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カウヌを満喫
しおりを挟むリオネル殿を医療室のベッドへ寝かせた私は、やっと一息ついた。
あの後、意識を取り戻して受け答えができていたからもう大丈夫だと思う。すぐに意識を失ってしまったが、若いから持ち堪えるだろう。
「……バーバリー?」
しかし、問題が1つ。
先ほどまで側に居たはずの、バーバリーの姿が見えない。
どこに行ったのかな。怪しい人物が捕まり、ただでさえ警戒体制が敷かれているんだ。あまり、宮殿の中を歩かない方が良いだろう。
まあ、万が一不審者として捕まっても、引き渡されるところは騎士団だ。
ラベル殿がうまくやってくれるだろう。これから、眠り姫の診察に行くからついでに探してみようか。
それより、そろそろお嬢様たちがカウヌ国に到着する頃だな。
モンテディオで見つかった焼死体がジャック・フルニエのものではないとすれば、誰かが身代わりになっていると考えるのが普通だと思う。
誰だ? 私もカウヌに行って、安置されている遺体を確かめたい。……何か、大きな過ちが起きる前に。
***
自国で起きていることを何一つ知ることなく、私はカウヌを満喫していた。
昨日は香水専門店とシャラナ湖、今日はミュージカル! とーっても楽しかったわ。
イリヤとドミニクに、銀の球体が付いたピアスをプレゼントしちゃったし。アインスやバーバリー、アランにフォーリー、ザンギフ……。とにかく、たくさんの人たちにキーホルダーとか栞とかたくさん買っちゃった!
ドミニクったら、嬉しそうに右耳へつけてたな。イリヤは両耳用で、今もつけてくれている。
「アリス、美味しい?」
「ええ、とっても! イリヤも気に入ったみたい」
「あはは、食いっぷり最高! イリヤ、店中のスイーツを食べなさい!」
「え、良いんですかあ!?」
「ダメ! ちょっと、シャラ。ダメよ、他のお客さんの分もあるでしょう」
「ふふ、アリスならそう言うよね」
「もう!」
今は、シャラおすすめの貴族カフェでスイーツを食べてるところ。
ドミニクは、「俺はパス」って言ってどこか行っちゃった。マリさんとイリヤだけ、隣のテーブルについてスイーツを食している。
私とシャラは、パンケーキ! こんなトロットロな生クリームは初めて食べたわ。彼女が言うには、搾りたての牛乳をすぐに生クリームにしてるから美味しいんだって。私は勇気が出なかったけど、シャラの食べてる生クリームにはバラの香料が使われてるの。アルコールで成分を飛ばしているから、身体には害がないとか。
自国なら食べたけど、他国で体調は崩したくないのよ。
昨日行くはずだったミュージカルの座席にも、心地良い香りが漂っていた。
聞けば、「アロマオイル」というものなんだって。どう言う仕組みなのかよくわかってないんだけど、蒸気で香りを飛ばすんだとか。お茶が終わったら、その専門店を見せてくれることになってるの。「内緒にしてね」って言って企画書の話をチラッとしたら、面白がって協力してくれることになったのよ。「お父様にも内緒にする!」って約束してくれたわ。
「カウヌはどう? 引っ越すなら、物件紹介するわ」
「無理よ、うちは子爵だから。それに、優しいんだけど考えることが苦手な家族なの。カウヌのシステムだと、すぐに平民になっちゃう」
「あ、そっか。そっちとはシステムが違うもんね。じゃあ、ヴェーラーの力で……」
「ダメ! そんなことしたら、許さないわ!」
「わかってるわよぅ。そんな怖い顔しないで」
「もう!」
「ふふ、楽しい」
シャラったら、私の反応を見て楽しんでるのよ。全く!
でも、彼女が言うようにとても楽しい。
そして、私をアリスだって知っても、こうやって笑いかけてくれるのが嬉しい。
カウヌに来てよかったな。
連れてきてくれたドミニクに感謝しなきゃ。……先に、宿泊するところに戻ってるのかな。あの人、神出鬼没だから探すのが大変なのよね。もう、別れてかれこれ3時間。お昼寝でもしてれば良いのだけど。
そして、イリヤ。
あなた、そのお皿何枚目? 私の目が正常なら、5枚目に見える。
目の前のマリさんも、ドン引きの皿数なんだけど……。こういうところは、男の子よね。
「ヴェーラー公爵令嬢様、プライベート中失礼いたします」
「あら、久しぶり。ドーラ様」
「お久しぶりでございます、お嬢様。緊急でお耳に入れておきたいことが……」
「私、席を外していますね」
あと2口くらいでパンケーキがなくなるってところで、軍服に身を包んだ男性が近寄ってきた。その前にイリヤが顔を上げたから、なんとなく誰か来るなって思ったけど……。おかわりを持ってきた店員さんって感じではなさそう。
それに、軍服の胸元には、カウヌ国の紋章が掲げられているし。もしかして、カウヌの騎士団だったり?
私は、サッと席を立った。
すると、すぐにその手をシャラが掴んでくる。
「ベル、座ってて」
「……でも」
「私が招いたんだから、気を遣わないでちょうだい。必要なら言うから。良いでしょう、ドーラ様」
「はい、隣国の方ですよね。であれば、一緒に聞いていただいた方が良いかと」
「ベルたちも関係あること? 何かしら」
そう言われたら、私は座るしかない。
さっきまでは、失礼だけどフレンドリーすぎて「本当に公爵令嬢なの?」って思ってたけど、こういう場面を見るとよくわかる。シャラは、こうやってお家を背負っているのね。
しかも、ちゃんと私のことをベルと呼んでくれている。
頭が上がらないわ。
「まずは、こちらカウヌ国皇帝直属部隊近衛軍団の副団長のドーラ様」
「シン・ドーラと申します。以後よしなに」
「ご丁寧にありがとうございます。私、レオーネ国のベル・フォンテーヌと申します」
「礼儀正しい子でしょう?」
「お美しいです。急ぎでなければ、お茶に誘ったくらいに」
「ダメよ、私のお友達なんだから。ところで、用事って何かしら?」
「はい、ヴェーラー公爵が北に行かれているとのことで、ヴェーラーお嬢様へ報告させてください。領地で、焼死体が上がりました」
「……焼死体?」
挨拶のために再度立った私は、そのまま席に座った。
イリヤを紹介している時間はなさそう。焼死体ですって? どこかで火事でもあったのかしら。まさか、止まっているいかがわしい宿とか?
マリさんとイリヤの方を見ると、いつの間にか席を立って私たちの後ろについている。
イリヤは、何やら真っ青な顔色をしながら。
「領民の話によりますと、男たちの言い争いの声が聞こえた瞬間に火の手が上がったようです。ご確認いただいても?」
「良いけど、隣国と関係あるような話をしていなかった? 何が関連するのかわからなかったわ」
「その焼死体が持っていた身分証が、レオーネ国のものだったのでもしかしたらと思いまして」
「なるほど、それならわかるわ。身分証は、今どこに?」
「こちらに。少々焦げていますが、名前ははっきりと記載されています」
うちの国は、カウヌよりも大きい。
だから、もしうちの国の人が焼死体として発見されても、私が知ってる確率は低いと思う。
それでも、シャラが手招きをするからその手に持っている身分証を覗くしかない。
ちょっと顔色が悪いけど、どうしたのかな。お役に立てなかったらただただ個人情報を覗く人になっちゃうな、なんて思いながら。
「っっ!!」
「……お嬢様!?」
「嘘。嘘……」
「お嬢様、どうされたのですか!」
でも、そんな心配は不要だった。
だって、知ってる人だったから。
知りすぎて、そのまま絨毯に膝をつけたくらい。
「お知り合いでしたか……」
「失礼します、ドーラ副団長様。ベルお嬢様の付き人です。僕に、身分証明書を見せていただいてもよろしいでしょうか」
「それを決めるのは、ヴェーラーお嬢様です」
「イリヤ、好きに見なさい」
「ありがとうございます、シャラお嬢様」
倒れた私の背中を優しくさすってくれたイリヤが、立ち上がってテーブルの方へと歩いていくのが視界から見える。先ほどまでデザートを頬張っていた彼女ではない。あの鋭い雰囲気を隠そうともせずに、シャラの持つ身分証明書を覗き込んでいる。
イリヤも、驚いたみたい。
小さな声で、
「……ジェレミー」
と、偽名をつぶやいていたから。
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