愛されたくて、飲んだ毒

細木あすか(休止中)

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「sal en」

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《アレン視点》

 ラベルたちの背中を見ながら、俺はサレン様と向き合った。

「駐屯基地からの団員が来るまでに、今までのこととこれからのことを話してくださいますか?」

 その問いに、1人ポツンと残ったサレン様が小さくこくんと頷く。彼女のいるところへ行き手を差し出すと、それに縋り付くよう掴んできた。
 尋常ではないほどの震えは、他の仲間を意識してか。それとも、単に毒を抜く薬が切れてしまっているのか……。

 大男を縛ることも考えたが、あれはしばらく起きない。下手に動かして起こしでもした方が厄介だ。
 とりあえず、今はこの男たちのことや盗品について、さらには彼女たちの目的を探った方が良いだろう。

「私は、お父様より第一王子の暗殺を命じられていました。ロバンの事業を邪魔し、ヴェーラー公爵との力関係が保てなくなったのです。それは、私たち公爵家にとって死を意味するものでした」

 サレン様はオドオドしながらも頷き、ゆっくりと口を開いた。
 震える手を握るとハッとしたような表情になったが、振り払われることはない。

 隣国には、公爵家が4つ存在する。
 東西南北の中でも、特に東西は権力が強いと父様から聞いたことがある。爵位のシステムがこの国とは少々異なるようで、完全なる実力主義によって成り立っているらしい。故に、この国のように伝統を大事にすることはないし、ましてや、領民を虐げて己の評価を下げる者もいない。実によくできたシステムだと思う。
 しかし、貴族間では睨み合いが頻繁に起き、酷いと夜のうちに使用人を含む家族全員が綺麗に消えているなんてこともあるとか。陛下は、それが嫌で伝統を重んじる爵位に焦点を当てているらしいが、どちらが良いのか俺にはわからない。

「そのことと、カイン皇子はどんな関係でしょうか?」
「……アベル様とアシ様をご存知でしょうか?」
「アベル様は第3皇子なので、存じ上げています。確か、隣国での情報を伝達してくださっていると思いますが……。アシ様は存じ上げません」
「そう、よね。アシ様は、この国の元老院のトップの子なの。女性ってだけで侯爵家を追い出されて、王族に保護された「待ってください! ルフェーブル卿のご息女って……あ、ごめんなさい」」

 サレン様の発言に驚いた俺は、咄嗟に叫んでしまった。途中で気づいて周囲を見渡すと……大丈夫。ピクリとも動いていない。

 男性らを確認した俺は、再度サレン様と向き合う。
 元老院のトップといえば、ルフェーブル卿だ。しかし、ルフェーブル卿には2人のご子息しか居ないはず。ご息女が居たなんて聞いたことがないし、記録にすら残っていない。
 一度、イリヤの廃嫡が気になって王宮に管理されている資料を見たんだ。だから、確実だ。もしサレン様のお話が本当なら、正式な書類を提出せず偽装し続けたことになる。法を預かる元老院のトップがして良いことではない。

 ……この話、イリヤは知っているのだろうか。

「秘密にしてくださいね。アシ様は、公表することを望んではいないので」
「承知しましたが……その話と、貴女たちの一連の計画は関係してるんですか?」
「はい。お父様は別の目的で王族に恨みを持っていましたが、私が計画に入ったのはアシ様のためです。私は、ご自身の立場を逆手にとってお国のために働かせている王族が憎かったのです。……だから、お父様の計画に加担しました」
「ということは、この国でお会いした貴女は、すでに計画に加担していたのですね」
「はい。私たちも、親の都合で人生を台無しにされていますから」
「毒を飲まされ続けた、ということですか」
「それもそうですが……。今、宮殿に居るのは、私の双子の妹のエンと言います。私の本当の名前はサリで、2人合わせて「サレン」なのです。私たちは、2人で1人の人間として国に登録されています」
「え……?」

 と、次々と出てくる情報に、頭が混乱しそうになる。

 彼女が、双子? しかも、2人を1人として国に登録してるだと?
 ということは、それだけ彼女たちは顔が似てるのか? いや、そうだとしても到底許される行為ではない。みんな、自分の子をなんだと思ってるんだ。

「ふふ、アレンならそういう反応すると思った」
「……?」
「怒ってるでしょ。ありがとう、犯罪者にそういう感情を抱いてくれて」
「……王族を騙した罪は重いですよ」
「わかっています。でも、これでお父様の足を引っ張れると思うと嬉しい。国に登録されていない人間を、どうやって裁くのかも見ものだわ」

 サレン様……いや、サリ様は、そう言ってカラッとした笑い顔を俺に見せた。
 その瞬間だけ怯えていた表情がなくなり、まるで別人のようにはっきりとした口調で両親に対する嫌悪を示してくる。その言葉だけで、彼女の今までの生涯がどのようなものであったのかが想像しやすい。

 俺は、これを責められるのか?
 話を聞いた限り、かなりの大規模で計画が進行してると見た。しかも、彼女の母親は既にモンテディオの火災で亡くなっている。……父親1人が、黒幕ということか。
 ヴィエンやマークスも、ロバン公爵が何をするのか気づいて加担してたのかもしれないな。ただ、ロバン公爵にお会いした感じを見るに、ヴィエンが彼を認めたとは到底思えないんだが。奴は、自身より知識のない人物に決して従わない。 

「騎士団に協力してくだされば、罪は軽くできます。貴女はまだ、人を殺めていない」
「でも、城下町の毒流出殺人の計画は知っていたわ。あそこまで大規模にやるのは聞いていなかったけど」
「……それも、ロバン公爵の企みですね」
「はい、そうです。少しずつ毒を流して幻覚を見せて、薬を欲する身体にさせるのが目的でした。モンテディオで作られていた毒は、麻薬です。しかし、実際には人が死んでいるのでどこかで計画が狂ったのでしょうね」
「なるほど、計画が狂った……」
「私の話を信じるなら、ね」
「信じますよ、貴女は嘘がつけない人だ」
「……貴方相手にはつけないわ。これでも、初恋だったのですよ」
「貴女の話を信じるなら、ですか?」
「ふふ、そう返されるとは思わなかったわ」

 やはり、ダービー伯爵は濡れ衣を着せられただけか。
 元老院が処理したということは、あちら側は事情を知ってると見ても良いだろう。ダービー夫妻を殺したのも、口封じだったということか。

 まだ、聞きたいことはたくさんあった。
 宮殿に居るエン様も、毒人間なのか。俺は、一度もお会いしたことがない方なのか。それに、なぜカイン皇子を殺さなかったのか。

「隊長! ご無事ですか!」
「ああ、そこで倒れている奴を縛ってくれ。大きい奴を先に頼む」
「承知です! おい、取り掛かるぞ」

 しかし、どうやら時間切れのようだ。
 外が騒がしくなったと思えば、すぐに顔見知りの団員が顔を覗かせてくる。

 俺が返事をすると、すぐに数名の団員が続けて酒場に入ってきた。息を切らしているところを見るに、相当急いで馬を走らせてきたのだろう。外にも、何人か人の気配を感じる。
 こういう時のために、ロープは携帯した方が良いかもな。手錠では、1人分しか持ち運べない。学んだよ。

「……アレン、宮殿に行くの?」
「行きますが、サレン様を手荒に扱わないよう話しておきますから」
「そうじゃなくて……。えっと、その、エンのことなんだけど」
「はい?」
「……気をつけてね。あの子、マークスに武術を習っていたから」
「情報をありがとうございます。後ほど、片付いたら顔を見せに行きます」
「知ってることはなんでも話します。……私が言うのも変だけど、無茶しないでね」
「本当ですね」

 現場検証がスタートする中、俺が笑うと、サリ様も楽しそうに笑った。
 それと同時に、彼女の瞳からホロッと涙がこぼれ落ちる。ポケットの中に入れていたハンカチで拭っても拭っても、涙は止まらなかった。

「……この後、お父様と合流するはずだったの。顔見てザマアミロって言ってやるつもりだったけど… …上手くいかないわ」
「それでよかったですよ。貴女は、これ以上罪を重ねないでください。じゃないと、私が朝を見せると言った約束が果たせなくなってしまいます」
「……やだ、あれって本当に言ったの?」
「私も男ですよ。女性に嘘はつきません」
「あはは! はは、アレンはもう。冗談きついわ。ふふ、あはは、はは……うあ」
「……」

 サレン様は、そのまま大きな声で泣き出した。
 まるで、子どもが泣くように。周囲を気にせず、思い切り泣いたその顔は、俺の脳に深く刻まれていく。
 やはり、一度信じた人物を敵視することは難しいな。渡したハンカチを宝物のように握りしめている彼女が、どうしても「悪」には見えない。
 俺は、トップに向いてないよ。全く。

 サレン様を他の団員に託した俺は、その足で気絶している男性……ヴィエンたちの雇い主へ向かった。起こすためにちょっと乱暴に扱うが、まあ死なんだろう。
 ベル嬢を襲った人物も聞いてみようか。先ほどのサリ様の話に、フォンテーヌ子爵の話が出てこなかったのが気になったんだ。


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