【完結】推しを死亡フラグから救済したら溺愛ルートに入りました⁉︎

白(しろ)

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第一章

推しの笑顔はオレを救う

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 声を掛けてもルークは手を離さないし、足も止まらない。
 人混みの中を引っ張られながら歩くけれど、息が上がるなんてことはなかった。ルークがオレに歩調を合わせてくれているからだ。
 推しが、推しがオレに歩み寄っている……⁉︎
 さながら気分は気性の荒い野良猫が懐いてくれた時のそれである。オレは嬉しかった。けれど同時に心臓がうるさかった。

「なあ、手、いつまで繋ぐの」
「はぐれそうだからな、お前は」
「今まではぐれなかっただろ」
「そうだな」

 ルークは俺の方を見ない。俺からはルークの背中と、後頭部しか見えない。

「ルーク、なんか機嫌いい?」
「さあな」

 そのまま人混みの中を歩き、俺たちは最初に来た脇道に入った。途端に人の気配から離れて、賑やかさがどんどん遠くになっていく。
 道も薄暗いと思うのに、それでも行きよりもなぜか明るく見えた。

「もうはぐれねえよ」
「ああ」
「離さねえの?」
「気分じゃない」

 不思議なやりとりをして、それからは会話もなく歩き続ける。

「……フルーツ買って帰る?」
「ああ」

 前後だった距離が縮まって、横に並ぶ。
 繋がれた手はそのままで帰路とは違う道を進む。
 また新しい通りに出ると、祭りとは離れているからかそこには日常が広がっていた。

「ここ、オレがよく買い物にくる通り」
「活気があるな」
「王都だしな、ここ」

 もう夕方が近いからか、空の色が段々と変わり始めている。
 祭り帰りの人たちも多く見られて、その手には屋台で買ったらしい装飾品を着けている人もいた。そういうのを観察しながら歩いていると、馴染みの店が近付く。

「ルーク、手離して。そろそろ店着く」

 そう言うとあっさりと手は離れた。ルークの体温が移った手を思わず見てしまいながら進んだ先で、八百屋の店主が俺を見つけたらしく声を上げていた。

「リアスちゃ~ん! お祭どうだった、ぁあん⁉︎」

 素っ頓狂な声が聞こえたと思ったら、三つ編みを揺らしながら店主がこちらに爆走してくる。

「あれはなんだ」

 魔物を見た時と同じ声だった。

「ちょっとリアスちゃん! そのメンズなの⁉︎  そのイケてるメンズだっていうのぉ⁉︎」

 腰をくねらせながら爆走してきた店主に、俺は特に驚くこともなく頷いた。

「そう。格好いいだろ」
「格好いいどころの話じゃないわよ!」
「今日フルーツ買いに来たんだけど、いいのある?」
「嘘でしょ? こんな爆弾お隣に控えさせたまま買い物する気?」
「おすすめどれ?」
「んもう! 本当にマイペースね!」

 構わずに店の方へと進めば店主は案外きちんと仕事をしてくれる。けれどルークはずっと警戒したまま店主を気にしていて、買い物が終わってから俺は笑ってしまった。

「またそのメンズ連れてくるのよリアスちゃぁん!」

 笑いながら後ろに手を振って、それからルークを見る。

「あれはなんだ」

 さっきも聞いたセリフにまた笑いつつ俺は「知り合い」と答えた。

「人間か」
「どう見ても人間だろ」

 八百屋から家までは案外近い。
 その距離の間会話はなかったけれど、気まずさは感じなかった。沈黙でも心地がいいのを不思議に思いつつ、店であり家でもある建物が見えてくると俺はそれまで感じていなかった疲労感を覚えた。

「今日はしっかり風呂入ろ」
「急にどうした」
「歩き過ぎて足が疲れたと思って」
「軟弱者め」

 いつもと同じ軽口に言い返してやろうと顔を上げた。
 けれどそこにあったのは、いつもの無表情じゃない。

「ルーク」

 意地悪な笑みでもない。少しだけ眉を寄せ、けれどどこか楽しそうに、普通に笑うルークがそこにいた。

「なんだ」

 声を掛けたらいつもの無表情に戻ってしまったけれど、一瞬でもあの笑顔が見られて、疲労なんてあっという間に吹き飛んでしまった。

「いやー? 幸せだなって思っただけ」
「おかしなやつだな」
「人間みんなどこかしら変だって」
「お前は飛び抜けている」

 扉を開けて家に入る。
 楽しくて嬉しい気分のままでいたから、オレは気が付かなかった。
 オレたちが家に入っていく姿を、じっと見ていた人物がいたことを。

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