異形の郷に降る雨は

志ノ原新

文字の大きさ
52 / 84
六. 回れ、ザッシーキ

5

しおりを挟む
 ちなみにザッシーキの得意料理は天ぷらということになっている。肩にかけたトートバックにはおもちゃの包丁とオレンジ色のホヤボールがあり、怒るとキレ気味に投げつけるというキャラ設定だ。なぜそんな設定なのか――それは若葉に訊いてくれ。
 ――栴檀は双葉より芳し。
 という言葉がある。その一方で大器晩成という言葉もあるので、宮内さんなら「どっちやねん」とツッコミをいれるところだろう。しかし、関西人は皆、あのようにツッコミ体質なのだろうか。宮内さんはテレビのニュース番組にもツッコミを入れる。「うお、アナウンサー噛みよった」とか「声、小さっ。もっと大きな声で、おっはようございまっすって言うてみい」とか。まあ、カワイイし眼鏡なのでノー・プロブレムなのだが――話が逸れた。
 栴檀は双葉より芳し、という言葉のとおり、どのような分野でも偉業を成し遂げる人間はデビュー時から尋常ではないことが多い。それはザッシーキもおなじだ。尋常じゃないデビューをみせつけようか。
 すべての準備が整うと、町長のインタビューがはじまった。背後にはザッシーキのイラストが描かれたパネルが映えている。
「――なるほど、このイラストがザッシーキちゃんですね」
 来年開催予定のイベントの話に移ると、カメラがズームでイラストを捉える。いまのうちに急いで八重樫アナの傍へ。
「かわいいキャラクターですねえ」
「はいぃ」
 緊張のせいか町長の声が裏返った。
「そして、こちらが本物のザッシーキちゃんです」
 カメラがこちらに向くと、ひと呼吸おいてピョコっと頭をさげた。これで百人中九十六人は虜だろう。ちょいワルのゆるキャラが放つ魅力を思い知れ。
「ザッシーキちゃんは得意なことがあるって聞いたけど、なにかな?」
 八重樫アナは耳に手を当ててうんうん頷くと、
「そっかぁ。料理が得意なんだね。他にもなにかある?」
 またうんうん頷く。
「へぇ、踊りが得意なんだね! じゃあ、踊ってみてくれない?」
 待ってました。合点承知の助である。誰か知らないけど、承知の助って。
 とにもかくにも、今時の歌って踊れるアイドルグループの振り付けを研究しまくった成果がここに結実するのだ。みよ、この華麗なるダンスを。踊るゆるキャらここに在り。
 右に左に、軽快に刻むステップ。両腕を大きく、波のようにスウィング。まえ、うしろ、まえ、うしろ。あ、ワン、ツー、ワン、ツー……腰をシェイク、シェイク、セクシーにシェイク、そして大きくジャーンプ。さらに後ろ向きにでんぐり返り。本来ならバク転をしたいところだが着ぐるみでは無理だ。いや、着ぐるみがなくともバク転はできない。それがなんだ、どうした。歴史に名を刻むことにおいて、バク転などなんの役にもたたない。徳川家康はバク転できたのか。卑弥呼がバク転できたなんて文献などないはずだ。
 そうこうするうち、きっちり気持ち悪くなってきた。
 呼吸のしづらい着ぐるみで激しく動くと、アレだな。どうやら眩暈がするようだ。ただいま身をもって体験中である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラックベリーの霊能学

猫宮乾
キャラ文芸
 新南津市には、古くから名門とされる霊能力者の一族がいる。それが、玲瓏院一族で、その次男である大学生の僕(紬)は、「さすがは名だたる天才だ。除霊も完璧」と言われている、というお話。※周囲には天才霊能力者と誤解されている大学生の日常。

ラヴェンナ・ヴァラディ ~語れる司書の物語~

ほか
キャラ文芸
中央ヨーロッパのとある小国にある、世界一美しい図書館には風変わりなサービスがある。その名は”宅配司書”。一人の女性司書が、世界各国どこへでもかけつける。地球上のどこかで待つ、たった一人のための本のプレゼン――ブックトークを届けるために。 「英語圏の本ならなんでも」 「舞台化に適した原作本」 「寂しいとき、寄り添ってくれる一冊」 彼女はどんな依頼にも、選りすぐりの数冊を選び、物語のように一冊一冊を結び繋いで、あなたに紹介してくれる。 アウトサイダーと言われる人々が示す生き方。天才が持つ傷。孤独がくれるギフト。 社会の王道からあぶれてしまった人々へ紡ぐ、本の紹介。 書物たちの世界は奥深く、時に人生のひみつにたどり着いてしまうかもしれない――。 人生が息苦しく感じたことのあるあなたへ贈る、ビブリオ・トラベル・ロマン。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

煙草屋さんと小説家

男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。 商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。 ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。 そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。 小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。

処理中です...