【完結】殺人ゲームの主人公のお前に、俺は人殺しをさせない

佑々木(うさぎ)

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第二章 ゲームのシナリオ

転がる運命

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 俺たちの傍まで来たクロエは、はあはあと息を乱していた。
 そして、俺に視線を寄越し、嬉しそうに笑う。

「こんにちは。こんなところでセルジュさんに会えるなんて、とても嬉しいです」

 会うというか、俺を見かけて飛んできたという感じだと思うが。
 それにしても、たった一度会っただけの俺を、この人混みの中でよく見つけたものだ。
 つい感心しそうになったが、隣からの視線を感じて、俺はサロモンの存在を思い出す。
 このタイミングで、俺たちだけ話し続けるのは不自然だ。
 現に今、さっさと紹介しろと言わんばかりの視線を俺に向けている。
 仕方なく、俺はサロモンにクロエを紹介した。

「こちらは、クロエ・ラ・トゥール。この間転入してきたアレンの妹だ」
「初めまして、クロエです」

 クロエは、そこでようやく気付いたといった体で、サロモンに頭を下げた。

「俺は、サロモンだ。それより、どんな関係なんだ?」
「どんなって……。だから、アレンの妹だよ」

 すると、サロモンは緑の瞳を細め、ポンと俺の肩に手を置く。

「なら、いい」

 その反応に、俺はハッとした。
 そうか。俺とクロエが既に何らかの関係があると思ったのか。
 それなら、ここで関係を匂わせて、牽制した方が良かったか。
 つい舌打ちしそうになったが、この場は早く収めて、二人を引き離すに限る。
 そう思った矢先に、クロエは俺に訊いてきた。

「アレンが、今日の放課後、部活の見学に行くと言っていましたが、私も行っていいですか?」

 ドクンと心臓が跳ね、そのまま止まってしまったかに思えた。
 サロモンがいるこのタイミングで、なぜそれを訊ねたのか。
 顔が盛大に引きつりそうになり、俺は何とか持ちこたえようと表情を作りながら言葉を探す。もちろん、ここは断るべきだ。サロモンと食事に行くから、部室には行けない。だから、見学は今度にしてくれ、と。だが、そうすると、今度はサロモンがいる日に部室に現れるかもしれない。もしそうなったら、今ここでサロモンと食事に行くこと自体が徒労に終わる。
 俺が考えている間、クロエはじっと俺を見つめ、サロモンは俺とクロエを見比べている。
 周囲の取り巻きまで、こちらの様子を窺っているようだ。
 早く答えなくては。これ以上待たせたら、余計な勘繰りをされてしまう。

 こうなったら、サロモンの誘いを後日に延期し、今日はクロエに付き合った方がいいだろう。
 俺は、サロモンに謝罪をし、経緯と理由を説明することにした。

「悪い、サロモン。そういうわけだから──」

 そこまで言った俺に被せるように、サロモンは言う。

「それなら、先に見学に行って、終わったら食事に行けばいい。俺も付き合う」
「……は?」

 サロモンの言葉に、俺は思わず険のある眼差しを向けてしまった。
 少し驚いたようなサロモンを目にして冷静さを取り戻し、俺は二人に向けて言う。

「サロモンを付き合わせるのは悪いし、食事は今度仕切り直そう」
「いいって、俺も同じ部活なんだ。久しぶりに行くのも悪くない」

 どうしてこうなったのか。
 何とか回避しようとするも、サロモンは譲らない。
 そんなにもうクロエを気に入ってしまったのかと、俺は狼狽えていた。

「じゃあ、そういうことで」

 サロモンは話はついたとばかりに、手を振って取り巻きたちと共に離れていった。
 そして、その場には俺とクロエが残される。
 二人きりにされても、特に話すことはない。
 だが、何も言わずに別れるのもと、とりあえず話を振ってみる。

「クロエはこれからここで授業か?」
「はい、そうなんです。まさかセルジュさんに会えると思っていなかったので、嬉しいです」

 そう言ってはにかむ顔から、自分に向けられる好意を感じる。
 既にクロエは、俺に興味を抱いているようだ。
 一体俺の何に惹かれたのか。
 まさか、これはシナリオの効果なんだろうか。
 嫌な予感がして、俺は必死に打ち消した。

「俺もこれから授業なんだ」

 そう言って、離れていこうとしたところで俺は思い至った。

「そういえば、部室の場所はわかるのか?」
「いいえ、兄からちゃんと聞いていなくて」

 それなら、場所がわからなくて迷ってしまうだろう。
 共同棟への行き方も、この教室からだとわかりづらい。

「授業終わりに迎えに来るから、ここで待っていてくれ」
「いいんですか!?」

 クロエはきらきらと目を輝かせ、今にも飛び跳ねんばかりに喜んでいる。
 もしかして、これはまずい展開なのか?
 経験値が低い俺でも、何かやらかしてしまったのは感じられた。
 だが、ここでやっぱりやめるとは言えない。
 それに、先に部室に着いたクロエにサロモンが接近するよりは、俺がクロエを見張った方がマシだろう。たぶん。

「ああ、なるべく早めに来る」
「ありがとうございます、セルジュさん」

 そうしているうちに予鈴が鳴り、俺は「また後で」とだけ言ってクロエと別れ、教室まで足早に向かう。

「遅かったね」

 教室には既にエリゼがいて、俺の分の席を用意してくれていた。

「いろいろあったんだ」

 何か運命に導かれているというか、低い方へ転がって言っている気がする。
 まるで、無理矢理ゲームのシナリオ通りに進行させられてしまっているみたいだ。

 だが、ゲームとひとつだけ違う点がある。
 アレンが部室に来ることだ。
 ゲーム内では、アレンはソートグラフ部に事件の前は顔を出していない。
 これは、俺が図書館でアレンに会うという、ゲームにはなかったイベントが発生したためだ。
 アレンがいれば、また部内の空気は変わるかもしれない。
 もう、そこに期待するよりほかはない。

「今日の部活、楽しみだね」

 エリゼは俺の心境を知ってか知らずか、ニコニコと笑いながらそう言った。

「……そう、だな」

 とにかく、この最初の局面を切り抜けなくては。
 今やらなければいけないことは、サロモンとクロエを接近させないこと。
 そのためには、俺はどう動けばいいか。

 授業の開始のベルが鳴り、俺は黒板に目を向ける。
 まずは授業だ。これで成績まで下がったら目も当てられない。
 俺は、先生の言葉に聞き入って、一旦は問題を棚上げした。
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