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ジェレミーの謎
しおりを挟むサルバトーレ・ダービーがサルバトーレ・フォンテーヌになったその翌日、隣国のカウヌ国にてテレサ・グロスターが処刑された。
不思議なことに、一緒に居たとされているミミリップの領民長が姿を消してしまったそうなの。そっちの捜索が続いているって話だったけど、一生捕まらないでしょうね。だって、そんな人は元から居なかったのですから。というか、目の前に居る人がそうだと思うの。
「ジェレミー……ドミニク・シャルル? 私は、あなたをどう呼べば良いの?」
「あ゙ぁん? 本名は止めろ、寒気がするわ」
「……アリスお嬢様には呼ばせるのに」
「あいつぁ良いんだよ。なんか下半身にクる」
「ちょっと! お嬢様をそんな目で見ないでよ!!」
「冗談だ」
「はあ……」
カウヌから帰国して3日。
なぜか先ほどから、ジェレミーがクリーム色の髪にスーツを着こなして私の兄よろしく付き纏ってくる。兄なんて居ないのに。しかも、王宮の中で! どうやって入ったのよ!
これじゃあ、陛下のところへ行けやしない。まさかこの人、陛下の暗殺でも請け負ってるんじゃないでしょうね……。
それに、あの処刑場面を見られてこうも付いてくるってなんなの?
この人のことだから、気づかれてるってわかりそうなもんだけど。というか、確実にわかってついてきてる気もする。……私が殺される対象じゃありませんように。
「それよか、アリスは?」
「……あれから目が覚めてないらしいわ」
「原因は?」
「わからないけど、たまにそうなるみたい」
「そうか。定期的に教えてくれ」
「まさか、それを知るために戻ってきたの?」
「それ以外に、なんで俺がお前に話しかけてっと思ってんだ?」
「どうせ、お屋敷の場所も知ってるんでしょう? 行けば良いじゃないの」
「ヤダね。イリヤと顔でも合わせちまったら、屋敷崩壊するだろ」
「……常識があるのかないのか」
どうやら、彼もアリスお嬢様が心配らしい。
本当、彼女はいろんな人から愛されているわね。イリヤじゃないけど、この状況が生前にあれば……。なんて、今更考えたところでどうしようもないか。
あの日から、私の頭の中にはイリヤの言った「みんなズルい」の言葉がグルグルと巡っている。わかっていたことなのに、客観的に言われてやっぱりそう見えるんだなって。
私も、相当未熟者ね。サレン様を「アリスお嬢様」と呼び続けているロベール卿のことを非難できるような人物ではない。
「さてと。じゃあ、俺は隊長サンのところに行こうかな」
「はあ!? ちょっと、あまり王宮内を闊歩しないでくれる?」
「いいじゃんか。セキュリティ甘々な王宮に出入りしたって、誰も咎めない」
「……そんなこと言うなら、セキュリティ関係の見直し手伝ってよ」
「お、マジ? いいぜいいぜ! 昔やってたことあっから、手順とかはわかってるし」
「だからって、その情報を外に売らないでね。あなたが悪用するのもダメ。約束を破った時点で、アリスお嬢様に言いつけるから」
「しねーよ。アリスが生活する国なら、ちょっとでも住みやすくしてやりてぇからな。なんでも協力する」
……愛されてるわね、アリスお嬢様は。殺人鬼をも、こんな真剣な表情にさせるなんて。不思議なお方。
一回、この人とは腹を割って話をしてみたい。
彼女との出会いに、今までの様子。それに、事件のあらましについても知りたいと思う。でも、それは今じゃない気もするの。それに、本当に腹を割られたら元も子もないでしょう?
陛下の元へ行こうとしていた私は、進路を変更して演習場へと向かった。
今の時間帯は確か、そっちにロベール卿が居たような?
***
「おい、あのボンクラはどこに行ったんだ?」
「私が聞きたいわよ……。それに、なんなの貴方は!」
演習場へ足を運んだのに、ロベール卿の姿はなかった。近くの団員に聞いてみると、「サレン様に呼ばれて出て行った」とのこと。話の通り、サレン様のお部屋を尋ねたのだけど、これまた彼の姿は見えない。扉前に立っていた2人の団員が、「エルザ様にお呼び出しを受けて中庭へ行きました」って。
でも、中庭へ行ったのにまたもや彼の姿はなかったの。
その代わり、エルザ様とカイン皇子が日向ぼっこしながら読書をされていらしたわ。「アレンは、ラベルくんに呼ばれて行ったわ。アリスのお兄さんのお話をしていたから、きっと牢屋の方だと思う」だって。
それに、驚いたことにジェレミーはエルザ様と面識があったみたい。「ドミニク! 久しぶり!」なんて挨拶を交わしてるの。聞いたら、貴族時代にちょっとお世話になったらしい。「お世話」って何……? 怖すぎる。
「あん? 何がだよ」
「貴方、なんでエルザ様とお知り合いなの!」
「いいじゃんか、妬くな」
「妬いてない! あんたが「アリス繋がりだよ。数年前までは、俺だって優秀なお貴族様だったってこと。はい、この話おしまい」」
「……」
全然説明になってないんですけど。
でも、これ以上は「聞くな」と言われているようで聞けなかった。
ジェレミーは、履き慣れていないはずのローファーを規律良くコツコツと鳴らしながら次の候補地へと向かう。宮殿の廊下は、いつも通り人が居ない。そのせいもあって、その音が良く響くの。
その後ろをついて歩いている私の方が、なんだか「お客さん」みたい。どうして、この人は王宮だけじゃなくて宮殿の配置もわかっているの? そうやって、謎ばかりが増えていく。
「渡せる情報は限られてっけどある程度は渡すし、マクシムとかそこらの奴が来たら手も貸す。だから、そんな警戒すんな。やりづれぇ」
「……貴方は、どうしてこっちに来たの? 今まで散々いろんなところを襲撃してきたのに、今更味方面されてもすぐは信用できない」
「あっちとかこっちとか、俺は知らねぇよ」
「……え?」
下を向きながらついていくと、いつの間にか止まっていたみたい。気づかずに、ジェレミーの背中に額を……というか、全身をぶつけてしまった。背骨かしら、ぶつけた額が痛い。
よく聞こえなかったから聞き返したら、ジェレミーはこう続けてきた。
「今も昔も、アリスの居るところが俺の居場所だ。あいつを殺した奴らを片っ端から殺して死のうと思ってたが……死ななくて良かったな。ははは!」
「……そんな明るく言う話題じゃないでしょう」
「はあ、アリス可愛い。あのツン具合が良いよな。懐くとデレデレする感じとか。それだけで可愛いのに、お胸様っつーオプションがついてきたぞ? マジで下半身にクるわ」
「だからねえ、あんたは!」
「ははは。まあ、そういうこった」
……結局、「どういうこと」なのかがさっぱりだわ。
でも、とりあえず王族にとって害はなさそうね。しばらくは自由にさせておきましょう。多分、捕まえて法律で裁けばアリスお嬢様が悲しんでしまいそうだし……ん? いえ、でも罪は罪で……。
私は、考えることを放棄した。
それよりも今は、グロスター伯爵とダービー伯爵殺害の真相と、サレン様の目的を探らなくては。陛下のお守りもあるし、この人に構ってる時間はない。
再び歩き出した私たちは、エルザ様のおっしゃっていた牢屋へと足を進める。
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