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サミュエル様
しおりを挟むサフランの持ってきてくれたお茶を飲みながら、私とサミュエル様は会話をしていた。
もちろん、私の飲んでるお茶はカフェインレス。コーヒーを飲みたいって言うと、お屋敷中の人たちに止められてしまうのよ。1日1杯くらいは良いって、お医者様が言っていたのにな。
「サフランの淹れるお茶は、美味しいね」
「茶葉が違いますから。お茶菓子もありますので、どうぞごゆっくりお召し上がりください」
「ありがとう」
と言いつつも、シャルロッテはサミュエル様の腕の中。
なぜか、離さないのよね。先ほどから、「重いですよ」とか「疲れちゃいますので」って言って受け取ろうと手を伸ばすのだけど、それをヒョイッと交わしてあやしてくださっている。シャルロッテも「あぷあぷ」とご機嫌だし、大丈夫かな。
それにしても、珍しい。
最近、シャルロッテの人見知りが始まって、サフラン以外の使用人の顔を見ると泣くのよ。いつ、お義父様とお義母様の顔を見て泣くかハラハラしてるの。
不敬とかそういうのを心配してるんじゃないわ。あれだけ可愛がってくださっているのに、顔見て泣かれでもしたらショックで軽く1週間は執務に影響が出ると思う。そんなの、だめでしょう?
「片手で大丈夫ですか?」
「大丈夫。いやあ、子どもは可愛らしい。癒される」
「すみません、持ってもらってしまって」
「家族でしょう。兄さんの子なら、僕の血も混ざってる。他人だなんて思えない……なんて言ったら、変かな」
「いいえ、嬉しいです。子を可愛がってもらって気分を害する母親はいませんわ」
「良かった。本当はもう少し早く来ようと思ってたんだけどね。体調を崩しがちだって聞いて」
「もう大丈夫です。足はすぐにパッと動きませんが、少しずつ回復してるとのことでしたので」
そうそう。
ヴァレリー様が来たと聞いたあの日から1週間、高熱で寝込んでしまったの。
お医者様が言うには、疲労と寝不足が重なったって言ってたわ。おかげで、1週間ゆっくり休んだ。もちろん、5時間起きの授乳はしたけど。新生時期に比べたら間が空いたから、楽なもんね。サフランも張り切ってお世話してくれたし。
それからもちょくちょく体調は崩すけど、今は元気よ。産後の身体は安定しないっていうのは、みんなそうみたい。ホルモンバランスの影響で、ハイテンションになったり突然気分が落ち込んだり……。
思えば、出産後はハイテンションが続いていたな。ヴァレリー様が居なくたって、母親が居れば良い! みたいな気持ちでいたけど、最近ふとした時に寂しくなる。
本当なら、今も3人で笑って過ごしてたのになって。勝手よね、私も。
「どうしました?」
「え?」
「なんだか、思い詰めたような表情だったので。……兄さんのこと?」
「あ……はい。産前まであれだけ好いていたのに、産後になったらその気持ちが消えてしまったのです。私、どうしてヴァレリー様と結婚したのかもよくわからなくて」
「それは、兄さんがあんな酷いことを言ったんだ。当然だよ」
「それでも、今のような状況はダメだってわかっています。育児は、父親と二人三脚でやるものってお医者様もおっしゃっていました。なのに、私はヴァレリー様を探そうともせず、お屋敷の方たちに甘えてもう6ヶ月になります」
「でも、君は王族の子を産んでくれた。ここに居る資格は十分にある」
「ありがとうございます。しかし、私はヴァレリー様に対する愛がなくなりました。この子が1歳になったら、ここを出ていく予定です」
「……え?」
その話は、サフランとお義父様、お義母様には伝えてある。反対されたけど、今のところシャルロッテに王権はない。私はもうヴァレリー様と子作りするつもりはないし、あとはサミュエル様次第かな。……ああ、後、ヴァレリー様が私と離婚して他の方と結婚したら可能性があるわね。
もし、シャルロッテが16歳になるまでに男児が生まれていなければ、王位継承権が回ってくるみたい。でも、ヴァレリー様もサミュエル様もお若いし、シャルロッテに回ってくることはないと思う。
まあ、まだ先の話だし。
お義父様はなぜか涙を流しながら「外の環境での生活は、王族としても必要不可欠だ。サミュエルも、5年外で生活していたしな」とおっしゃってくださった。隣に居たお義母様もハンカチで目元を抑えながら「そうね……。私たちは成長を見られないけど」と言ってたけど……。
今考えたら、もしかしてシャルロッテの成長が見られないから泣いてたの? まさかね。
「それまでに、ヴァレリー様に気持ちをお伝えできれば良いのですが……。実の所、まだ少しだけ迷ってるんです。この子の父親を、私が「愛情がない」ってだけで切ってしまって良いのかと」
「ここを出ていくことは、迷っていないのかな?」
「はい、ここに居たらずっと甘えてしまいますから」
「そう、か……」
「……サミュエル様?」
その話をすると、今の今まで笑顔でいたサミュエル様が無表情になっていく。
どうしたのかな。
シャルロッテをギュッと抱いて、悲しそうな顔をしてるような。でも、その顔はすぐに笑顔が戻ってくる。
「はい、なんでしょうか?」
「大丈夫ですか? ずっと抱っこしてると、疲れますよね」
「いいえ、不思議と力が湧いてきます。母性ですかね?」
「ふふ、そう言うのは父性と言うのでは?」
「……そうかもしれません」
「ヴァレリー様にも、見習って欲しいわ! ……なんてね」
「あはは、確かに」
私の冗談に笑ったサミュエル様は、そう言ったのを最後に、しばらくの間シャルロッテと遊んでくださった。
シャルロッテも彼も、きゃっきゃと声を出して笑うものだから、お茶のお代わりを持ってきたサフランがびっくりしてしまったわ。
『サミュエル様は、保育士に転職するおつもりですか?』
ってね。
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