【完結】元つく二人の珍道中!〜(元)魔王と聖女の全国行脚美食旅〜

白(しろ)

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第一章 北の国の美味しいもの編

あたたかい蜂蜜の飲み物

「温かい飲み物はいかがですかー! 今日はお子さんも楽しめる蜂蜜とスパイスのあまーい飲み物だよー!」

 二人を見守っていた時に聞こえた声に思わず顔を向ける。そこには移動式の屋台を引いた青年が人好きする笑顔で商売をしている姿があった。

「一ついただけますか?」

 ステラは立ち上がり迷わず購入を決めた。「毎度あり!」元気の良い声がして、それから数秒も無く木製のカップに入った飲み物を渡される。料金と引き換えにそれを受け取って元のベンチにまで戻るとカップを両手で持ってじんわりと手のひらに伝わる温度と甘くスパイシーな香りを楽しむ。
 息を吹き掛けてから慎重に口をつけると香り通りの甘さと、その後を追う様にシナモン系の香りと舌の上で少しピリつく香辛料の味わいにほう、と息を吐いた。思っていた以上に甘い味に満足感を得つつ雪合戦に勤しむ二人に視線を戻せばリヴィウスだけがこちらに戻って来ているのがわかった。

「おかえりなさい。どうしたんですか?」
「子供たちが群がって来たから離れた。ああいうのはどう扱えばいいのかわからん」
「ああ、なるほど」

 まだ広場にいるてぷの方を見てみれば同年代と思える子供たちに囲まれているのが見えた。きっとさっきまでやっていた雪合戦の影響だろう。声や表情まではわからないけれど、てぷが楽しそうなのは空気で伝わって来て頬が緩む。

「……それはなんだ」

 小さく低い声にまた視線を戻すも目が合うことはない。なぜならリヴィウスの目はステラの持っているカップに釘付けだからである。

「温かい蜂蜜の飲み物です。飲みますか?」

 素直に頷く様子に目を細めカップを渡す。ステラには少し大きいと思ったカップもリヴィウスの手に渡ると丁度いいか少し小さいくらいに見えてしまう。まだ買って然程時間が経っていないからか飲み物は暖かく、リヴィウスはそれに息を吹き掛けてからそっと口を付けていた。

「……どうですか?」

 正直、訊かなくてもわかる。

「…悪くない」

 僅かに上がった口角に細められた目元、普段よりもずっと柔らかな声音は何よりも“美味しい”を物語っていた。

「全部飲んじゃダメですよ」
「……もう一個買えば良いだろう」
「お金は無限じゃないんです。贅沢は出来ません」
「……」
「そんな目で見たってダメです。半分こです」
「……この俺から半分も、だと」
「元々は私のですから」

 リヴィウスは案外素直で、そして少し口下手だ。特に感情を表すことに関しては。
 てぷを煽ったり不遜な態度を取ったりすることには呆れるほどに長けているのに、素直に美味しいだったり嬉しいだったりと口にすることが出来ない。というか多分、知らないのだ。
 彼はこの世に存在したその時から魔王の角が落ちるあの瞬間まで、きっととても少ない感情と情報の中で生きてきたのだと思う。生まれ落ちた瞬間魔王となり、周りは自分より弱い者しかおらず、友人と呼べる存在は魔族ではない闇の精霊だけ。

 もちろん魔族には家族というものも存在しない為、リヴィウスは随分と長い間独りだったのだ。
 そういう話をステラは直接聞いた訳ではないが、二人から聞く話を断片的に繋ぎ合わせるとなんとなくそんな感じがしたのだ。

「…一つのものを分け合うのも素敵なことですよ」
「自分の分が減るだろう」
「でも同じ美味しいを共有できます」
「…同じ」
「はい。自分が美味しいと思ったものを人にも美味しいと言って貰えると、私は嬉しいですよ」
「……そういうものなのか、人間は」

 目を伏せるとかつての仲間たちの顔を思い出す。二年という時間があったのに深く関わろうとしなかった、それでも大切だと思える仲間の顔だ。ステラが作った料理を美味しいと言って食べてくれたあの顔は、今でも思い出すだけで胸の内側があたたかくなる。

「…全員かどうかは分かりませんが、少なくとも私は嬉しいです」
「……」

 リヴィウスの視線がステラの顔から飲み物に移る。じ、と水面を見つめている横顔にステラは再び問いかけた。

「美味しかったですか? それ」
「……ああ」

 素直だが素直じゃない。けれどきちんとした答えにステラは微笑み、自分も飲みたいと手を伸ばしたのだった。
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