ハンゲツ王国ものがたり

立菓

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王宮訪問の前に

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 王宮での食事会の日、エドガーはギザギザ山で、ゆっくりと余暇よかを過ごすことになった。


 一方で、トーコとオズワルドは、その日の夜中にヒノキ村から馬車に乗った。
 馬車は、王国の公共交通機関である。


 ヒノキ村からイシヅミ町は、デコボコした上に、迂回うかいする細い道が多い。
 スギ村まで行き、違う馬車に乗り換えると、ちょうど日の出が見え始めていた。イシヅミ町の家々が遠くに見え始める頃、多少は道がなだらかになった。

 そして、エドガー専用の部屋よりも、何十倍も大きな門の前、つまりイシヅミ町の入口にようやく着いたのだった。



 朝の早い時間であったが、門は空いていて通れる状態だった。
 大きな欠伸あくびをしていた右側の門番に、トーコは「おはようございます」と丁寧に挨拶あいさつすると、彼はピクッとして、ぎこちなく挨拶を返しながら、トーコの顔を見た。

(あー。きっと王家の血筋の人だって、すぐに分かったんだな。ふう……)

 緊張混じりのめ息をつきながら、オズワルドと並んで、白い石で造られた建物が続く町の中に入っていった。
 コケコッコーッと元気に鳴くにわとりの声が、民家のあちこちから聞こえてきた。


 普段のイシヅミ町は、とにかく人が多い。住居も店も密集しているが、住民の数もすごい。
 町内にいくつかある市場では、たまに近隣諸国の商人も見かける。


 トーコは、この町が昔から苦手だ。
 無数の人々が居れば、フードをかぶっていたとしても、自分の髪とが注目されてしまう。

 その一方で、トーコは周りの人々の容姿《ようし》を気にしてしまう。
 小麦色、金色、赤色……の髪。にび色、琥珀こはく色、あお色、みどり色……の眼。トーコから見れば、この国の人々の姿は、色付けされた石の彫刻のように美しい、と感じる。ものすごく圧倒されてしまうくらいだ。


 とはいえ、今は人々が起き始める時間帯だ。早朝のイシヅミ町は、歩いている人はまばらだった。
 そのくらいなら、自分に視線を送られるのも、自分の容姿に劣等感を感じてしまうのも、最小限で済む。

(そんなことよりっ、オズワルドさんがめてくれたことを、意識した方がいいよねっ? ……うんっ!)

 今さらになってしまったが、トーコは、愛する人が自分の容姿をたたえてくれた記憶を思い出し、『気にしない、気にしない』と自分に言い聞かせながら、歩き続けていた。


 王宮の裏側が見えてきた辺りに来て、大通りから右に曲がり、細い道に入った。
 すると、突き当たりにある、周辺の民家よりも比べ物にならない程、敷地が広い屋敷に着いた。
 両開きの門を抜けると、トーコはオズワルドのあとをついて行く。

 敷地の東側、小さな家の前に着くと、「ここだ」と言った後、オズワルドはノックをした。
 家の中から、男性らしき声が聞こえると、オズワルドはドアを開けたのだった。

「お久しぶりです。朝早くに、スミマセン……」

「おお、気にしなくていいぞ。おはよう、オズワルド」

 家の中に居たのは、中年の夫婦だった。トーコは前々から聞いていたが、旧ニレ村消滅後に、オズワルドを育ててくれた伯父の家族だ。
 子どもが居ない夫婦であり、大きな武術教室を経営しているらしい。

 どうやら親戚しんせきの夫婦は、ダイニングルームで、朝食を済ました直後らしい様子のようだ。

「おはようございます。はじめまして、トーコと申します。
 ……あっ、父は王弟なので、私の顔はご存知だった、でしょうか?」

「そうね。でも、お近くで拝見すると、こーんな可愛かわらしい方だったとはねっ、うふふ♪」

「あ、とっ、いえっ! 食事会の関係で時間が無くて、本当に申し訳ありません……。お会いできて、良かったです」

「いやいや、またの機会にな。……婚約者殿、よくぞ来てくれた」

「「それでは、失礼します」」

 オズワルドもトーコも、親切に対応してくれた夫婦に、礼儀正しく別れの挨拶をした後、足早に大通りの方に戻っていた。
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