【後日談追加】男の僕が聖女として呼び出されるなんて、召喚失敗じゃないですか?

佑々木(うさぎ)

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第五章 黎明

始まりの歌***

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「タカト」

 遠くで僕の名前を呼ぶ声がする。
 僕はここにいると手を振ろうとするも、腕が重くて上げられない。
 まるで、水中で浮力と戦っているみたいに、思ったように動けない。

 どうしよう。
 僕はどうなってしまうんだろう。

「……だれ、か」

 周りに人はいないのかと聞いてみると、唇に押し当てられる。
 薄っすら目を開けて、自分がキスされているのだとわかる。
 啄むだけの優しいキスをし、頬や耳に落として、僕の頭を撫でる。

 覆い被さった相手の顔を見て、僕はホッとした。

「リディ……」

 名前を呼ぶと、リディアンは微笑んで頷いた。
 落ち着いてくると、唇だけではなく素肌の重なりを感じ取る。
 温かく滑らかな肌が心地良い。
 この香りを僕は知っている。
 背中を抱き寄せようと思ったけれど、指一本動かせない。

 少し身じろいだところで、中の存在に気付いた。
 身体の奥深くまで入り込んでいる熱。
 意識した途端に中がそれを締め付け、快感が湧き起こる。

「……っん……は……」

 呼吸を乱すと、額や目元にキスをされた。

「大丈夫。力を抜いて」

 柔らかな声に頷き、詰めていた息を吐く。

「そう、いい子だ」

 さらりと髪を梳いて、頬の輪郭を指が辿っていく。
 僕は、間近に迫る青い瞳を見返した。
 でも、視界が霞んで、よく見えない。
 瞬きすると、目元から涙が零れ落ちた。
 
「タカト、つらい?」

 つらくはない。
 リディアンの体温は気持ちがいいし、触れてくる指先も心地がいい。
 身体の節々が痛むけれど、そんなことは些細なことだ。
 僕は生きていて、リディアンを感じている。
 こんなに幸せなことはない。

「もう少し馴染んだら魔力を注ぐから、つらかったら言ってくれ」

 魔力を注ぐ?
 意味がよくわからなかったけれど、リディアンに任せればいい。
 僕が頷くと、リディアンはゆっくりと動き出した。

「ん……っあ……」

 じわじわと身体の奥底が熱を帯び、全身に伝播していく。
 目を閉じても光を感じ、乾いた大地に水が浸透していくように力が潤っていく
 身体が喜び、細胞が活性化しているみたいだ。
 
「……きもち、いい」

 うっとりと呟くと、リディアンは吐息で笑う。

「続けるよ」

 ゆったりと腰を使い、リディアンが中を行き来する。
 形を覚えさせて、馴染ませていく過程が、こんなに気持ちいいなんて初めて知った。
 感覚が鋭敏になっているのかもしれない。
 時間をかけて交わりは続き、やがて腕が持ち上がるようになる。
 僕は、リディアンの背中に腕を回して抱き寄せた。
 耐えられないほどの熱ではなく、リディアンが加減してくれているのがわかる。
 ゆっくりと少しずつ魔力が注がれて、心地良さに声が漏れる。

「ん……あ……は……っあ」

 腕のいいマッサージ師に施術してもらっているみたいだ。
 それでも、だんだんと身体に熱が澱のように溜まっていき、奥底に溜まった快感に震え始めた。

「り、でぃ……」
「そのまま感じていて。──出しては駄目だよ」

 僕が頷くと、リディアンの動きが徐々に激しくなった。
 鋭く突き入れ、奥を穿ち、小刻みに刺激される。

「あ……っああ……ぅ……は」

 リディアンの動きに合わせて身体が揺れ、僕は縋って啼いた。
 深々と入り込み、抉られたかと思うと、浅いところで動かれる。
 抜けるほどに腰を引き、焦れて動いたところで、また鋭く突き入れられる。
 足先まで快感が走り、ガクガクと身体が震えた。

 このまま達するかと息を詰めて快感を追っていると、不意に引き抜かれた。
 ずるりと出ていく感覚に声を上げ、リディアンがあやすようにキスをする。
 そして、僕を俯せにして、尻を突き出させた。

 呼吸がしやすいように慎重に身体の向きや伸ばした手を調整し、乱れた髪を撫でる。
 尻を割り開き、リディアン自身をあてがい、僕が身じろいだところで一気に突き入れた。

「あう……っあ……ああ……っ」

 途端に目の前が白濁し、身体が跳ねる。
 何が起きたのかを僕が理解する前に、激しい律動が始まった。

「……駄目……っリディ……うごか、ないで……っ」
「大丈夫だ。そのまま、俺にすべてを委ねて」
「は……っあう……っ」

 シーツを手繰り寄せて啼き、前に逃げようとしたけれど、腰骨を掴まれて引き戻される。
 何度も何度も出し入れされて、その度に僕のモノがシーツで擦られる。
 自らも尻を振り、背中を反らせて喘いだ。
 気持ち良くて、もっとして欲しいという本能と、やめてもらわなければという理性がせめぎ合う。

 このままでは、僕は壊れておかしくなる。
 喘いでいるうちに飲み込めない唾液が顎を伝った。

「ああ……っあ……いや、だ……は……っああ」
「タカト……落ち着いて。気持ちいいことしかしない」

 耳元で囁かれて、身体がぶるりと震える。
 尾てい骨から背骨を通って、脳天まで痺れるようだ。
 快感に侵食されて、途切れ途切れに言葉を伝える。

「リディ、変にな……る……からっ」
「いいよ。なっても」

 手に手を重ねて握り込み、リディアンは僕のうなじにキスをする。

「イく……も、う……っ」
「駄目。もう少し、我慢して」

 リディアンは僕のモノをぎゅっと握って射精を遮り、尚も腰を使って動き続ける。

「ほんと……に……駄目、……ゆるし……っ」
「中にいる俺を感じて。そう、もっと食んでいい」

 きゅうきゅうと中が締まり、リディアンの形がありありとわかるようになる。

「あ……っああ……」

 内部がひくひくと蠢く度に、得も言われぬ快感が身体中を駆け巡る。
 込み上げる射精感を我慢できず、僕はモノを握って塞き止めるリディアンの手を掴んだ。

「放し……おねが、……いっ」

 首を振って快感をやり過ごし、必死に願って許しを乞う。

「もう少し。あとちょっとで満たされる」

 リディアンは動き続け、僕は啼いているしかない。

「ああ……っあ……っく……ああっ」

 肉を打つ音がするほどにリディアンは動き、僕は射精することしか考えられなくなった。

「イ、きたい……っリディ……あう……っ」
「これで、いい。一緒にイこう」

 僕は何度も頷き、喉を反らした。

「う……っく」

 リディアンの熱が中に放たれ、身体に衝撃が走る。

「ひあ……っああ」

 そこで、手が離されて、僕はようやく達した。

「あう……っあ……ああ」

 射精は長く続き、数度に分けて僕は出した。
 びくんびくんと身体が跳ねて、その度に中のリディアンの形をと感じ取る。
 リディアンは、僕の中に出し尽くして、背中を撫でてキスをした。
 そして、そこでグッと腰を突き入れたため、僕は上擦った声が出た。

「いや……っリディ」
「大丈夫、これで終わりだ」

 リディアンが頭を撫でてきて、僕は身体の力を抜いた。
 意識が揺蕩い、もう何も言えない。
 眠りに落ちる狭間に、リディアンの声がしたけれど、僕は答えることはできなかった。



 その日から、僕はしばらく寝込んだ。
 リディアンの魔力がしっかりと身体に吸収され、自分のものとなるまでに時間が必要だった。

 滾々と眠り、ようやく目が覚めた時には、身体の痛みは引いていた。
 目覚めも良くて、前よりもすっきりしゃっきりしたように感じたくらいだ。

 ベッドの上で運ばれてきた食事を平らげる姿を見て、リディアンは驚いた顔をした。

「タカトの強靭な魂に、俺はいつも驚かされる」

 なんだか、あまり褒められている気はしなかったんだけれど。
 僕は、数日で調子を取り戻して、ベッドから起き上がった。

「オイゲンから、商品が届いていた」

 身支度を済ませて、食堂に向かうと、リディアンがそう言った。渡されたのは、しっかりとラベルの貼られた炭酸飲料水だ。
 その商品の名は、シュリカ。
 スラファン・シュリカの略称であり、元となった古代語から付けたという。
 シュリカには、幸福の笛の音。始まりの歌という意味があるらしい。
 
「いい名前だな」
「そうですね」

 僕はシュリカの注がれたグラスを手に取り、一口飲んだ。
 ほんのりと甘いシュリカは、たしかに幸福の始まりの味がした。



 こうして、ピクスの蔓延は事前に防がれ、浄化は終わりを迎え、事態は決着した。
 国民には、マティアス王太子のおかげでピクスの蔓延が防げたのだと伝えられた。
 マティアスは、力をすべて使い切り、亡くなったことにされた。
 誰もがマティアスの犠牲に感謝し、失われたことを哀しみ、鎮魂の祈りを捧げた。

 真実を知る者は少数しかおらず、誰も語りはしないだろう。

 その頃、僕が召喚されてから100日目のお祝いが差し迫っていて、その準備に追われていた。国の重要人物だけではなく、諸国からも国賓として人を招き、僕をお披露目する形だ。

 僕が準備に明け暮れていた真っ只中、王は突然宣言した。

「100日祭と同日に、立太子の礼を執り行う」と。

 ついに、リディアンは正式に王位継承権第一位である王太子となる。
 おかげで、僕もリディアンも多忙を極め、急ピッチで準備をすることになった。

 立太子の礼を宣言されたその日から、世間はある話題で持ち切りになった。

「リディアン王子は、誰を妃に選ぶのか」
「お妃候補となるのは、どこの姫か」

 密かに巷の賭けの対象にもなっていたらしい。
 僕はいつの間にか、お妃選びの渦中にいて、噂に翻弄されて初めて実態を知ることとなった。
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