201 / 247
15
シャッター音
しおりを挟む「おめでとう、梓」
「理花……。あの、えっと」
「いいの。もう、吹っ切れてるから。素直に受け取ってよ」
「……ありがとう」
体育館ばきを忘れた私は、生徒会室まで借りに行った。当然、理花と会うのは避けられない。
応援すると言っておきながら自分が付き合ってしまった罪悪感に、私は言葉を濁す。
でも、理花は何も感じていないかのように、校章と同じマークの付いたスリッパを渡してくれるの。それを受け取ると、
「よそ見しちゃダメだからね」
と、笑いながら言ってきた。
意味のわからない私は、その言葉に首を傾げる。
「青葉くんを不安にさせたら、私が横から奪いに行くから」
「……うん」
「おめでとう、梓」
私が頷くと、理花は再度お祝いの言葉を言ってくれる。
不安なのは、私も同じ。
なんて、理花に言っても仕方ない。だから、今は素直に頷くだけにしよう。
「スリッパ、返却もここ?」
「うん。入り口に専用のボックス置いとくから、そこによろしく」
「わかった」
「今度、話聞かせてね」
「え?」
「ソラくんにケーキ奢らせて、女子トークしよ」
「……うん。ありがとう」
理花なりに、気を遣ってくれてるんだよね。
私は、「ごめんね」の言葉を飲み込んで、そのまま体育館へと向かう。
これが終われば、夏休みだ。
***
やっと、長ったらしい集会が終わった。
「青葉くん! 夏休み!」
「ちょっ!? 走らない!」
「え? わっ!?」
言わんこっちゃない!
こっちに向かって走ってきた鈴木さんは、教室へ帰る途中の廊下で盛大にこけそうになる。もちろん、その前に俺が抱きかかえたから転んでないけど。
スリッパ履いてるんだから、走ったら転ぶって。
俺に抱かれた鈴木さんは、顔を真っ赤にしながら腕にしがみついている。無論、周囲の男子からの視線が凄まじい。
もうね、なんというか殺意に近い。覚悟してたけど、本当に鈴木さんは男子に人気だ。初の試みでやったナチュラルメイクも、好評らしい。
「大丈夫?」
「う、うん。ありがとう……」
「怪我ないならいいよ」
とりあえず、後ろで写メってる男子を睨んでおこう。……よしよし、スマホをしまった。これ以上、鈴木さんの写メは撮らせないぞ。どこぞの18禁先輩みたく、おかずにされたらたまったもんじゃないから。
「青葉くん、怒った? ごめんね」
「怒ってないよ。転ばないように手を繋ぐ?」
「……いい」
「あはは。真っ赤」
さっき、人目があるところではこういうことしないって言ったもんね。わかってるよ。
でも、今日は特別視線とかカメラとかすごいから、俺の隣に居てね。嫉妬で狂いそう。
***
「……」
やっぱり、青葉くんはすごいな。
気づいてないみたいだけど、女子からの熱烈すぎる視線を集めすぎてる。見渡す限りの女子が、青葉くんを見てるって感じで。
全校集会を終えて教室に帰る途中なんだけど、私が数えられる範囲で30回はシャッター音が鳴ってる。それ以上は、数えてもね。
……やだな。みんな待ち受けにするのかな。それとも、他校の知り合いに回したり? これ以上、青葉くんが有名になっちゃうの嫌だな。
なんて。
私って、こんな心が狭い人だったの? 余裕って知ってる?
青葉くんは、私を選んだのよ。だから、私が不安になることないのよ。そう思うも、不安なものは仕方ない。
瞬きをした隙に、誰かに取られちゃう気がして仕方ないの。それくらい、今日の青葉くんは視線を集めすぎている。
「青葉くん」
「なに?」
「……なんでもない」
手を繋ぎたいけど、さっき人がいるところではこういうことをしないと言った手前、提案するわけにはいかないな。それに、こんなみんなが見てるところで手を繋ぐとか、私すっごく性格悪い人みたいじゃない。「この人取らないで」的な。
そうなりたいわけじゃない。
「後で、ぎゅーしようね」
「……うん」
悶々と考えながら歩いていると、青葉くんが小さな声でつぶやいてきた。
どうやら、彼にはお見通しらしい。私の考えていることくらい、筒抜けって感じ。さすが、青葉くんだな。
「おーい、青葉ー」
「眞田くん、どうしたの?」
後ろから来た眞田くん、東雲くんと合流して、私たちは教室へと戻っていく。私もふみかたちと帰れば良かったかな。……でも、マリが居るから行かない方がいいか。
教室に着くまでも、女子の視線がなくなることはない。無論、シャッター音もね。
この音、トラウマになりそうだわ。
10
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる