ハンゲツ王国ものがたり

立菓

文字の大きさ
28 / 42

収穫祭(2)

しおりを挟む
 トーコが後宮の部屋に戻った直後、遠くからカン、カン、カーンッとかねが鳴る音が聞こえた。

(今、太陽が南中する頃かな。王宮前の大庭、今年も人がいっぱいだろーな……)



 トーコの心のつぶやき通り、王宮の正面の庭には、多くの人々が集まっていた。
 セイシュ目当ての者が多いが、本当は別の理由で、大庭が開放されているのだ。

 王宮の真ん前で、使用人が三回、鐘を鳴らした後、乗馬場の方からエドガーが飛んできた。
 使用人がたるに入っているセイシュを土製の容器に入れ、多くの人々に手渡しているようだ。セイシュを片手に、羽ばたきながら悠然ゆうぜんと空中を飛んでいるエドガーを見て、歓声を上げた。

 エドガー、つまり竜は、自然そのものの『神の化身』として、大地の恩恵に感謝をするために、王宮に呼ばれたのである。


 鐘を鳴らした使用人の近くに降りると、エドガーは行儀ぎょうぎ良く座った。

 すると、アイザック王がオスカーと護衛、数名の使用人を引き連れて、王宮から出てきた。
 アイザック王の一行がエドガーの隣に行くと、人々の視線は国王の方に集まった。もちろん、護衛のオズワルドも一緒だ。


 最初に、アイザック王はぎこちない表情で、エドガーに感謝の言葉を述べた。
 そして、アイザック王とオスカーは、使用人たちから植物のつるで作られた大きなかんむりを受け取った。冠は、木の実やドライフラワーで飾られている。

 二人で、首を下げたエドガーに冠を被《かぶ》せた後、アイザック王は大庭に居る人々に向けて、「それでは、収穫祭とセイシュを楽しんでくれ」と、短くスピーチをした。


 スピーチが終わると、何十人もの使用人や侍女が、巨大な皿に入った何種類もの料理と、巨大な酒器に入ったブドウ酒を、次々とエドガーの前に運んできた。

 エドガーは、それぞれのものを口に入れると、ゆっくりと味わっているようだ。
 人々の談笑が心地良い音楽のように聞こえるようで、エドガーは機嫌が良さそうだった。



 ひと仕事を終えた後、国王の一行は、サーとすぐに王宮に戻っていったのだった。
 アイザックは、歩きながらめ息をついた後、小さな声で呟いた。

「はあ……。でかすぎる顔に、鋭いと牙がなぁ……。相変わらず、アイツは何だか苦手だ」

 アイツというのは、もちろんエドガーである。
 オスカーは優しく微笑みながら、「お疲れ様でした、国王陛下」とささやいた。

「全くだ……。あの娘は、本当に変わっているっ! 『竜よりも、グレースや王宮の女たちの方が怖い』というのが、いまだに理解できん……」

「兄さん、トーコのことは別に言わなくても――」

「悪口を言った訳じゃないぞっ! グレースが、今もあの娘を冷遇しているのは知っているし、気にしているっ」

 オスカーは苦笑いをしながら、「気にしているのなら、結構ですよ」と、アイザックの真横でポツリと言った。


 オスカーと使用人たちの間に居たオズワルドは、アイザックたちの会話を真剣に聞いていたようだ。
 アイザックが婚約者のことを『変わっている』と言ったことに対して、彼は複雑な気持ちになっていた。

 しかし、ざっくばらんなアイザックが、トーコの心の傷の原因について、少しは気にかけていることも分かり、オズワルドは心の中では安堵あんどしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...