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前途多難すぎる
しおりを挟む〈ベル視点〉
いつもの空間の中、自身を通してアリスの様子を覗いていた。……暇だから、ついつい見ちゃうのよ。
見て、アリスのあのド天然行動にイラついて見るのやめて、でも気になって見ての繰り返し。ほんと、あの子の周りで振り回されている人たちには尊敬しかないわ。私なら、途中で投げ出すもの。
とか言って、またこうやって覗いてるんだけどね。
そうやって覗いていると、なぜか隣国へ行く話になっていた。隣国って……。
私はこの国で死んだから、多分隣国の景色は見れないと思う。今までは危なくなったらあの人を送っていたけど、それができなくなるってことよね。
「ねえ、いるんでしょ?」
「もちろん。君に呼ばれれば、どこに居ても飛んでくるさ」
「じゃあ、隣国飛んで。アリスがそっちに行くんですって」
「また急なお願いだね」
「できるの、できないの?」
「移動中はこっち来れないけど、できる。その代わり、ちょっとで良いから笑ってみせて」
「……」
あーもう、これが嫌なのに!
でも、背に腹は代えられない。アリスに何かあったら、パトリシア様が悲しむでしょう。そんなの、絶対に嫌。
私は、自分ができる限りの笑顔を作った。頑張って。それは、もうめちゃくちゃ頑張って。
「不合格」
「なんでよ!」
「愛情がない」
「……そんなもの、最初からないわよ」
「へえ。じゃあ、私は消えることにしよう」
「はいはい。貴方に頼んだ私がバカでした。さようなら」
「……」
「何よ」
まあ、対して期待してなかったから良いわ。
でも、おかしい。
話が終わったのに、まだあいつの居る気配がする。振り向くと、そこはかとなく悲しそうな顔したのが居るし……。
「そこはさあ! 嘘でも良いから愛してるって言ってよ!」
「嫌いだってば!」
「愛してるよ、ベル!」
「嫌い嫌い嫌い! 大っっっ嫌い!」
「うへへ、可愛い。あー、最高。良いよ、今ので満足した」
「このドMが!」
なんで、私ってこういう変な人に好かれやすいんだろう。何か、変なオーラが出てるとか?
そいつは、鼻歌を歌いながら「お土産に香水とかどう?」とかほざいてくる。そんなもの、ここに持って来れるはずないのに。
こういう冗談がムカつくのよね。何回言ってもわかってくれないから、もう諦めてるけど。
こいつは、私をここに閉じ込めて暇つぶしの道具にしたいだけ。それ以上のものはないでしょ。
「ふふふ、ふふ……」
「キモいから、早く消えて」
「はいはい。行くだけで良いの?」
「ちゃんと助けて!」
「それはどうだろうなあ。干渉はできないよ」
「……嫌い」
こんな人、絶対好きになんかなってやらないんだから。
私は一生、パトリシア様を想うって決めてるの!
そいつは、私に「香水を~」と再度言ってそのまま呆気なく消えてしまった。そして、訪れる静寂。
……寂しくないわ。元々、私にはこの静けさが合ってるんだから。あんな、イリヤみたいなうるさい人……イリヤ、元気かな。
「あっ!」
しまった。
今の馬鹿のせいで、アリスへの伝言を忘れていたわ。
前も届けてくれたし、今回も大丈夫だと思って用意していたのに。
「ねえ、待って!」
遅かったみたい。
あいつは、いつまで経っても現れなかった。
伝えて欲しかったのに。
宮殿侍医だったジャックは、死んでないって。こっちに来たのは、ロバン公爵だって!
***
〈アリス視点〉
初めて足を踏み入れたカウヌ国は、思ったよりも近代的で住んでいる国と同じくらい活気に満ち溢れたところだった。
それに、なんと言うのかな。物珍しい貿易品が立ち並んでいて……いつもだったら、テンションが上がったと思う。いつもだったら。
「ノリと若さでここまで来た自信しかないのだけど……」
「まあ、着いたから良いじゃないですかあ~。観光なんて、久しぶりすぎて最後にしたのいつだったか覚えてないですねえ」
「あー、観光かあ。良いな、それ。飯食おうぜ」
なんで、そんな2人は元気なの!?
私は、こんな疲弊してるのに!
だって、おかしいでしょう。
なぜか、お屋敷を出る時は裏口からだったし、馬車だって椅子に座ったんじゃなくて椅子の座るところを外して中に入っての移動だったし! 今も、そのせいで腰が痛くて仕方がない。どうして、隠れるようにお屋敷を出ないといけなかったの?
椅子に座ってた2人は、せめてもう少し申し訳ない顔して欲しい! 椅子の下から出て、最初のドミニクの言葉が「乳は無事か?」だからね。心配するなら、全体を心配して!!
気がかりなのは、もうひとつある。
あのね、結局サヴィ様にご挨拶出来ずに隣国へ来てしまったの。ご挨拶どころか、顔も合わせてない。
お父様に言ったら、「あの子に仕事を頼んでるから」って話だったけど……。私がこっちに来ちゃったから、サヴィ様が大変になってるってこと? でも、その前からずっと会ってないし。
クラリスには会えるから、お屋敷には帰ってきてるはずなんだけどな。
「とりあえず、宿に行こう。お前の身体マッサージしてやっから」
「嫌! 絶対変なところ触る!」
「触ったことねえだろ! イリヤが居る中触んねえよ!」
「……じゃあ、お願いします」
「イリヤは、いつでも攻撃できるよう鉈でも持って待機してますね」
「しねえって言ってんじゃん!」
私は、背伸びをしてから自分の足でドミニクたちについていく。
ここ1週間でかなり回復したのよ。
まだ普通のご飯は食べられないけど、お腹空く感覚はあるし、味も戻ってきてるし。すぐ息切れしちゃうのは仕方ないとして、ちゃんとこうやって立って歩けるし。
イリヤは、車椅子を持っていくことを提案してくれたわ。でも、ドミニクが「そんときゃあ、俺が担ぐ」って言われたけど……私、荷物じゃないんですけど。
「変なことしたら、どうする?」
「もう、お前に姿見せねえようにする」
「それは嫌。側に居てよ」
「じゃあ、結婚しよう」
「飛躍しすぎ」
「はー? 小悪魔だなあ、俺様はキープ要員かよ」
「ジェレミー、うるさい。お嬢様には、イリヤの方が似合うもん」
「私もイリヤの方が良い。ドミニクは、身長が高すぎて首が痛いの」
「ド畜生!」
「ふふ」
でも、まあ楽しい。
行き先も目的も分かってないけど、新しい地にやってきたからかワクワクする。
なんて、そんなことを思っていられたのは宿に着くまでの話。
ドミニクに案内された宿はいかがわしい雰囲気だし、男女ペアの人が多いし、それに、部屋もイリヤと一緒だと思ってたのに3人一緒だし!
もう! どうして、ドミニクとイリヤは何も教えてくれないの!
いつもみたいに喧嘩してないのは嬉しいけど、それよりも情報をちょうだい! 状況を理解しなさすぎて、熱でも出しそうな気分だわ!!
応援ありがとうございます!
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