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六. 回れ、ザッシーキ
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どうやらここは宮内さんと経立からなる教室らしい。名づけるなら不可思議教室というところか。ふと顔をあげると、見知った顔があった。
「なにをやっているのだ」
「おう、瑞海か」
天狗であった。長い鼻も背中の翼もなく、一般的なイメージの修験者装束でもない。みた目は普通のおっさんだ。手には水を入れたバケツをもっている。
「たたされておる」みればわかる。漫画でしかみたことのない姿だ。
天狗のヤツはむかしから多雨野異形界のファッションリーダーを自負していたが、そのセンスたるや凄まじい。原色のポロシャツの襟をたてつつその裾をハーフパンツにインし、足元は白いハイソックスでキメている。貰い泣きしそうだ。
「誰に?」
「宮内さんにだ。垂直跳びで少々法力を使ってズルしたのがバレた」
おっさん然としていても天狗は空を飛べる。その力を使うのはたしかにズルだわなあ。
「久しぶりに会ったと思えば、たいそう情けない姿だ」
「こっちは久しぶりでもないがな」
天狗がニヤリと笑ってみせた。意味深なセリフでカッコつけているつもりなのだろう。だが、所詮はポロシャツイン野郎だ。もっと言えば小脇にセカンドバックを抱えている。噴飯物だ。
「いいことを教えてやる。いまオシャレの最先端は、漢字で『一番』とプリントされたTシャツだ」
「マジ?」食いつくファッションリーダー。
「マジマジ、大マジだ。だが、おしゃれ上級者のみが許されるファッションでな、人間界でも着こなせる奴は少ない」
「だからか。たしかにみたことないもんなあ、そんなTシャツ」
「ああ、だからだ。よく覚えておけ」
天狗と別れ、下流へと歩く。
それにしても不可思議教室は懐かしい顔ばかりであった。あの場所は異形のたまり場で、帰郷してから二度ほど顔をだしたが、天狗をはじめまだ再会できていない者のほうが多いぐらいだった。それが今日はフルメンバーだ。ニューフェイスのトンビもいた。
「ちと覗いていくか」もう一か所、近くにむかしからよく知る場所があった。
しばらく歩き、小山の裾に辿り着く。川のせせらぎがここまで聞こえる。草叢をかき分けると洞窟の入り口が現れる。膝を折り、四つん這いで奥へと向かった。
少し進むと突然広い空間が現れる。いわゆる鍾乳洞で、天井は高い。夏とは思えぬほどひんやりした空気は肌を刺すほどだ。頭上から幾筋かの光が差しこみ、静かな水面を蒼く照らしていた。
眼前に広がるのは地底湖であり、かつて多雨野が湖であったころの名残だ。天井から垂れ下がった石から雫が一滴、水面を叩く。ピシャンという音がして、湖面に波紋が広がり、溶けるように消えてなくなる。
荘厳なる空間を目の前にし、覚えず全身が引き締まる。ここが多雨野の根源だ。
深く息を吸った。肺が凍えるかと思うほど凄烈なる空気だ。壁の傾きや岩の高さ、足元の凹凸などを確かめ脳裏に刻む。
地底湖に背を向け歩きだす。私はまだなにも為していない。
「なにをやっているのだ」
「おう、瑞海か」
天狗であった。長い鼻も背中の翼もなく、一般的なイメージの修験者装束でもない。みた目は普通のおっさんだ。手には水を入れたバケツをもっている。
「たたされておる」みればわかる。漫画でしかみたことのない姿だ。
天狗のヤツはむかしから多雨野異形界のファッションリーダーを自負していたが、そのセンスたるや凄まじい。原色のポロシャツの襟をたてつつその裾をハーフパンツにインし、足元は白いハイソックスでキメている。貰い泣きしそうだ。
「誰に?」
「宮内さんにだ。垂直跳びで少々法力を使ってズルしたのがバレた」
おっさん然としていても天狗は空を飛べる。その力を使うのはたしかにズルだわなあ。
「久しぶりに会ったと思えば、たいそう情けない姿だ」
「こっちは久しぶりでもないがな」
天狗がニヤリと笑ってみせた。意味深なセリフでカッコつけているつもりなのだろう。だが、所詮はポロシャツイン野郎だ。もっと言えば小脇にセカンドバックを抱えている。噴飯物だ。
「いいことを教えてやる。いまオシャレの最先端は、漢字で『一番』とプリントされたTシャツだ」
「マジ?」食いつくファッションリーダー。
「マジマジ、大マジだ。だが、おしゃれ上級者のみが許されるファッションでな、人間界でも着こなせる奴は少ない」
「だからか。たしかにみたことないもんなあ、そんなTシャツ」
「ああ、だからだ。よく覚えておけ」
天狗と別れ、下流へと歩く。
それにしても不可思議教室は懐かしい顔ばかりであった。あの場所は異形のたまり場で、帰郷してから二度ほど顔をだしたが、天狗をはじめまだ再会できていない者のほうが多いぐらいだった。それが今日はフルメンバーだ。ニューフェイスのトンビもいた。
「ちと覗いていくか」もう一か所、近くにむかしからよく知る場所があった。
しばらく歩き、小山の裾に辿り着く。川のせせらぎがここまで聞こえる。草叢をかき分けると洞窟の入り口が現れる。膝を折り、四つん這いで奥へと向かった。
少し進むと突然広い空間が現れる。いわゆる鍾乳洞で、天井は高い。夏とは思えぬほどひんやりした空気は肌を刺すほどだ。頭上から幾筋かの光が差しこみ、静かな水面を蒼く照らしていた。
眼前に広がるのは地底湖であり、かつて多雨野が湖であったころの名残だ。天井から垂れ下がった石から雫が一滴、水面を叩く。ピシャンという音がして、湖面に波紋が広がり、溶けるように消えてなくなる。
荘厳なる空間を目の前にし、覚えず全身が引き締まる。ここが多雨野の根源だ。
深く息を吸った。肺が凍えるかと思うほど凄烈なる空気だ。壁の傾きや岩の高さ、足元の凹凸などを確かめ脳裏に刻む。
地底湖に背を向け歩きだす。私はまだなにも為していない。
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