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ごめんなさいが出来る仲
しおりを挟む『五月にメイクしてもらった! これからバラエティ撮影!』
玄関を出たところで、ちょうどスマホが鳴り出した。パパからの追加の買い物連絡かと思ってすぐ開くと、奏くんからだったわ。
タキシード姿で、ウィンクしてる奏くんの写メ付き。これは、即保存しなきゃ。後で、双子にも見せよう。
『格好良い! 奏くんの格好良さと、青葉くんのメイクの腕はどっちもピカイチだね! 今から本番? ファイト!!』
ってな感じで、送信っと。
本当、待ち受けにしたいほど格好良い!
なんか、右側に変な影があるんだけど、これって青葉くんだよね。……昼まで一緒にいたのに、すでに寂しい気持ちしかない。青葉くんに会いたいなあ。
バラエティってことは、今日流れるのかな? そうだったら、今日の夜は双子にテレビ譲ってもらって奏くん観よう。青葉くんのメイク、どんな風に映ってるのかすごく気になる。
「早めに帰って、ご飯作ろう」
私は、スマホをポシェットの中に入れて早足でスーパーへと向かう。
今日は双子が居ないから、お菓子を買っていってあげようかな。
***
スーパーは、いつも通り混み合っていた。というか、いつもより混んでる気がする。
もしかして、これも夏休みの影響? 子どもが家にいるから、お昼ご飯とか作らないといけないもんね。大変だ。
「卵のタイムセール開始します」
「お一人様1袋、みかん詰め放題です!」
「パンが焼き上がりました」
私、スーパーのこういう放送好きなんだよね。なんか、お祭り! って感じがしてさ。テンションが上がるの。
特に、パンが焼けた時に鳴るベル! あれを聞くと、自然とお腹が空いてくるんだよね。わかるかな?
「あっ、ごめんなさい」
「こちらこそ」
カートを押しながら野菜を見ていると、前から来た人とぶつかっちゃった。混んでるから、急いで見ないとダメね。失敗、失敗。
葉物とトマトを買って、冷水パスタ作っても良いな。でも、ご飯残ってるから今日はやっぱり肉じゃがが良いかなあ。
なんて考えながら商品棚を見ていると、見知った後ろ姿を見つける。
「……マリ?」
そこには、高校のジャージ姿のマリがいた。お魚コーナーで、切り身のある冷蔵室を眺めている。
話しかけても良いかな。……でも、いつもと違う服だし、話しかけられても困る? というか、避けられてるからダメ?
嫌がられたらどうしよう。そう思いながらも、私はマリに近づいた。
「マリ」
「!? あ、梓……。あっ!」
今話しかけなかったら、夏休み終わった後に友達に戻れない気がしちゃって。私は、話しかけるという選択肢を取った。
やっぱり、服装気まずかったよね。今日、私は時間あったから外行きの服着てるから余計、マリってば気にしちゃってる。
「何買うの?」
「えっと……シャケ。どれが良いかわかんないの」
「甘いやつ? 塩?」
「塩」
「だったら、これが良いよ。シャケは、皮に皺が寄ってなくて身が盛り上がってるのが新鮮なんだって」
「あ、ありがと……」
マリと久しぶりに話した。ちゃんと会話できていることが、嬉しい。
でも、マリはそう思ってないかも。気まずそう。もう離れた方がいいかな。
「じゃあ、私はこれで「待って!」」
私が人の流れに乗ろうと冷蔵室前から歩き出すと、それをマリが止めてくる。一瞬立ち止まっちゃったけど、後ろの人の邪魔になるからそのまま冷蔵室の棚に戻った。
「あ、あの。まだ、買うものあって、その……」
「一緒に選ぼうか?」
「う、うん。教えてほしい、です」
「いいよ」
「……ぅっ」
「え、ちょ!?」
笑いかけながら返事をすると、マリがカゴを片手に泣き出した。周囲の目が気になっちゃった私は、一瞬たじろぐもすぐにポシェットからハンカチを出して涙を拭く。
「今日ねぇ……あのねぇ、お母さん仕事で居なくて洗い物して、セール遅れるって言われて、部屋着で出てきてぇ……」
「セールの時間って決まってるから、おしゃれする時間ないよね」
「……うぅぅ」
「私もいつもそうだから、わかるよ。その辺に放ってある服着て行くの」
「……ごめんね、梓」
ズビズビと音を立てながら泣くマリは、必死になって言葉を吐き出してくる。それを受け止めると、小さな声で謝罪を言ってきた。
「私もごめんね。ここ、邪魔になっちゃうから、買い物しちゃおう。何買うの?」
「……バターとじゃがいも」
「ムニエルだ」
「えっ、何でわかったの?」
私たちは、笑いながら乳製品コーナーへと歩いて行く。
良かった。
話しかけて、良かった。
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