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赤と桜の景色
しおりを挟む赤い。
赤い。
この赤は、何?
私は、この色を知っている。
知っているのに、答えは声になってくれないの。喉元まで出かかった言葉を飲み込むことしかできないなんて、嫌だわ。
「誰だ、お前!?」
「武器を捨てろ!」
馬車の扉を蹴り飛ばすと同時に、男性の声が耳に届く。そちらを確認すると、短剣を握りしめ私を見ている方達と目が合った。
はいはい、前回ぶりね。当たり前だけど、顔も変わってない。お久しゅう。
私は、馬車の足元に隠していた鉄の棒を片手に、もう片方の空いた手をひらひらと動かし「ご挨拶」をする。もちろん、満面の笑みで。
まあ、その結果はお察し。先ほど声をかけてくれた2人はもちろん、その後ろに居た人たちまでが、私の方へと武器を構えて近づいてきた。
短剣に弓に……あら、銃まで! 素敵な大行列ね。
前回はあったかしら? そこまで見ている余裕はなかったから、覚えていないわ……。
「お前、ふざけてんじゃねえぞ!?」
「女だからって、容赦しねえぞ!」
「お前ら、やっちまえ!」
近くまでジリジリと足を進めていた賊は、地面に映った馬車の影を踏むか踏まないかのところで一気に詰め寄ってきた。それこそ、「わっ」と効果音でも轟きそうなほどの勢いで。
……昔の私じゃ、こんな挑発はしなかった。ということは、それだけ精神が強くなったということ? まあ、考えたところでこの腹は膨れない。
私は、腕の長さほどある鉄の棒を構えて、敵に備える。
「やっちまわれるのは、あなたたちよ」
弓を持つ男性が武器を構えたところで、私は開花した能力を展開させた。
鉄の棒から光が放たれ、すぐさま私の周囲には花が咲き乱れていく。……実態のある、しかし、幻覚である花が。
この花は、東方で主流になっている「桜」というものらしい。以前の私が、王宮図書館で調べたから正体は知っている。
でも、不思議よね。実際に見たことがない花なのに、地面から力強く生命の根付く様子が鮮明に思い浮かんでくるの。そのイメージを頭に思い描けば描くほど、幻覚は強力なものになる。
「わっ!?」
「な、なんだ!?」
「魔族か!!」
大量の花びらで視界を惑わせると、すぐに賊たちが騒ぎ出した。
武器を構えていた人はゆっくりと矛先を地面に移動させ、こちらに向かって走っていた人は歩みをゆっくりと止める。リーダーらしき赤い服の人物は、全く動かないけどね。お顔が真っ青だけど、大丈夫かしら? もしかして、貧血? それは辛いわね。
この展開も、前回と同じ。
この後、私が鉄の棒を振り回して数人を動けなくして、他の賊とリーダーがそそくさと去っていくって展開だった気がする。私は、それを見ているだけの簡単なお仕事をこなす人と化すわ。
「魔族とは、失礼ね。れっきとした人間よ」
私の開花を見た賊たちは、恐怖で動けないと言わんばかりの表情をしながらゆっくりと足を遠ざけていく。まるで、化け物でも見たかのような行動だわ。これ。
魔族とは、この世界で人間と対立する種族のこと。
フラウンスの前当主も、よく戦闘に駆り出されていたっけ。その度に、時期当主であるお父様が大きな顔してお屋敷を闊歩していたのは記憶に新しい。
この力を開花したら、戦闘に駆り出されるらしいけど……4回死んだ私には、まだその経験がない。
私は、ここまで馬車を駆ってくれた御者すら「化け物!」と今にでも声をあげそうな雰囲気を醸し出している中、賊に向かって鉄の棒を振りかざす。
「……———っ!?」
「わああああ!?」
「な!?」
前回同様、敵は弱い。
一振り。
二振り。
三振り。バーン、バーン、おまけにコツンッと。
そして、開花させた花をしまって……はい、終わり。
香辛料の業者さんと、私を運んでくれた御者さんを傷つけないよう鉄の棒を「ぶん回した」私は、複数の敵が地面に倒れる様子を冷静に見ながら動きを緩めた。途中、賊の放った弓矢やら銃弾やらが馬車に当たったけど、まあ許容範囲でしょう。
この賊は、質より量ってところかな。人数が多いだけで、個々はかなり弱いし。
赤い服を着たリーダーらしき人物は、私の周囲に視線を向けながら少しずつ後ずさる。
そして、私が近づこうと体勢をそちらに向けたか向けていないかわからないタイミングで、
「お、お、お、お邪魔しましたああああ!!!」
と、動ける手下さんたちを従えてそそくさと逃げてしまった。
それが、また面白い。だって、前回と全く同じ逃げ方なんですもの。
……ほら、あそこの小さな石で転んで、手下さんに助けてもらうところもそっくり!
お手数をおかけするけど、その辺に転がってる気絶したお仲間さんも回収していってね。
さてと。
「お嬢さん、ありがとう」
「助かりましたわ……」
「いいえ、通りかかっただけですから」
「こちら、受け取ってくださいな」
「わあ! そんなそんな……でも、ありがとうございます」
と、私は私で香辛料をゲット~♡
業者さんは、前と同じ量のお塩をお礼として手渡してくれたわ。それに、ボロボロになってしまった……というか、戦闘準備のためにボロボロにした服を隠すストールまでもらっちゃった。優しい業者さんだなあ。きっと、ご夫婦ね。
こうして私は、前世同様にお塩を大量に入手し、使い物にならなくなった馬車を眺める御者さんを横目に、川へと向かった。
その途中に、一瞬だけ馬車のある方を向いたけど……。いまだに唖然としながら馬車を見ている御者さんが目に入ったわ。とりあえず、頭を深く下げておきましょう。前回はそんな余裕なかったから。
「さてと、お魚を獲りに参りましょうか」
やっぱり、神経が図太くなっているのかも?
私は、そのまま近くの川へとゆっくりと歩いていく。
全ては、「魚を食べる」という目標のため!!!
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