【完結】生活を隠す私と、存在を隠す彼

細木あすか(休止中)

文字の大きさ
124 / 247
11

人の話はちゃんと聞くべき

しおりを挟む


 久しぶりに来たメールがこれって。

「………………」

 休憩時間。控室でSNSを確認していたら、あの人からメールが来た。数ヶ月待って、やっと。
 でも、それは望んだものじゃない。

「……嫌だ。嫌」

 画面に名前が出た時、すごく嬉しかった。
 やっと帰ってきてくれたのかと思った。

 でも、違った。

「……やだよぅ」

 きっと、「わかった」って言わないといけないんだ。そうすれば、好きな人は困らない。

 でも。でも。

 嫌だ。絶対嫌。
 私には、彼が居ないとダメなの。何やっても、彼に褒められることばかり考えてる私には。
 絶対に、側に居ないとダメなの。

 他の女が居てもいいから。
 そのくらいなら、全然気にしないから。
 だから…………。

『次の撮影の日、終わったら時間ください』

 絵文字も顔文字もない、真面目な文面。
 いつもと違うから、言いたいことはすぐにわかった。

「これきりなんて、言わないで……」

 控え室の端に座る私は、スマホに涙を一滴溢す。


***


 チャイムが鳴った。

「終わったあ!」
「夏休みだ!」

 それは、期末テスト最後の教科、「数学」が終わったことを知らせるチャイム。
 同時に、教室中……いや、隣のクラスからも歓声が聞こえるわ。

「燃え尽きた~」
「お疲れ様。どうだった?」

 私も例外なく、テスト終わりを喜んだ。答案用紙が回収された途端、なんだか全身の力が抜けちゃった。
 マリなんか、顔がもう夏休みだわ。水着渡したら、勝手に海へ行っちゃいそう。

「名前はちゃんと書けたよ」
「……そう、偉いわね」

 本当、マリってばよくうちの高校受かったよね!
 補習になったら、どうするんだろう? 夏休みに学校行くとか、絶対無理。

「青葉ー。佐渡が呼んでるぞ」
「ありがとう」

 なんて喋っていると、青葉くんが理花に呼ばれたみたい。まだHR終わってないのに、青葉くんはいつもの黒いリュックを背負って教室を出て行ってしまった。……お母さんが宣伝してるリュックだったんだよね。未だに実感ないや。
 でも、誰にも言わないから安心しててね。

「お待たせ、佐渡さん」
「青葉くん! 行こう」
「う、うん」

 ……あ。理花、青葉くんの腕取った。
 青葉くん、大丈夫かな。少し肩が上がってる。怖いんだろうな。
 助けた方がいい? でも、怖いなんて私の想像じゃないの。違ってたら、相手に失礼だわ。

「…………」

 いえ。
 あれは、怖がってる。
 顔がこわばってるもの。
 髪の毛で見えないけど、私にはわかる。

 それに気づいた私は、マリとの会話を止めて立ち上がる。……借りてた筆記用具を返す話にしようかな。それなら、自然な会話ができるはず。

「青「鈴木ー。3年の先輩が呼んでる」」
「え?」

 私が青葉くんに声をかけようと近づくと、後ろから眞田くんに呼び止められた。
 彼の指差す方を見ると、そこには、にっこり笑ってこちらに手を振っている牧原先輩の姿が。タイミング悪いわね、本当!

「あ、ありがとう」
「おう。知り合いか?」
「……一応ね」

 でも、あまり近づきたくないんだけど。呼ばれたなら、行かないと不自然だよね。

 牧原先輩の待つ後ろの入り口に行くと、すぐに声をかけてくる。

「やっほー、梓ちゃん」
「……お疲れ様です」
「テスト終わったから、迎えに来たよ」
「……!?」

 牧原先輩って、表情豊かだよね。 
 なんて考えていたら、視界が真っ黒になった。

「梓ちゃん、どこ行く?」
「ちょっ……せんぱっ」
「んー? 付き合ってるんだから、これくらいいいでしょ?」
「……は?」

 視界が真っ黒になったわけじゃなかったわ。

 私は、いつのまにか牧原先輩の腕の中に居た。それがわかった瞬間、腕に力を入れて引き離そうとしたけど、うまくいかない。

 いやいや、それより!!
 今、牧原先輩なんて言った?

「え、昨日告白したらOKくれたでしょ? 忘れちゃったの?」
「…………え?」

 衝撃的な言葉に、全身の力が抜けていく。
 今、先輩なんて言った?

「だーかーら。梓ちゃん、僕の彼女になったんだよ」
「…………嘘」

 その言葉で、教室中がシーンとなってしまったこと。いえ、廊下に居た人たちも含めて、静かになってしまったこと。更にその光景を、どこかへ行こうとしていた青葉くんと理花にも、振り返って見られていたこと。

 頭が真っ白になってしまった私は、何一つ気付かず牧原先輩の腕の中で呆然と立ち尽くした。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

処理中です...