3 / 8
01
平穏のために
しおりを挟む過去と同じ時間、同じ御者の辻馬車に乗って一安心した私は、動き出すと同時に背伸びをした。
「んん~~っ! はあ……」
とっても気持ち良い!
背伸びって、こんな気持ちの良い行為だったのね。これからは、頻繁に背伸びをしましょうか。そうすれば、この小さな身体が少しは伸びるでしょうし。
で、肝心の今後の行動なんだけど、とりあえず前回食べ損ねたお魚を食べに行こうと思うの。
今はなんと言っても魔導書が手元にあるから、大きなお魚だってヒョイッて捕まえられちゃうでしょう? 調理はパパッとできるし、火も魔導書で起こせるし……それに、これからもうちょっと行ったところで乱闘に巻き込まれるのだけど、そこでお塩をゲットできるのよ。
香辛料の業者さんが、賊に襲われてあら大変! ちょうど通りかかってしまったこの馬車までもが標的に!? ってね。
でも、安心して。昔習得した護身術で今回も乗り切れるから。
前回も、1人でサクッと片付けたわ。
お礼にどうぞってお塩をいただいて途方にくれて、偶然通った川でお魚を見つけて魔導書~~~ってなったのが、前回のハイライト。
でも、今回は大丈夫! 待っててね、お塩ちゃん。余すところなく使ってあげるから! ……ん? それって、お魚さんに使う言葉か。
「お嬢さん、ここからちょっと揺れますからね」
「はあい、ご丁寧にありがとうございます」
私は、戦闘に備えて腕を回したり太ももの筋肉を伸ばすように足組みをする。
動きにくいから、ペチコートは脱ぎましょう。長いウェーブ髪は一つに縛って、ヒールも脱いで……。
知っている未来であっても、油断はしないわ。
……もう、殺されたくはないもの。
***
それから10分、夕暮れの景色を窓から眺めていた時のことだった。
何度も見た景色なのに、雲の形とか木々のゆらめきはちょっと違うのよね。前回は串焼きによく似た雲があったのに、今回はない。
……お腹が空いてるのよ。お屋敷にいた時の私は、いつも冷めた少量のご飯しかもらえていなかったから。決して食い意地がすごいわけでは……。
「わっ!?」
「!?」
ドンッと鈍い音が響き、馬の甲高い鳴き声が耳をつんざいてきた。それと同時に、前のめりになるような形で馬車が傾く。
私は、足に力を入れて踏ん張りながら、今の衝撃で引かれてしまったカーテンを急いで開けた。
目の前に広がっているのは、大勢の賊に業者さんの馬車が1つ。……うんうん、この光景だわ。当たり前なんだけど、賊の着ている服装まで同じ!
私、フラウンスにあてがわれていた爵位関連のお仕事をしていたせいか、記憶力は良い方なのよ。この後、すぐにあそこに居る赤い服を着た人が……。
「おい、見張りはどこに行った! 余計な仕事を増やしやがって!」
「す、すいやせん! 実は、昨日の晩飯に当たりまして……」
「はあ!?」
ふふっ……そうそう、この会話。何度聞いても笑っちゃうわ。
あそこに居る赤い服を着た人が、リーダーらしいの。
賊のみんなが頼りにしているあたり、人をまとめる力はあると思う。でも、なんだかこの会話は笑ってしまうなあ。
だって、考えてみて。
この会話は、もう何度も聞いたもの。しかも、一語一句違わず。
まるで、本でも読んでいるような気分になるのよ。次に同じ場面を見ることがあるなら、声に出して一緒に「演出」でもしましょうか。……いえ、もう痛いのは嫌だわ。今のなし。
身体に負った痛みは、覚えている。
恐怖も、心臓の痛みも全て。時間が遡ろうと、それだけは消えてくれない。
だからこそ、持っている力を利用して平穏を掴み取りたい。
「……ふう。じゃあ、今世の私のお手並み拝見といきましょうか」
私は、片手に小さな光を宿したのを確認し、馬車の扉を思い切り蹴り飛ばした。
……いいじゃないの。この戦闘で、どうせ馬車は使い物にならなくなるんだから。
0
あなたにおすすめの小説
公爵家の養女
透明
恋愛
リーナ・フォン・ヴァンディリア
彼女はヴァンディリア公爵家の養女である。
見目麗しいその姿を見て、人々は〝公爵家に咲く一輪の白薔薇〟と評した。
彼女は良くも悪くも常に社交界の中心にいた。
そんな彼女ももう時期、結婚をする。
数多の名家の若い男が彼女に思いを寄せている中、選ばれたのはとある伯爵家の息子だった。
美しき公爵家の白薔薇も、いよいよ人の者になる。
国中ではその話題で持ちきり、彼女に思いを寄せていた男たちは皆、胸を痛める中「リーナ・フォン・ヴァンディリア公女が、盗賊に襲われ逝去された」と伝令が響き渡る。
リーナの死は、貴族たちの関係を大いに揺るがし、一日にして国中を混乱と悲しみに包み込んだ。
そんな事も知らず何故か森で殺された彼女は、自身の寝室のベッドの上で目を覚ましたのだった。
愛に憎悪、帝国の闇
回帰した直後のリーナは、それらが自身の運命に絡んでくると言うことは、この時はまだ、夢にも思っていなかったのだった――
※月曜にから毎週、月、水曜日の朝8:10、金曜日の夜22:00投稿です。
小説家になろう様でも掲載しております。
で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
好感度0になるまで終われません。
チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳)
子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。
愛され続けて4度目の転生。
そろそろ……愛されるのに疲れたのですが…
登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。
5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。
いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。
そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題…
自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる