ち着いた。
 リディアンはくるりとエクムントを振り返り、微笑みながら頷いた。

「あとは好きに使ってくれていい」

 呆然としていたエクムントは、僕を介して言葉を聞いて、深々と腰を折るほどに頭を下げた

「ありがとうございます。リディアン様」

 その後ろにいた数人のドワーフもそれに倣い、次いで拍手と歓声が沸き起こる。

 僕は丘を登り、リディアンに近付いて、その手を取った。

「すごい、リディ! 僕からも、感謝します」
「リディ……?」

 グンターが呟くようにそう言って、僕とリディアンを見比べた。

「これ以上、騒ぎになる前に、帰ろうか」

 リディアンは苦笑してそう言ったため、僕たちはエクムントにお別れを言った。

「ではまた城で」
「本当にありがとうございました」

 僕たちは、エクムントに見送られながら祭り会場を後にした。

 それから数日後、その場所は「蒼穹そうきゅうの泉」と名付けられたと聞いた。
 蒼穹──リディアンの瞳の色を元に付けられたのだろう。
 でもその時には、由来を知る者は極一部しかいなかった。
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