ハンゲツ王国ものがたり

立菓

文字の大きさ
29 / 42

収穫祭(3)

しおりを挟む
 後宮の部屋に戻ったトーコは、全く動く気配が無く、ベッドに腰かけていた。

(あ~……、王宮の中では毎度なかなか落ち着かないせいか、まだ、あまりお腹も空いてないみたい。うーん、どーしようかな……)

 しばらく窓の外をボケーと見ながら、物思いにふけている様子だ。
 その時、部屋の入口からノックする音がして、トーコはピクッとして驚いた。

(突然だな、誰だろう? オスカー様かなぁ……?)

 トーコは「はい……」と弱々しい声を出し、恐る恐る部屋の入口のドアを開けた。
 すると、そこにはソフィアが立っていたので、トーコは再び驚いたのだった。

「突然でゴメンね。部屋に入ってもいい?」

「……あっ、はいっ」


 部屋に入ったソフィアは、化粧台の前のイスに座ると、台の上に顔と両腕を付けながら、大きくめ息をついた。

「ああ~、すっごく疲れちゃった! 婚姻こんいんの儀の打ち合わせや準備だけじゃなくて、ミア様の話し相手にもなってたから、最近、超々忙しいのっ」

「公私とも激務なんですね……。本当にお疲れ様です。
 もし良かったら、お水どうですか? ……あっ、ダメだ……ほんのちょっとだけ、だった」

「大丈夫、ありがとっ。ミア様はカワイイし、普段は町の食堂で働き詰めだから、体力はある方なんだけど、こんなににぎやか過ぎたり、忙し過ぎたりなのは、ちょっとキツイなぁー。な~んか、いつもよりお腹空いちゃった!」

 そう言った後、ソフィアはベッドの近くに立っていたトーコに体を向けて、言葉を続けた。

「トーコちゃん、お昼もう食べた? これからなら、一緒に町の屋台を見に行かない?」

「いいですよ、分かりました」

 理由はハッキリと分からないが、ソフィアと話していたら徐々に平常心なってきて、お腹も空いてきたので、トーコは快くソフィアの誘いを受けたのだった。



 トーコとソフィアは部屋を出ると、乗馬場近くの中庭に通り、王宮の裏側から町の方に出た。
 人同士が肩がぶつかりそうなくらい、大勢の人々が行き交っている。

 人々の会話の声だけではなく、ソーセージや魚を焼いている音も聞こえてくる。広場からは、竪琴たてごとや横笛で奏でる音楽が聞こえてきた。
 本当に、ものすごい活気だ。

「……ねえ、トーコちゃん。私、昼過ぎからも用事が詰まっているから、できるだけ王宮から近い屋台で、ゴハン決めちゃっていい?」

「あ……、はいっ」

 二人は、王宮周辺の屋台を足早に回った。
 トーコは豆とチーズが入ったパンとくし焼きの魚、ソフィアは葉物野菜が練り込まれたパンと大きなソーセージを買ったのだった。



 町から離れると、トーコとソフィアは、王宮の中央にある広い中庭に移動した。
 そこには、黄色い葉のカエデだけではなく、赤くて細い葉のニシキギや、様々な色のコスモスなどの花々も咲いていた。

 トーコとソフィア以外、誰も居ないようだ。時々、建物の廊下ろうかを近衛兵が通るだけだったので、中庭は静かだった。
 二人は同じベンチに座って、肩の力を抜いて食事を取ったのだった。

「そーいえばっ。トーコちゃん、いつまで王宮に居る予定なの?」

「正直、少し迷っています……。賑やかな場所は得意じゃないので、今日の夕方には帰ろうかと思ってましたが、オズワルドさん……あっ、婚約者のヒトが、臨時で国王陛下の護衛のお仕事をしているので、少なくとも一泊はしようか、どーしようかと――」

「なら、数泊すればいーじゃないっ! 三泊くらいすれば、どこかで会えるかもだし。てーかー、私っ、トーコちゃんが早く帰っちゃったら、寂しいわっ!」

「え……、ええっ!?」

 ソフィアの予想外の言葉に、トーコは目を真ん丸にした。
 ソフィアが自分のことを好ましく思っている理由が全く分からなくて、トーコは混乱と動揺が止まらなかったようだ。

「私ね……、年上の兄弟しか居ないから、トーコちゃんのことは『妹』みたいに思っているの。……あ~、ミア様は幼いから、さすがにガッツリ親戚しんせきって感じだけどね」

 トーコよりも早く昼食を食べ終わったらソフィアは、トーコの顔を見て、目を輝かせながら微笑んだ。

「それに、トーコちゃんに初めて会った時から、貴女あなたの髪とに衝撃を受けたのっ! 確かに独特だけど、神秘的だと思ってる。私、好きよ。竜サンと同じ、黒い色……」

 ソフィアの表情と声の抑揚から、決して社交辞令では無いことが分かる。
 トーコは何だかむずがゆいような気持ちになった。しかし同時に、彼女は少しだけだが、嬉しいと感じたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...