204 / 247
16
時間が解決してくれること
しおりを挟む「……で? お泊まりしたわけだ」
「うん。ちょっと上向いて」
本番を1時間前に控えた俺は、控室で五月にメイクをしてもらっていた。
今日はバラエティだから、光の反射がすごくてな。テカリ防止で、少し暗めのファンデーションを塗ってもらってんだ。目元をブラシのほっそい毛がサフサフするもんだから、会話してないと吹き出しそうになる。
こいつ、昨日も梓の家に泊まったらしい。泊まりすぎじゃね?
まあ、梓とは寝てないな。どうせ、透さん辺りと布団並べて寝たんだろ。
「はああ、羨ましい」
「……奏と好きな子被るの初めてだね」
「あー、うん。そうだな」
「いつも好み分かれてたもんね」
「……お前には勝てねえ」
「はい、顔動かさない」
なんだ、気づかれてんのか。もしかして、だから余裕なかったとか?
五月の顔を覗こうとしたけど、すぐに天井を向かされてしまった。畜生、これじゃあ見えねえじゃんか。早く終わらせてくれ。
「鈴木さんが、奏が良いって言ったら譲ってあげる」
「……んなこと言うかっての」
「言うかもしれないじゃん」
「思ってないクセして口にすんな。ムカつく」
「怒んなって。今日、鈴木さんからお前の分の夜食も預かってるから」
「じゃあ、許す」
多分、梓の中ではオレと五月はセットなんだろう? 扱い的にそんな感じがするよ。
五月はそれが嫌なんだよな。オレは嬉しいけど。
はー、わかりやすいやつ。オレがイラつかないのは、そこに要因がある。
「初カノできて対応が良くわかってないお前が可愛い」
「バッ!? んなこと……!」
「あ! 今ぜってぇファンデズレた」
「お前のせいだ!」
オレが茶化すと、すぐに反応を見せる五月はやっぱり可愛い。
こういう人間味のある役、オレにも回ってこねぇかなあ。不安になりながらも、その人のことしか考えらんないような感じの。
今なら、完璧に演じられる……というか、心から演じられると思う。
「そんなお前に、朗報だよ」
「何」
五月は、ヨレたファンデをパウダーで修正しつつ、オレの言葉に耳を傾ける。
廊下、騒がしくなってきたな。司会者が到着したか?
「美香さん、海外の事務所から引き抜き来てるって」
「へー、すごいね」
「だから、メイクとヘアメイク担当を海外向けに変えるんだと。今の事務所の社長がノリノリだって。お前に指名来ることなくなるから良かったな」
「……マジ?」
「マジ。だから、現場が被らなきゃ会う頻度減ると思う」
「……はああ」
さっき高久さんから聞いた話題を伝えると、五月の腕に入ってた力が一気に抜けた。……今度は、パウダーズレたとかやめろよ?
今のこいつにとって、1番怖いのは暴走気味の美香さんが梓を攻撃することだろ。それの可能性が少しでも減ったんだから、安心するよな。
それに、五月は美香さんにちゃんと「関係を止めたい」と言って謝っている。だから、あとはあっちの気持ちの問題なんだ。これ以上、五月が何かしないといけないことはないし、したところで以前のように攻撃されるだけ。
「あれからは、何もされてねぇんだろ?」
「うん……。奏は?」
「オレもされてねぇ。廊下ですれ違ったけど、あっちは気づいてなかったし」
「そっか。……そっちに集中して、少し俺のことについてクールダウンしてくれるといいな」
「だな」
あとは、時間が解決してくれると良いんだが。
オレ的には、美香さんにはカウンセリング通って欲しいけどな。以前のようなサバサバした彼女に戻って欲しい。けど、面と向かって言うような間柄じゃねぇしなあ。変な噂がたっても嫌だ。
「ほい、できたよ。どう?」
「完璧。自撮りして梓に送ろう」
「は!?」
「夜食のお礼」
「……勝手にどうぞ」
彼氏の許可がおりたので、そうさせてもらいます。
返信、なんて来るかな? オレの予想は、オレのこと褒めた後に「青葉くんのメイクすごい」、かな。当たってたら、明日の朝食こいつに奢ってもらおう。
「なあ、五月」
オレの予想は、結構当たるんだぜ?
***
「梓ちゃーん」
「なによー」
リビングで宿題をしていると、ニコニコ顔のパパが寄ってきた。
この顔は、頼み事をしたい時の顔だわ。嫌な予感がする。
「今日の夜、五月くん居ないんだろう?」
「居ないわよ、仕事だから」
「じゃあ、部屋ちょっと汚くして良い?」
「いいけど……。明日粗大ゴミだから?」
「そう。使わなくなった棚を捨てる予約したのさっき思い出して。急いでやるから、ちょっと外出ててもらって良いかい」
「はあい。じゃあ、夕飯の買い物行ってくるー」
「助かる。あの棚で、捨てたくないものある?」
「特に。私の物はその隣に入ってるし」
「はいよ」
良かった、変な頼み事じゃなくて。
勉強道具を片付けた私は、そのまま冷蔵庫へと移動する。食材何買おうかな。大根とにんじんと玉ねぎがあるから、奮発してぶり大根でも作る? お味噌汁と肉じゃがでも良いな。
冷蔵庫の中身をチェックしていると、早速ガシャンガシャン聞こえるわ。ありゃあ、結構時間がかかりそうね。
10
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。
みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。
同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。
そんなお話です。
以前書いたものを大幅改稿したものです。
フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。
六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。
また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。
丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。
写真の花はリアトリスです。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる