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収穫祭(6)
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収穫祭の四日目は、朝から雨が降っていた。
イシヅミ町の通路にある屋台は一時的に撤去され、町中を歩く人は少なくなった。大半の人々は建物の中に入り、暖を取っているようだ。
また、宿屋に泊まっていた者たちも、祭りの半ばを過ぎた頃から、徐々に遠くの村々へ帰っていく。
後宮の部屋で連泊していたトーコは、今日も昼近くまで眠っていた。
昨日はオズワルドに会えたり、グレースに絡まれたりで慌ただしかった故か、いつも以上に熟睡していたようだ。
太陽が南中してから少し経った後、トーコは、ダイニングルームでソフィアとオスカーと昼食を取った。
昼食を食べている途中で、ふとトーコが外を見ると、雨が止んでいた。トゲトゲ山脈がある西の空を眺めてみると、段々と青空が広がってきているようだった。
それで、「雨に濡れないのなら、今日中にはヒノキ村に帰ろうと思います」と、トーコはオスカーとソフィアに伝えたのだった。
昼食後、トーコは乗馬場の方に向かった。
馬小屋の横に、古くなった納屋を改装して作った、屋根付きの巨大な休憩所がある。その場所の干し草の上で、エドガーが丸まって休んでいた。
トーコがエドガーのところへ行くと、エドガーは首を少し上げて、トーコを優しく見つめた。
「かしましい場所は苦手だと言っていたが、数泊したのだな。……少しは楽しめたか?」
「うん。オズワルドさんにも、何とか会えたよ!
あと、ソフィア様が気を遣って頂いて、何度か、一緒に食事したし。……あっ、それから『エドガーと同じ黒色の、髪と眼は神秘的』みたいなことをおっしゃって、すっごくビックリしたかな……」
トーコの言葉を聞いて、エドガーは目を細めて「ハハッ」と笑った。
「次期王妃は、お前のことが気に入ったのだなっ! 仲の良い親族ができて、良かったではないか」
「うん、そーだね。……日の入り前にはヒノキ村に帰ろうと思うけど、いーかな?」
「ああ、良いぞ。ヒノキ村は、徐々に晴れてくるだろう。
まあ儂も、久々に人間が多い土地に来て、空からも普段とは違う町の光景も見られて、大いに満足できたしな」
そして、昼過ぎにトーコはエドガーの背に乗って、ヒノキ村の家に帰っていった。
ヒノキ村の家の前に着くと、木々の間から薄っすらとオレンジ色の光が入ってくる時間になった。
村まで寒空の風に当たったせいか、トーコはクシャミをした。そして同時に、イシヅミ町よりもヒンヤリとして澄んだ空気に触れて、トーコは不思議な安心感に包まれた。
家の中に入ろうとした時、後ろから足音がして、トーコは驚いて振り返った。
「トーコッ……。エドガーが飛んでいたから、帰ってきたと分かったんだ。暗くなり始めてる時にゴメンッ!」
振り返った先に、リズが呼吸しづらそうにして、少しかがんでいた。きっと駆け足で来たのだろう。
「ビックリしたぁ~。……てか、リズちゃん、どーしたのっ?」
「……うん。村で配った豆だくさんのスープ、すっごく残ってて。トーコの好きなヤツなんだけど……。
旦那も帰ってきてるんだけど、私の家族だけじゃ食べ切れないから、もし良かったら、少しもらってくれない? あっ、今日の夕食が無理なら、明日でも大丈夫だよ」
トーコが「ありがとうっ!」と言った後、空腹を知らせる低い音がなってしまった。
すると、トーコの横に居たエドガーが話し始めた。
「あ~、儂は昼に、もてなしの料理を腹十分目まで食べたから、夕食は要らぬ。トーコ、リズの家で夕飯を食べたらどうだ?
……リズよ。あと、トーコを一晩泊めてくれぬか? 若い娘らが、夜に道を歩くのは良くない」
「泊まってくのも構わないよ~。トーコ、いいかな?」
「うんっ。エドガーもリズちゃんも、本当にありがとうね」
その後、エドガーはトーコとリズを乗せて、二人をリズの家まで送っていったのだった。
イシヅミ町の通路にある屋台は一時的に撤去され、町中を歩く人は少なくなった。大半の人々は建物の中に入り、暖を取っているようだ。
また、宿屋に泊まっていた者たちも、祭りの半ばを過ぎた頃から、徐々に遠くの村々へ帰っていく。
後宮の部屋で連泊していたトーコは、今日も昼近くまで眠っていた。
昨日はオズワルドに会えたり、グレースに絡まれたりで慌ただしかった故か、いつも以上に熟睡していたようだ。
太陽が南中してから少し経った後、トーコは、ダイニングルームでソフィアとオスカーと昼食を取った。
昼食を食べている途中で、ふとトーコが外を見ると、雨が止んでいた。トゲトゲ山脈がある西の空を眺めてみると、段々と青空が広がってきているようだった。
それで、「雨に濡れないのなら、今日中にはヒノキ村に帰ろうと思います」と、トーコはオスカーとソフィアに伝えたのだった。
昼食後、トーコは乗馬場の方に向かった。
馬小屋の横に、古くなった納屋を改装して作った、屋根付きの巨大な休憩所がある。その場所の干し草の上で、エドガーが丸まって休んでいた。
トーコがエドガーのところへ行くと、エドガーは首を少し上げて、トーコを優しく見つめた。
「かしましい場所は苦手だと言っていたが、数泊したのだな。……少しは楽しめたか?」
「うん。オズワルドさんにも、何とか会えたよ!
あと、ソフィア様が気を遣って頂いて、何度か、一緒に食事したし。……あっ、それから『エドガーと同じ黒色の、髪と眼は神秘的』みたいなことをおっしゃって、すっごくビックリしたかな……」
トーコの言葉を聞いて、エドガーは目を細めて「ハハッ」と笑った。
「次期王妃は、お前のことが気に入ったのだなっ! 仲の良い親族ができて、良かったではないか」
「うん、そーだね。……日の入り前にはヒノキ村に帰ろうと思うけど、いーかな?」
「ああ、良いぞ。ヒノキ村は、徐々に晴れてくるだろう。
まあ儂も、久々に人間が多い土地に来て、空からも普段とは違う町の光景も見られて、大いに満足できたしな」
そして、昼過ぎにトーコはエドガーの背に乗って、ヒノキ村の家に帰っていった。
ヒノキ村の家の前に着くと、木々の間から薄っすらとオレンジ色の光が入ってくる時間になった。
村まで寒空の風に当たったせいか、トーコはクシャミをした。そして同時に、イシヅミ町よりもヒンヤリとして澄んだ空気に触れて、トーコは不思議な安心感に包まれた。
家の中に入ろうとした時、後ろから足音がして、トーコは驚いて振り返った。
「トーコッ……。エドガーが飛んでいたから、帰ってきたと分かったんだ。暗くなり始めてる時にゴメンッ!」
振り返った先に、リズが呼吸しづらそうにして、少しかがんでいた。きっと駆け足で来たのだろう。
「ビックリしたぁ~。……てか、リズちゃん、どーしたのっ?」
「……うん。村で配った豆だくさんのスープ、すっごく残ってて。トーコの好きなヤツなんだけど……。
旦那も帰ってきてるんだけど、私の家族だけじゃ食べ切れないから、もし良かったら、少しもらってくれない? あっ、今日の夕食が無理なら、明日でも大丈夫だよ」
トーコが「ありがとうっ!」と言った後、空腹を知らせる低い音がなってしまった。
すると、トーコの横に居たエドガーが話し始めた。
「あ~、儂は昼に、もてなしの料理を腹十分目まで食べたから、夕食は要らぬ。トーコ、リズの家で夕飯を食べたらどうだ?
……リズよ。あと、トーコを一晩泊めてくれぬか? 若い娘らが、夜に道を歩くのは良くない」
「泊まってくのも構わないよ~。トーコ、いいかな?」
「うんっ。エドガーもリズちゃんも、本当にありがとうね」
その後、エドガーはトーコとリズを乗せて、二人をリズの家まで送っていったのだった。
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