【完結】殺人ゲームの主人公のお前に、俺は人殺しをさせない

佑々木(うさぎ)

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第二章 ゲームのシナリオ

穏やかな日々を願う

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 午前の授業が終わり、講義室から学生が一斉に外に出ていく。
 俺も本とノートをカバンに詰め、出ていこうとした。

「今日もサロモンと食べるの?」

 俺のカバンを掴んで引き留め、エリゼは問い掛けて来た。

「あいつが来ればの話だ」

 アレンとクロエの歓迎会を兼ねた食事会の翌日から、サロモンはレザンで俺を見かけると寄ってくるようになった。俺の向かいの席に座り、きれいな所作で昼食を摂るのが、ここ2週間ほどの日課となっている。
 これまではエリゼと二人きりだったが、サロモンが加わったことで、他の取り巻きたちも近くで食べるようになった。その中にはもちろん、オルリアンもいる。

「エリゼは、騒がしいのが嫌いなのか?」
「そうじゃ……ないけど」

 10人越えの生徒が集団で食べているから、騒々しいのは間違いない。
 物静かなエリゼには辛いのかと思ったが、そこは否定する。

「僕は……セルジュと食べられるのなら、なんだっていい」
「そうか」

 俺と食べたところで、特に何かあるわけではないだろうに。
 少し大げさじゃないかと感じた。

 二人で講堂を出て、レザンに向かって歩く。
 シランの樹はすっかり葉だけになり、初夏の到来を告げている。
 中庭の噴水も稼働するようになった。
 水魔法で動く仕組みらしいが、魔法陣の類は見られない。
 そのうち俺にも使えるようになるのだろうか。
 俺は、水を迸らせて虹を作る噴水を見上げて歩いた。

 レザンの中は混雑していたが、目立つ一群はすぐに見つかった。
 俺は軽く手を上げて挨拶を済ませると、トレイに置いた皿に料理を取った。

「この野菜炒め、美味そうだな」
「うん。ちょっと辛そうだけど、パンには合うかも」

 エリゼの声は弾み、さっきまでの重苦しさがなくなった。
 俺はホッとして、皿いっぱいに料理を盛り付け、サロモンたちの席へと近付いた。

「その食事量で、どうして軽いんだ? おかしいだろう」
「おかしくはないんじゃないか?」

 サロモンは俺の体重が軽いと言うが、実際は軽い方ではないはずだ。
 背負ってみたら予想より軽かった、というだけだろう。

「何か運動しているのか?」
「あー……剣術のクラスくらいだ」

 それも週に2回だけだ。

「その割にしっかり筋肉が付いている」

 サロモンは俺の方へ手を伸ばし、肩のあたりを触る。

「毎日欠かさず、素振りはしている」
「意外と真面目なんだな」

 俺とサロモンが話している間、周囲は沈黙している。
 会話内容を聞くためのようだが、興味があるなら話に入ってくればいい。
 そんなにサロモンを神聖視する理由は何なのか。
 
 顔が整っているのは認める。
 切れ長の緑の瞳、高い鼻梁。
 金色の髪は左側が前下がりになっていて、片目が隠れるくらいに長い。
 胸板が厚く、俺よりも頭一つ背が高い。

 あとは、たしか侯爵家の子息なんだったか。
 仕草に気品を感じなくもない。
 
 取り巻きとの間には、家柄のしがらみでもあるのかと、俺は想像を巡らせる。
 いずれにせよ、平民の俺とは無関係だ。
 これ以上、身分の落ちようもない。
 
 俺は、サロモンの会話に付き合い、食べ終わると席を立った。

「今日も部活に来るのか?」
「ああ、顔を出す予定だ」

 サロモンは俺に確認すると、満足気に頷く。
 今日も出るつもりなのだとわかり、俺は複雑な思いを胸に、授業に向かった。

 午後の授業は、水魔法の剣術授業だ。
 先週の授業の終わりに、火魔法の生徒との合同演習をするという話だった。
 エリゼも火魔法の使い手だが、魔剣を扱う適性はない。
 誰か組めそうな相手はいるかと、生徒たちが集合するのを待っていると、3列目の一番端に、黒髪の人物が立っていた。
 向こうも俺に気付いたらしく、一瞬目を瞠った。

「では、2人ずつ組め」

 予想通り先生がそう言ったため、俺はアレンに近付いた。

「良ければ一緒に組まないか?」
「僕もそう言おうと思っていたよ」

 アレンは目元を綻ばせ、位置についた。
 剣を抜き、互いに向かい合ったことで、俺はアレンの強さを感じ取る。

 隙がないのもそうだが、魔剣が美しい。
 火の使い手らしい、深紅の剣、まるで烈火のように燃え盛るオーラが見える。
 対する自分は、雪の結晶を纏った白刃だ。

 剣先を向け合ったところで、背中にぞくりと悪寒が走る。
 基本を確かめるための剣戟のはずだが、アレンは殺気のような鋭い気配を漂わせている。

「はじめ!」

 先生の号令と共に、刺突が繰り出された。俺はそれを宙に薙ぎ払い、こちらからも切りつける。剣の混じり合う音がやけに重い。アレンの剣が描く軌跡は多種多様で、合わせるので精いっぱいだ。
 一瞬たりとも気を抜けない。
 額に汗が浮かび、背中に冷や汗が伝った。

 それほどに切羽詰まった状況だというのに、俺はつい見惚れてしまっていた。
 なんという美しい剣筋だろう。
 俺を射る赤い双眸の煌めきにすらも、目を奪われる。

 激しい剣戟は長く続き、あれほど素振りをしているというのに、手が痺れて来た。
 このままでは、柄を握る力がなくなると思ったところで、旗が上がった。

「そこまで!」

 アレンはぴたりと動きを止め、剣を収めた。

「ありがとうございました!」

 互いに礼をしてから、アレンに近付いて感想を述べる。

「本当にきれいな剣だった。アレンとは思えない」
「君の剣もだ。性格に似合わず鋭いんだな」

 どういう意味だ。
 俺はただ苦笑して、タオルを取りに行った。
 汗を拭きながら、これまでのことについて訊ねてみる。

「師範がよほど強かったのか。どこかで師事したのか?」

 すると、突然赤い瞳が翳った。
 聞いてはいけないことだったのかと、自身の質問内容を反芻する。
 そういえば、図書館で出逢った時も、オーラを褒めるとあまりいい顔をしなかった。
 未だに途中転入の理由も知らない。
 恐らくアレンは、過去について話したがらない質なんだろう。

「忘れてくれ。──それより、この後だが部活に行くか?」
「そのつもりだ。練習をしなくては」

 ここのところ、ベルナール部長から念写の仕方を教わっていたようだが、まだコツが掴めていないようだ。俺もせっかくの機会だからと、アレンたちと一緒に基礎から学び直した。
 俺とアレン、クロエ、それにサロモンが初歩的な練習を繰り返している中、エリゼは黙々と完成に向けて手を動かしていた。

「なら、一緒に部室に行くとするか」

 俺が誘うと、アレンは口端を上げて頷く。
 当初危惧していたようなことはまだ起きていない。
 サロモンはクロエに近付かず、程よい距離を保っている。
 クロエ自身も、特に俺に何かするわけでもない。

 このまま平穏な部活動を続けられたらいい。
 俺は、部室への道をアレンと辿りながら、そう願っていた。
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