ハンゲツ王国ものがたり

立菓

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伯父の心情

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 人々が家にもる寒い冬が過ぎ去ると、外が恋しくなる春が来る。
 民家等で人が育てている場所だけではなく、川沿いや山などの自然界でも、とても多くの花々が咲き乱れていく。



 ある事情でオスカーに呼ばれ、トーコが王宮に行ったのは、三月の中旬だった。
 その日は薄曇うすぐもりだったが、上着が必要無い時もあり、少し暖かった。

 毎回のように、トーコを乗せたエドガーが乗馬場近くの空地に降りてきた。
 トーコはエドガーと別れると、イシヅミ町寄りの区画に向かっていた。中庭で咲いているスイセンやクロッカス等の花々を見ながら、トーコはゆっくりと廊下ろうかを歩いていった。


 オスカーの執務室の前に着くと、トーコはドアのノックをして、部屋の中に入った。
 オスカーは、大量の書物が置いてある机の前に座っていた。彼はトーコに気が付くと、立ち上がって笑顔になった。

「久しぶりですね、トーコ。そして、お伝えするのが遅くなりましたが、婚約おめでとうございます」

「ありがとうございます。……それから、ツバキ油も代理で買って頂き、本当にありがとうございますっ」

 よくよく見ると、山のような書物の前に、黄色い透明な液体が入った三本のガラスびんが置かれている。オスカーが貿易商人から購入した、タイヨウ皇国こうこくの品物だ。

「いえいえ。……あとですね、婚約祝いの贈り物があります。受け取って頂けませんか?」

 すると、オスカーは包み紙に入っていた木製らしきくしを出して、トーコに差し出した。トーコが櫛を受け取ると、オスカーは話を続けた。

「『ツゲ』という木から作られている櫛です。……櫛の汚れを取った後、ツバキ油を塗って乾燥させると、長持ちするそうですよ」

 トーコがお礼を伝えると、オスカーは「手入れは、三ヶ月から半年が良いそうです」と補足を話した。

「……それにしても、来月には十九歳になるんですね。
 貴女あなたが王宮で暮らしていた頃は、稀有けうな外見が呼び寄せてしまった心労で、数日間、食事も取れないことが多かった時期がありましたが……。あの時は故テオドール王、私たちの父君に似た性格のジョンが、『この子は、ホントに育つのだろうか……』と随分ずいぶんと心配していましたが、無事に成長して、私も嬉しいですよ」

 その後、オスカーは「立派になりましたね、トーコ」と熱を感じる言葉を発した。
 トーコが少しだけ驚いて、「いえ、そんな――」と言うと、オスカーは再び温かい言葉を彼女に送った。

「何を言ってるのですかっ? 同じく昔に王宮暮らしをしていたオズワルドが、最近は良い意味で、変わっていたのですよ?
 以前は、常に気の抜けないような硬過ぎる顔でしたが、今は柔らかい表情がすっごく増えたんですからっ! それは……きっと貴女が、ずっと彼に優しく寄り添い続けていたからなんでしょうね……。どうか、謙遜けんそんなんてしないでください」

 トーコはぎこちなく返事をした後、彼女とオスカーは執務室を出たのだった。



 オスカーは、彼女を乗馬場の近くまで送っていった。
 トーコもオスカーも、あちこちの中庭で花が咲いているモミザの木々を何度も見ながら、目的地に向かっていた。

 二人が歩いている途中、後宮前の庭の方をふと見てみると、正装を来た多くの人々が集まっていた。
 外は太陽が南中した少し後のくらいで、薄雲の間からは青空があちらこちらで見えていた。

「……そういえば、今の時期は園遊会がありましたね」

 トーコがつぶやいた通り、名の知れた官僚や富豪たちが、とてもにぎやかに談笑しているようだった。
 きらびやかな服装をした人々の視線の先には、大きくて真っ赤なツバキの花がいくつも咲いていた。この花の種が、ツバキ油の原料になっている。

 また、初代のサミュエル王がタイヨウ皇国の友だち商人から贈れた苗木を、代々王宮で大切に育てているらしい。

「ツバキの花を見ると、タイヨウ皇国を思い出します。この国には無い花々が咲いて、季節ごとに様々なカンキツ類の実がかおっている場所に、ぜひまた行ってみたいですね……。
 今は内政で多忙ですが、落ち着いたら、タイヨウ皇国のオオキミ様にもお会いしたい。もし貴女の祖父にあたるクニタリ殿がご健在なら、貴女のことも必ずお話ししますね」

 クニタリというのは、亡くなったユーコの父親である。
 数ヶ月前に届いたアイザック王宛ての手紙には、「今年で六十歳になり、元御者もとぎょしゃだった関係で、たまに皇宮こうぐうの馬を見に来ている」と書かれていたそうだ。

「それから、貴女を見るとユーコを思い出します。雰囲気は多少違いますが、ユーコは貴女にすごく似ているんですよ?
 ほがらかで、勇敢で、そして非常に愛らしくて……。本当に、素敵な女性だったんです」

 オスカーは、義妹のユーコのことを心から慕っていた。男色なんしょくであるので恋愛感情ではなく、実の妹のように、今も想っているのだ。
 ちなみに、彼には王宮勤めの庭師である恋人が居るそうだ。



 オスカーは後宮の端まで来たところで、トーコを見送った。トーコの顔を真っ直ぐに見つめると、今度は力強く彼女に語りかけた。

「幸せになってくださいね。私やジョンはもちろんですが、ユーコもきっと願っているはずですからっ!
 それに、素晴らしいタイヨウ皇国の血を持っていることを誇りに思い、自信を持ってくださいねっ」

「……オスカー様……」

「『様』なんて、やめてくださいっ! どうか『伯父さん』で、お願い致します」

「オ……、オスカー伯父さんっ。本当にいろいろ、ありがとうございました!!」
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