精霊王に拾われた虐げられ皇子、追放されたけど人外たちに溺愛されながら育ちます

はんね

文字の大きさ
5 / 45
13番目の皇子

魔法の先生

しおりを挟む
 アルテミス皇子の発熱騒動がおさまったと思ったら、さらなる問題が発生した。皇子の魔法教育である。貴族の子供は通常、社交界に出る十四、五の年頃から魔力が発現し、適性の高いものは学園に通ったり家庭教師を雇うことになる。いずれにしても、最初に師事する相手によって魔法の性質は大きく変わる。有名な魔法士には袋にずっしりの金貨が贈られ、我が子の教師にと引っ張りだこになる。それゆえ、平民で魔法が使えないアリスにはピンとこないようだが、ユミルは皇子の魔力発現に必要以上に気を張ってピリピリしていた。
「アルテミスさま、魔法が使えるようになったの? 俺がでかい火花のゲップを出す魔法、教えてあげよっか?」
「俺が鼻からナメクジが出る魔法、教えてあげるよ!」
「カーディ!セルジュ!!絶対にやめてください!そんなものを覚えさせたら承知しませんからね!!」
「えーユミルさまひどい、超面白いのに」
「つまんねーの」
 目を三角にして怒るユミルに追い立てられ、双子の灰竜たちはつまらなそうな顔で出て行った。その背中を見送りながら、アルテミスは不思議そうに首を傾げた。
「どうしてダメなの、ユミル?」
「最初に覚える魔法は、とても特別なものなんです。ですから、品位があり、皇子にふさわしい魔法でなくては」
「そうなんだ、ユミルは物知りだね」
「滅相もないです。アルテミス様には、きっと相応しい魔法の先生を見つけますからね!」
 とはいえ、年端もいかぬ子供に魔法を教えてくれる魔法士などいるのだろうか。皇帝の他の皇子たちには、それぞれ優秀な家庭教師がついているのだろう。しかし、平民のアリスにも、人間界に知り合いのいないユミルにも、教師を頼める当てなどなかった。
「バーティミアス様、皇都の学園の教師にお知り合いはいないのですか?」
「いるが、最後に会ったのは五百年前だ」
「……もう、学園にはいらっしゃらないでしょうね」
「ふむ、つまらんな」
「人間の寿命は短いですから、仕方がないでしょう」
 窓の外でカーディと剣術ごっこをする皇子を見下ろす。あれもどうせあっという間に年をとり、私の手の届かない場所へ行ってしまうのだ。もうそろそろ夢と現実の区別がつく年頃だからと、皇子の前に姿を現すのは少し前から禁止されていた。鹿さん、鹿さんと鈴のような声で呼ばれることもなくなり、私は退屈を極めていた。
「そうだユミル、いるじゃないか適任者が」
「どなたですか?」
「魔法を極め、博識で、品位があり、皇族の教師に相応しい威厳まで備えた打ってつけの人物だ」
「それは素晴らしいです!魔法塔の魔法士ですか?それとも世界樹の森の賢者様でしょうか?」
「そんなんじゃない、もっと高貴で、比類ない力を持つ人物だ」
「ますます素晴らしいです。そんな方が皇子の師匠になってくださったら、これ以上ない僥倖です。で、どちらにいらっしゃるんです?」
「目の前にいるじゃないか、ユミル」
「え?めのまえ……?まさか、その」
「そうだぞユミル。そのまさかだ!この私が教師になればいい!お前たちの人間ごっこに私も参加するぞ!面白くなってきた、なぁユミル?」
「最悪だ……」
 頭を抱えるユミルを横目に、私はウキウキと立ち上がり、変身の準備を始めた。

#
 バーティミアス・ディアウッド。私が考えた人間用の名前である。隣国フェルミア王国のディアウッド伯爵家の長男、王立魔法学園の教授という設定だ。ディアウッド家など存在すらしていないが、詳しく調べられたら面倒なので、書類をでっち上げ、関係者にも適当な暗示を施しておいた。
 長すぎる髪の毛はひとつに結び、魔法士らしい銀糸の刺繍を施した濃紺のローブに、蔦と牡鹿の角を模した紋章のブローチを胸元に飾る。どこからどう見ても高貴な貴族の魔法士だ。千年以上生きてきたが、人間のふりなどするのは初めてで、つい張り切ってしまった。
「バーティミアス様だって鏡には映らないんですから、気をつけてくださいよ」
「私はお前と違って、幻影で誤魔化せる」
「途中で飽きても投げ出したら許しませんよ。皇子が立派に魔法を使えるようになるまで、しっかり指導してください」
「わかってる、お前は私をなんだと思ってるんだ」
「傲慢で高慢でマイペースで自分勝手でわがままで性悪な精霊王様です」
 積年の恨みを込めてこちらを睨むユミルに、心当たりしかない私はそっと視線をそらした。ユミルはそれからも、「危ない魔法はなし」「皇子には優しく敬意を持って接すること」「難しい話ばかりして皇子を疲れさせるな」などと、延々と注意事項をくどくどと言い募ってきた。それらすべてを聞き流しながら、私は皇子の部屋へと向かう。
「最近は図鑑や歴史についての本も読まれるようになり、簡単な読み書きも出来るようになりました」
「それはすごいな」
「でしょう?でもまだ皇子は幼い、たったの四歳ですからね?何度も言いますが──」
「危ない魔法はなし、だろう。聞き飽きたぞユミル」
 私は指をひと振りし、ユミルに沈黙魔法をかけた。唇同士がくっついて喋れなくなったユミルは声にならない抗議をあげ、怒った顔でタンタンと足を踏み鳴らした。まったく、まだまだうさぎだった頃の癖が消えないようだ。仕方のないやつめ。
「そこで大人しく見ていなさい」
 私は意気揚々と皇子の部屋の扉を開けた。さぁ、楽しい魔法の授業の始まりだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

​『追放された底辺付与術師、実は【全自動化】のチートスキル持ちでした〜ブラックギルドを追い出されたので、辺境で商会を立ち上げたら勝手に世界規

NagiKurou
ファンタジー
​「お前のような、一日中デスクに座って何もしない無能はクビだ!」 国内最大のギルド『栄光の剣』で、底辺の付与術師として働いていたアルスは、ある日突然、強欲なギルドマスターから追放を言い渡される。 しかし、彼らは知らなかった。ギルドの武器の自動修復、物流の最適化、資金管理に至るまで、すべてアルスの固有スキル【全自動化(ワークフロー構築)】によって完璧にシステム化され、回っていたことを。 「俺がいなくなったら、あの自動化システム、全部止まるけど……まあいいか」 管理権限を解除し、辺境へと旅立ったアルス。彼は自身のスキルを使って、圧倒的な耐久力を誇る銀色の四輪型重装ゴーレムを作り出し、気ままな行商を始める。 一度構築すれば無限に富を生み出す「全自動」のチートスキルで、アルスの商会は瞬く間に世界規模へとスケールしていく! 一方、すべてを失ったギルドは、生産ラインが崩壊し、絶望のどん底へと突き落とされていくのだった……。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

元勇者は魔力無限の闇属性使い ~世界の中心に理想郷を作り上げて無双します~

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
  魔王を倒した(和解)した元勇者・ユメは、平和になった異世界を満喫していた。しかしある日、風の帝王に呼び出されるといきなり『追放』を言い渡された。絶望したユメは、魔法使い、聖女、超初心者の仲間と共に、理想郷を作ることを決意。  帝国に負けない【防衛値】を極めることにした。  信頼できる仲間と共に守備を固めていれば、どんなモンスターに襲われてもビクともしないほどに国は盤石となった。  そうしてある日、今度は魔神が復活。各地で暴れまわり、その魔の手は帝国にも襲い掛かった。すると、帝王から帝国防衛に戻れと言われた。だが、もう遅い。  すでに理想郷を築き上げたユメは、自分の国を守ることだけに全力を尽くしていく。

処理中です...