愛されたくて、飲んだ毒

細木あすか(休止中)

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植物カレンダーと裏カジノ事件

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「ベル嬢が狙われているという噂を流したのは私です。申し訳ございませんでした」

 いつの間にお屋敷に来てくださったのか、部屋の中にはシャルル様……ドミニクの義弟さんが満身創痍の状態で土下座してきた。別にしなくて良いのだけど、周囲の雰囲気的に許してくれなさそうな感じがひしひしと伝わってくる。特に、イリヤがね……。さっきからガルガルしっぱなしだわ。

 謝罪の理由を聞いたけど、私としてはピンとこない。むしろ、なんというかシャルル様大丈夫? って感じ。よく見ると、前髪に隠れた額には痣がチラッと確認できたような……。

「あ、あの……。よくわかってないのだけど、私が狙われているって事実はなかったってこと?」
「ああ、そうだ。なかったよ、こいつが噂を立てるまではな!」
「ンヒィィ……義兄さん、その目は止めて」
「ドミニク、どういうこと?」

 ああ、ドミニクまでシャルル様に襲いかかりそう。
 でも、シャルル様はそこまで怖がっていないような印象も受ける。多分だけど、強かなんだわ。
 そんな態度に、さらに怒りが増す……って感じなんだけど伝わるかしら。この流れは良くないわね。どうしたものか。

 それに、先ほどからチラチラとアレンの視線を感じる。心配してくれているのはわかるけど、あまり見ないで欲しい。お話に集中できないわ。

「俺が調べたところ、こいつの噂のせいで本当にお前が狙われる事態が起きちまってんだよ。こいつのせいで!」
「落ち着いて、ジェレミー。僕が殺すから」
「待てよ、イリヤ。お嬢様は、殺生を望んでいない。ちゃんと手順を踏んだ裁判で裁こう。裁判長は俺だ」
「そうだね。じゃあ、僕が弁護人になるよ。被疑者は罪を認めていまーす」
「ひっ、理不尽っ……。でも、5年前の裏カジノ事件のせいで元老院に没収されちゃったけど、同じ感じのカレンダー原稿がその時期にうちの新聞社へ来てたらしいんだよ。一時期紛失したと思ったら出てきたとか、そんな噂と一緒に上司から聞いたことがある。それと似た原稿がまた来るって、チャンスじゃん! まだカジノ事件の真犯人捕まってないし!」
「だからって、こいつを巻き込んで良い理由にはならねえ!」
「何だよ、いつもは誰が死のうが犯人を追い詰めていたのに! なんで今回はダメなのさ!」
「あ、あの! 待って。ね、落ち着いて。それより、そのカレンダー原稿ってなあに?」

 これ以上ヒートアップしたら、私のお部屋が壊れちゃう! 壁に穴が空いたところで寝起きしたくない!
 そう思った私は、出せる限り大きな声で言い争いを止めてみた。止まったかしら? というか、聞こえてた?

 自然な感じで止めるため、話を聞いて疑問に思ったところを質問したけど……あまり関係ない部分だったらどうしよう。「お前は首突っ込むな! これ以上巻き込まれてどうする!」ってドミニクに怒鳴られる未来がはっきりと見えるわ……。
 ここは、「お腹すいた!」とか叫んだ方が良かったかもしれない。

「ペンと紙ある? 覚えてるから、もらえれば復元できるよ」
「イリヤ、渡してあげて。私の机の引き出しの2段目に、白紙があるから」
「承知です。でも、イリヤは意地悪なので白紙とペンだけしか渡しません。インクはどうぞご自身で刷ってください」
「インクも渡してちょうだい!」

 そんな駄々のこね方があります!?
 それだけ、私のことを大切にしてくれてるって思えばありがたいけど……。いやでも、今はこの空気を何とかしたい。誰も私の意見に賛同してくれそうにない雰囲気なのよね。
 とにかく、流れは変わったから良しとしましょう。

 渋々ではあるものの、イリヤは3点セットをシャルル様に渡してくれた。「床で這いつくばって書いてください」って指示してたけど……まあ、そのくらいは良いか。
 なんだかんだ言いながら、私もこの空気感に浸りつつある。

「……書けた。どうぞ、ベル嬢」
「ありがとう。イリヤ、持ってきてくれる?」
「もちろん」

 シャルル様は、5分くらい静かになって紙に向かってペンを走らせた。その時の横顔がここから確認できたけど、こういう時は真剣になるのね。いつもこうしてろとは言わないけど、あのおちゃらけた態度が多いのはどうかと思うわ。
 まさか、ドミニクも記者になっていたらあんなテンション爆上げ! みたいな感じになっていたのかしら。それはちょっと遠慮……いえ、面白いかも。

 イリヤにお願いをすると、嬉しそうにこちらへ紙を持ってきてくれた。
 にしても、シャルル様と私へ向ける表情が雲泥の差だから、それはそれでちょっとだけ怖い。……もういいや、無視しよう。突っ込みきれないもの。

「爆弾の類はありません」
「あるわけないでしょ、もう。…………え、これ」
「何でしょうか、やはり爆弾でも」
「……いえ、あの」

 私は、その紙を気軽に受け取った。お水の入ったコップよりも軽くて、持ちやすいわなんて思いながら。
 でも、内容を見た瞬間、サーッと血の気が引くのを感じた。

 5年前のカジノ事件? その時期に、新聞社へ提出されたものと似た植物カレンダー?
 待って、これって……。

「……シャルル様」
「なんでしょう、ベル嬢」
「裏カジノ事件について、教えてください」
「へ? 義兄さんの方が詳しいと思うけど……」
「貴方の口から教えてください。この、植物カレンダーとの接点は貴方の方がよく知ってると思うから」

 これは、私がお仕事として依頼を受けて作成したものだわ。依頼されたのに、新聞社で門前払いされた時の……。
 なぜ、門前払いされたのに元老院に回収されたの? それに、裏カジノ事件で問題になった暗号とそっくりってどういうこと?

 もしかしたら、私の死因は家族だけのものじゃないかもしれない。
 この話を聞けば、それを知れるかもしれない。

 私は、脳裏で昔作ったカレンダーのことを思い出す。


***



『ねえ、ジェームズ。今良いかしら?』
『はい、お嬢様。いつでも良いですよ』

 あれはいつだったかしら? 曇り空が続き、そろそろ雨が降りそうな天候だった気がする。
 ジェームズが、「雨が降らないと、穀物類が育ちませんなあ」と小麦の心配をしていたのは記憶していた。そうそう、ちょうど彼に作物に関するお仕事を相談しようと思っていたから、そういうセリフを覚えているんだと思う。

『あのね、侯爵様からの依頼で、この時期に育てるのにおすすめな植物や作物とかをカレンダーにまとめて欲しいって言われたの。手伝ってくれる?」
『なんと、面白いご依頼ですな。もちろん、お手伝いさせていただきます』
『ありがとう! 植物や作物って言われたのだけど、バラも入る?』
『入りますな』
『じゃあ、ナスやトマトは?』
『入りますぞ』
『あと……ジャガイモとか、フウセンカズラとか!』
『それも対象です』
『嬉しい! 結構幅広いのね』
『そうですな。指定されていない、というのと同義です』

 そのお仕事は、マドアス様から直接依頼されたもの。いつもは文章でいただくのだけど、その時は口頭だったのよね。だから、その場でメモを取ってこうやってジェームズに相談しに来たって訳。
 聞いた時は、とーーってもワクワクしたわ。だって、研究って感じがするでしょう? 私、そういうの大好き!

 それに、ロイヤル社へ持っていけとの指示もされていた。日時も一緒にね。
 限られた時間の中でする作業って、緊張感あるじゃない? 毎回同じようなお仕事をこなしていた私にとって、それは息抜きのようなお仕事だった。

『しかし、カレンダーというくらいですからある程度時期ごとにまとめねばなりませんな』
『表にしようと思ってるのだけど、そうすると紙が横長くなっちゃいそうなのよね』
『カレンダーの時期は指定されていますか?』
『1年を通してってことだった。あと、カレンダーに記載する物は、最大23個までって言われたわ』
『23? 中途半端ですな。1ヶ月に1個ならわかりますが……。他に、指定されたことは?』

 ジェームズは、作業を中断して私の話に耳を傾けてくれている。
 やっぱり、彼に相談して良かったわ。私では気づかなかったところに気づいてくれるし! 業務外の話なのに、こうやって嫌な顔せず聞いてくれるなんてさすがすぎる。私も、ジェームズみたいな大人になりたいわ。

『他は……そうそう、お水をあげる頻度の指定もあった気がする。待ってて』
『それは重要ですな。今のうちに、条件を全て教えてください』
『わかったわ。紙に全部書いたから、お庭のテーブルで確認しましょう』
『いえ、そろそろ雨が降り出します。良ければ、お屋敷内がよろしいかと』
『雨が降るってわかるの?』
『はい、空気が湿って独特な臭いがしますから』
『……うーん、わからないわ』
『ほほほ、もう少し経てばわかるかもしれませんな』

 こうして、私はジェームズと一緒に植物カレンダーを作成したの。
 作物も一緒なのに、どうして植物カレンダーかって? そりゃあ、植物の方が圧倒的に多いカレンダーになったからよ。

 なのに、そのお仕事はロイヤル社にて門前払いを受けて一銭にもならなかった。
 折角たくさん打ち合わせして作ったのに、ジェームズになんて言おうって考えながらお屋敷に帰ったのを覚えているわ。
 でも、そのカレンダー原稿をどうしたのかまでは覚えていない。それくらい、ショックだったんですもの。


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