33 / 42
お帰りなさい!
しおりを挟む
収穫祭の五日目になると、イシヅミ町での屋台の数は、徐々に少なくなっていく。町中を歩く人々も、多少減っているようだ。
一方で、セイシュを振る舞っていた王宮の大庭では、七日目までセイシュの即売会を行っている。
とはいえ、非常に高価な物なので、なかなか庶民には手が届かない。裕福な家柄の者しか購入することはできないらしい。
それから、祭りの五日目の夕方に、オズワルドはやっと国王護衛の仕事の区切りが付いた。
王宮で夕食を軽く取った後、夜になってオズワルドは馬車に乗り、ヒノキ村まで向かった。乗り換え以外の馬車で移動している間、彼はできる限り眠って、体を十分に休めるようにしているようだった。
オズワルドが馬車でヒノキ村に着いたのは、日の出から少し経った後である。
馬車の停留所で降りて、オズワルドは山岳警団の詰所と反対側の方向に、ゆっくりと歩き始めた。
オズワルドの行き先は、〈コモレビの滝〉横の小さな温泉だ。
温泉に着くと、オズワルドは岩の平らな部分に座り、ひと休憩した。彼はイシズミ町で買ったソーセージを挟んであるパンを出すと、滝が流れる音を聞きながら朝食を取った。
パンを食べた後、オズワルドは久しぶりに温泉に入った。今日も快晴のようで、朝風呂はとても気持ちいいに違いない。
温泉に使って、冷たい空気に触れていた体を温めると、オズワルドは一度温泉から出た。
その後、温泉横の平らな部分で仰向けになり、青空をボーと眺めたのであった。
しばらくすると、どこからかエドガーが温泉付近の上空にやって来た。
「アヤツ……。際どい部分を、丸出しのままにしおって――」
服を着ず、体の一部分を隠さずに全裸で休んでいたオズワルドを見て、エドガーは思わず呟いた。
エドガーが温泉の横まで降りると、オズワルドはすぐに気が付いた。仰向けになったまま、オズワルドはエドガーの方を向いたようだ。
「ああ、お前か……。どーした?」
「『どーした?』ではないっ! トーコが、お前の帰りを心待ちにしている。着替えたら、すぐに儂に乗れ」
「そうだな。……アイツに寂しい思いをさせたのは、気にかけている」
オズワルドは着替えると、慎重にエドガーの首の方からまたがった。
エドガーはふわりと空中へ上昇すると、「しっかり綱を掴んでいろ」とオズワルドに言った。
「了解した」
エドガーはオズワルドを乗せて、ヒノキ村の奥を目指した。
すると、ゆっくりと上空を飛んでいく途中で、エドガーは突然オズワルドに話しかけたのだ。
「トーコの祖父のような立場が故に、色々と思うことはあるが、お前のことは嫌いではない。……これからも、全力でトーコを支えていけ。あの娘を傷付けることがあれば、この儂が黙っておけぬからな」
思いもよらないエドガーの言葉を聞いて、オズワルドは目を丸くしたが、すぐに決意を込めたような真摯な顔になり、薄っすらと微笑んで答えた。
「もちろんだ、肝に銘じておく」
短い距離だったので、あっという間に上空からトーコの家と山岳警団の詰所が見えてきた。
山岳警団の広場には数人居るようで、何かを話している様子だ。エドガーが広場に近付くと、団長のアダムと三人の団員、そしてトーコの姿が見えた。
広場に着いたエドガーから降りると、オズワルドはエドガーにお礼を言った。
「礼は要らぬ」と一言言うと、エドガーはすぐに飛び去っていった。
オズワルドはトーコの横に行くと、アダムに「しばらく留守にして、すみませんでした」と伝えた。
「早く区切りが付いたんだな。良かったな、オズワルド」
オズワルドが「はい」と答えると、今度はトーコの方を見た。
「長いこと側に居られなくて、悪かったな」
「気にかけてくれて、ありがとう。お帰りなさい、オズワルドさんっ!」
満面の笑みになったトーコを優しく彼女を抱き締めると、オズワルドは「……ただいま」と囁いた。
「やっぱ、エリートが居る方が張り合いがあるねぇ~。これからも頼むよ」
ハーブがたくさん入った籠を持った、オズワルドと歳が近そうな青年が、笑いながら言った。
「オズワルドが居なくて、寂しかったんだぞっ!!」
「そーだ、そーだっ!」
次に、二十歳前後の若い団員たちが、おどけるように続けて声を出した。と言っても、オズワルドを慕っているのが、雰囲気でよく分かる。
「ヤローどもが可愛らしくワチャワチャ言うのは、止めろ……」
一旦トーコから離れると、真顔になったオズワルドは低い声でボソリと言った。
団員たちの軽やかな会話を聞いていたアダムは、自分の顎髭に触れながら爽やかに笑った。
「ハハハッ。オズワルド、今後もよろしくな」
「こちらこそ、です。……元気なので、予定を変更して、明日から業務に復帰してもいいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。ありがとねっ」
団員たちと話し終わると、オズワルドは再びトーコを抱き締めて、彼女の横髪をそっと撫でた。
「じゃ、またな。……風邪、引くなよ」
トーコが返事をするのを聞き終えた後、オズワルドは詰所の建物の中に入っていったのだった。
一方で、セイシュを振る舞っていた王宮の大庭では、七日目までセイシュの即売会を行っている。
とはいえ、非常に高価な物なので、なかなか庶民には手が届かない。裕福な家柄の者しか購入することはできないらしい。
それから、祭りの五日目の夕方に、オズワルドはやっと国王護衛の仕事の区切りが付いた。
王宮で夕食を軽く取った後、夜になってオズワルドは馬車に乗り、ヒノキ村まで向かった。乗り換え以外の馬車で移動している間、彼はできる限り眠って、体を十分に休めるようにしているようだった。
オズワルドが馬車でヒノキ村に着いたのは、日の出から少し経った後である。
馬車の停留所で降りて、オズワルドは山岳警団の詰所と反対側の方向に、ゆっくりと歩き始めた。
オズワルドの行き先は、〈コモレビの滝〉横の小さな温泉だ。
温泉に着くと、オズワルドは岩の平らな部分に座り、ひと休憩した。彼はイシズミ町で買ったソーセージを挟んであるパンを出すと、滝が流れる音を聞きながら朝食を取った。
パンを食べた後、オズワルドは久しぶりに温泉に入った。今日も快晴のようで、朝風呂はとても気持ちいいに違いない。
温泉に使って、冷たい空気に触れていた体を温めると、オズワルドは一度温泉から出た。
その後、温泉横の平らな部分で仰向けになり、青空をボーと眺めたのであった。
しばらくすると、どこからかエドガーが温泉付近の上空にやって来た。
「アヤツ……。際どい部分を、丸出しのままにしおって――」
服を着ず、体の一部分を隠さずに全裸で休んでいたオズワルドを見て、エドガーは思わず呟いた。
エドガーが温泉の横まで降りると、オズワルドはすぐに気が付いた。仰向けになったまま、オズワルドはエドガーの方を向いたようだ。
「ああ、お前か……。どーした?」
「『どーした?』ではないっ! トーコが、お前の帰りを心待ちにしている。着替えたら、すぐに儂に乗れ」
「そうだな。……アイツに寂しい思いをさせたのは、気にかけている」
オズワルドは着替えると、慎重にエドガーの首の方からまたがった。
エドガーはふわりと空中へ上昇すると、「しっかり綱を掴んでいろ」とオズワルドに言った。
「了解した」
エドガーはオズワルドを乗せて、ヒノキ村の奥を目指した。
すると、ゆっくりと上空を飛んでいく途中で、エドガーは突然オズワルドに話しかけたのだ。
「トーコの祖父のような立場が故に、色々と思うことはあるが、お前のことは嫌いではない。……これからも、全力でトーコを支えていけ。あの娘を傷付けることがあれば、この儂が黙っておけぬからな」
思いもよらないエドガーの言葉を聞いて、オズワルドは目を丸くしたが、すぐに決意を込めたような真摯な顔になり、薄っすらと微笑んで答えた。
「もちろんだ、肝に銘じておく」
短い距離だったので、あっという間に上空からトーコの家と山岳警団の詰所が見えてきた。
山岳警団の広場には数人居るようで、何かを話している様子だ。エドガーが広場に近付くと、団長のアダムと三人の団員、そしてトーコの姿が見えた。
広場に着いたエドガーから降りると、オズワルドはエドガーにお礼を言った。
「礼は要らぬ」と一言言うと、エドガーはすぐに飛び去っていった。
オズワルドはトーコの横に行くと、アダムに「しばらく留守にして、すみませんでした」と伝えた。
「早く区切りが付いたんだな。良かったな、オズワルド」
オズワルドが「はい」と答えると、今度はトーコの方を見た。
「長いこと側に居られなくて、悪かったな」
「気にかけてくれて、ありがとう。お帰りなさい、オズワルドさんっ!」
満面の笑みになったトーコを優しく彼女を抱き締めると、オズワルドは「……ただいま」と囁いた。
「やっぱ、エリートが居る方が張り合いがあるねぇ~。これからも頼むよ」
ハーブがたくさん入った籠を持った、オズワルドと歳が近そうな青年が、笑いながら言った。
「オズワルドが居なくて、寂しかったんだぞっ!!」
「そーだ、そーだっ!」
次に、二十歳前後の若い団員たちが、おどけるように続けて声を出した。と言っても、オズワルドを慕っているのが、雰囲気でよく分かる。
「ヤローどもが可愛らしくワチャワチャ言うのは、止めろ……」
一旦トーコから離れると、真顔になったオズワルドは低い声でボソリと言った。
団員たちの軽やかな会話を聞いていたアダムは、自分の顎髭に触れながら爽やかに笑った。
「ハハハッ。オズワルド、今後もよろしくな」
「こちらこそ、です。……元気なので、予定を変更して、明日から業務に復帰してもいいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。ありがとねっ」
団員たちと話し終わると、オズワルドは再びトーコを抱き締めて、彼女の横髪をそっと撫でた。
「じゃ、またな。……風邪、引くなよ」
トーコが返事をするのを聞き終えた後、オズワルドは詰所の建物の中に入っていったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~
しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。
それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること!
8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。
どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ!
「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」
かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。
しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。
「今度こそ、私が世界を救って見せる!」
失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!
剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。
イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。
小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる