異形の郷に降る雨は

雨尾志嵐

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六. 回れ、ザッシーキ

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 ちなみにザッシーキの得意料理は天ぷらということになっている。肩にかけたトートバックにはおもちゃの包丁とオレンジ色のホヤボールがあり、怒るとキレ気味に投げつけるというキャラ設定だ。なぜそんな設定なのか――それは若葉に訊いてくれ。
 ――栴檀は双葉より芳し。
 という言葉がある。その一方で大器晩成という言葉もあるので、宮内さんなら「どっちやねん」とツッコミをいれるところだろう。しかし、関西人は皆、あのようにツッコミ体質なのだろうか。宮内さんはテレビのニュース番組にもツッコミを入れる。「うお、アナウンサー噛みよった」とか「声、小さっ。もっと大きな声で、おっはようございまっすって言うてみい」とか。まあ、カワイイし眼鏡なのでノー・プロブレムなのだが――話が逸れた。
 栴檀は双葉より芳し、という言葉のとおり、どのような分野でも偉業を成し遂げる人間はデビュー時から尋常ではないことが多い。それはザッシーキもおなじだ。尋常じゃないデビューをみせつけようか。
 すべての準備が整うと、町長のインタビューがはじまった。背後にはザッシーキのイラストが描かれたパネルが映えている。
「――なるほど、このイラストがザッシーキちゃんですね」
 来年開催予定のイベントの話に移ると、カメラがズームでイラストを捉える。いまのうちに急いで八重樫アナの傍へ。
「かわいいキャラクターですねえ」
「はいぃ」
 緊張のせいか町長の声が裏返った。
「そして、こちらが本物のザッシーキちゃんです」
 カメラがこちらに向くと、ひと呼吸おいてピョコっと頭をさげた。これで百人中九十六人は虜だろう。ちょいワルのゆるキャラが放つ魅力を思い知れ。
「ザッシーキちゃんは得意なことがあるって聞いたけど、なにかな?」
 八重樫アナは耳に手を当ててうんうん頷くと、
「そっかぁ。料理が得意なんだね。他にもなにかある?」
 またうんうん頷く。
「へぇ、踊りが得意なんだね! じゃあ、踊ってみてくれない?」
 待ってました。合点承知の助である。誰か知らないけど、承知の助って。
 とにもかくにも、今時の歌って踊れるアイドルグループの振り付けを研究しまくった成果がここに結実するのだ。みよ、この華麗なるダンスを。踊るゆるキャらここに在り。
 右に左に、軽快に刻むステップ。両腕を大きく、波のようにスウィング。まえ、うしろ、まえ、うしろ。あ、ワン、ツー、ワン、ツー……腰をシェイク、シェイク、セクシーにシェイク、そして大きくジャーンプ。さらに後ろ向きにでんぐり返り。本来ならバク転をしたいところだが着ぐるみでは無理だ。いや、着ぐるみがなくともバク転はできない。それがなんだ、どうした。歴史に名を刻むことにおいて、バク転などなんの役にもたたない。徳川家康はバク転できたのか。卑弥呼がバク転できたなんて文献などないはずだ。
 そうこうするうち、きっちり気持ち悪くなってきた。
 呼吸のしづらい着ぐるみで激しく動くと、アレだな。どうやら眩暈がするようだ。ただいま身をもって体験中である。
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