【完結】生活を隠す私と、存在を隠す彼

細木あすか(休止中)

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貴方はいつだって、私の光

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 心臓の音がやばい。
 口から飛び出してきたら、どうしよう。そのレベルでやばい。
 てか、引かれてたらどうしよう。もっとムードとか色々あったよね。こんな状況で渡すとか、俺は何を考えてんだ?

 俺の言葉を聞いた鈴木さんは、ポロポロと涙をこぼしながらも視線はこっちを向いてくれている。怖い。怖すぎる。
 ここで振られたら、俺はどんな気持ちでロス行けば良い?

「私……。私は」

 心臓の音が大きすぎて、鈴木さんの言葉が聞こえてないんじゃないかって思った。でも、実際はそんなことなくて、俺が自分のことで一杯一杯になっているってことなのはわかってる。
 あー! やっぱり、今のなし! 時よ、戻れ! 

「あ、待って」
「え? な、何……」

 頭の中が祭りのように大混雑している状態で、鈴木さんは真顔になってそう言ってきた。

 やばい。これは、確実に振られる。
 次の言葉は何だろう。「重い」「無理」「私、やっぱり奏くんと付き合う」? あ、ダメ。最後のは却下。自分で言っておきながらムカついてきた。

 そんな俺の葛藤最中、鈴木さんが口を開く。

「い、今の流れって、その……青葉くんが私に手を出してくれるってこと?」
「は!?」
「あ、いえ。その……前に、そんなこと言ってたから」
「……あー」

 言った。
 美香さんのことで不安になってる時、言った。覚えていますよ、ええ。でも、なぜ今それを言い出す? え、手を出して良いってこと?

「あ、ごめん。えっと、その……」
「鈴木さんは、手を出して欲しいの?」
「あ……」

 指輪の入った箱をテーブルに置いて鈴木さんを引き寄せると、これでもかと言うほど真っ赤になった彼女が身体を硬直させてきた。ってことは、今意識したってことか。
 可愛いなあ。鈴木さんは、こういうワンテンポ遅れて自分の発言の意味に気づくところが可愛い。だからこそ、俺の視界を埋め尽くす。

「あの、別に深い意味はなくてですね……」
「敬語になってる」
「そっ、あ、えっと……」
「可愛い。指輪、もらってくれる?」
「……いただきます。でも、ごめんなさい」
「え?」

 指輪をもらってくれるとの言葉に安堵していると、急に鈴木さんが謝罪の言葉を吐いてきた。高潮していた気持ちが、一気に下がっていく。
 やっぱり、ダメだったか。行き急ぎすぎた。反省点が多すぎる。

 俺は、ゆっくりと鈴木さんから離れた。
 これ以上嫌われたら、まじでアメリカなんか行ってらんない。……いや、今からキャンセルなんてできないんだけどさ。わかってるけどさ。

「ごめんなさい。私、何も用意してない」
「は?」
「青葉くんが私に指輪用意してくれてたのに、私はお菓子しか持ってきてなかったから。その、私も青葉くんに指輪買っておくべきだったって思って」
「……プロポーズ、受け取ってくれるの?」
「プロ……、あ、はい。え、こんな時ってなんて言えば良いの?」
「ぶはっ! あはは、ふはっ!」
「え、な、何」

 やっぱり、鈴木さんは鈴木さんだった。
 断るときは、一番最初に「無理」と言って相手に期待させないし、こんな顔を真っ赤にして反応をしない。わかりやすいほどはっきりと気持ちを表す子でしょう。
 そうだよ、俺が好きになった彼女はこう言う人だ。

 良かった。嫌われなかった。

「何よう……」
「ごめんごめん、嬉しかっただけ。それより、付けて良い?」
「う、うん」
「右ね。学生じゃなくなったら、左に付けられるの買おう」
「……うん」

 俺は、箱から指輪を手に取った。そして、鈴木さんの右手を持つ。

 太陽光を浴びて輝くそれは、きっと互いの将来を明るく照らしてくれるはず。
 そう思っても良いかな。だって、鈴木さんも今までにないほど嬉しそうな顔してるし。

「2年、待っててね。成長して帰ってくる」
「わ、私も、その……青葉くんの隣に立てるように、色々勉強しておくね」
「うん。……好きだよ、鈴木さん」
「私も、大好き」

 右薬指に指輪をはめると、鈴木さんったらまた泣いてる。
 でも、これは嬉し泣きだ。悲しんでいるわけじゃない。そのくらいの区別は、俺だってつく。

 でも、鈴木さんの身体には、まだ手を出さないよ。
 だって、鈴木さんが快楽に目覚めて、俺がアメリカ行ってる間に他の男連れ込んでたら嫌だから。そこだけは譲れない。マジで。そうならない保証はない。結構心の狭い男です。

「アップルパイ、作るよ。食べるでしょう?」
「食べる! 夕飯はどうする? 四月一日さんとうち来る?」
「そうしようかな。良いの?」
「うん! パパに自慢しちゃおう」
「……俺、殺されないかな」

 立ち上がって引き出しに行き、俺も自分の指輪を出す。鈴木さんとのペアリング。
 すると、後ろから鈴木さんがやってきてそれを俺の指にはめてくれた。それだけで、買って良かったと思う。帰国するまで、絶対外さないぞ。

 俺は、鈴木さんと一緒にキッチンに立った。
 双方の指に光るそれは、離れ離れになっても絶対的な安心感を与えてくれるに違いない。今なら、そう確信できるよ。
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