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第一章 北の国の美味しいもの編
当たり前になった時間
ステラの入浴は長い。この世界は数いる精霊の恩恵のおかげで大抵の国で豊かに水の張った浴槽で入浴することが出来る。ほかほかと湯気のたつ浴槽に体を沈めながら、ステラはぼんやりと次の目的地について考えていた。二人と一匹の旅には基本的に目的地は決まっていない。なんとなく北に行き、なんとなく南に行く、そんな行き当たりばったりなどうしようもないが楽しい旅なのだ。
でも明日でこの雪の国から出国すると決めた以上なんとなくでも行き先は決めておかなくてはならない。さてどうしようかと悩んでいれば、ふとかつての旅で出会った人が言っていた言葉を思い出す。
(「ここから西の方向にある国には綺麗な花の祭りがあるんだ」)
吟遊詩人が歌うようにハープを奏でながら語っていたのは船で向かう西の国の出来事。幾千万もの花が咲き乱れ、大きな風車が回る長閑な街。生憎魔王討伐の旅の途中だったから行くことは叶わず、それにもし行ったとしても世界を救うという重たい使命を背負った状態では十分に楽しめなかっただろう。
それならば、荷が軽くなった今なら行けるのではないだろうか。うん、行けるような気がしていた。
「よし」
バシャ、と音を立てて湯船から上がる。しっかりと温まった肌からはほこほこと湯気が上がり、体が冷える前にてぷやリヴィウスに施したものを自分にも塗布していく。もちろん自分にする時は幾分か雑だ。ステラは自分の容姿にそこまで頓着がないのである。だがしかし、きちんとしていなければならないという聖女の時の習慣が今もステラの肌や髪の治安を守っているのであった。
ぶわっと髪も乾かし、寝る為だけの軽い素材の服に着替えて寝室に戻る。すると既に室内は薄暗く、もうリヴィウスたちが眠っているのだと察知して途端に静かに行動し始める。
とは言っても風呂を上がったらもうすることといえば眠ることだけだ。けれどベッドのそばに行っても眠っているてぷの姿が無く、おや、と思いながら首を傾げていれば「プスー」と独特の寝息が聞こえてきてベッドの奥にあるテーブルに目を向ける。
するとそこにはステラとリヴィウスのマフラーを重ねた中に丸まって眠っているてぷの姿があって、そのあまりにも丸い愛おしさにでれっと表情が緩んだ。どうやら今日はあそこで眠るらしい。
それならば自分も眠ろうかベッドに手を着いた途端、それまで目を閉じていたリヴィウスが目を開けた。
「…遅い」
「待っていてくれたんですか?」
「……違う。お前がいないと寝つきが悪いだけだ」
「ふふ、そうですか」
のそりと幾重にも重なった掛布を持ち上げてくれたリヴィウスに可笑しそうに笑い、慣れた様子で隣に潜り込む。眠る時は大抵先にリヴィウスがベッドに入っていて、その後にステラが横になる。
途端に背中に腕が回って来て、二人の距離は無くなる。
「あたたかいですね」
「俺が冷めたベッドを暖めていたからな」
「ありがとうございます」
「…ふん」
ステラとリヴィウスが一緒に眠るのが当たり前になったのは旅が始まってからだ。最初はどこか渋っていたのに、今はこんなにも気を許してくれているのが嬉しくてステラは腕の中で微笑んだ。
「リヴィ」
「…なんだ」
「旅は楽しいですか?」
「……」
抱き締められていると言っても過言ではない程の密着具合のせいかステラからはリヴィウスの表情はわからない。けれどこの沈黙が今彼がどうにか言葉を探そうとしているものだとわかるからステラはじっと待った。
「…楽しいかどうかは、まだ上手く理解出来ない。だがお前たちと一緒に居ると時間がゆっくり進んでいるような気がする」
「…ゆっくりですか?」
真逆だなとステラは思った。ステラは楽しいと時間が早く過ぎていくからだ。
「魔界にいた時は時間があるのかどうかすらわからなかった。そもそも俺は千年生きているからな、時間なんてあってないようなものだった。……だからお前たちとの毎日はやることがあって、時間が長く感じる」
「……」
「なんだ、その顔は」
ステラは思わず顔を上げてリヴィウスを凝視した。
でも明日でこの雪の国から出国すると決めた以上なんとなくでも行き先は決めておかなくてはならない。さてどうしようかと悩んでいれば、ふとかつての旅で出会った人が言っていた言葉を思い出す。
(「ここから西の方向にある国には綺麗な花の祭りがあるんだ」)
吟遊詩人が歌うようにハープを奏でながら語っていたのは船で向かう西の国の出来事。幾千万もの花が咲き乱れ、大きな風車が回る長閑な街。生憎魔王討伐の旅の途中だったから行くことは叶わず、それにもし行ったとしても世界を救うという重たい使命を背負った状態では十分に楽しめなかっただろう。
それならば、荷が軽くなった今なら行けるのではないだろうか。うん、行けるような気がしていた。
「よし」
バシャ、と音を立てて湯船から上がる。しっかりと温まった肌からはほこほこと湯気が上がり、体が冷える前にてぷやリヴィウスに施したものを自分にも塗布していく。もちろん自分にする時は幾分か雑だ。ステラは自分の容姿にそこまで頓着がないのである。だがしかし、きちんとしていなければならないという聖女の時の習慣が今もステラの肌や髪の治安を守っているのであった。
ぶわっと髪も乾かし、寝る為だけの軽い素材の服に着替えて寝室に戻る。すると既に室内は薄暗く、もうリヴィウスたちが眠っているのだと察知して途端に静かに行動し始める。
とは言っても風呂を上がったらもうすることといえば眠ることだけだ。けれどベッドのそばに行っても眠っているてぷの姿が無く、おや、と思いながら首を傾げていれば「プスー」と独特の寝息が聞こえてきてベッドの奥にあるテーブルに目を向ける。
するとそこにはステラとリヴィウスのマフラーを重ねた中に丸まって眠っているてぷの姿があって、そのあまりにも丸い愛おしさにでれっと表情が緩んだ。どうやら今日はあそこで眠るらしい。
それならば自分も眠ろうかベッドに手を着いた途端、それまで目を閉じていたリヴィウスが目を開けた。
「…遅い」
「待っていてくれたんですか?」
「……違う。お前がいないと寝つきが悪いだけだ」
「ふふ、そうですか」
のそりと幾重にも重なった掛布を持ち上げてくれたリヴィウスに可笑しそうに笑い、慣れた様子で隣に潜り込む。眠る時は大抵先にリヴィウスがベッドに入っていて、その後にステラが横になる。
途端に背中に腕が回って来て、二人の距離は無くなる。
「あたたかいですね」
「俺が冷めたベッドを暖めていたからな」
「ありがとうございます」
「…ふん」
ステラとリヴィウスが一緒に眠るのが当たり前になったのは旅が始まってからだ。最初はどこか渋っていたのに、今はこんなにも気を許してくれているのが嬉しくてステラは腕の中で微笑んだ。
「リヴィ」
「…なんだ」
「旅は楽しいですか?」
「……」
抱き締められていると言っても過言ではない程の密着具合のせいかステラからはリヴィウスの表情はわからない。けれどこの沈黙が今彼がどうにか言葉を探そうとしているものだとわかるからステラはじっと待った。
「…楽しいかどうかは、まだ上手く理解出来ない。だがお前たちと一緒に居ると時間がゆっくり進んでいるような気がする」
「…ゆっくりですか?」
真逆だなとステラは思った。ステラは楽しいと時間が早く過ぎていくからだ。
「魔界にいた時は時間があるのかどうかすらわからなかった。そもそも俺は千年生きているからな、時間なんてあってないようなものだった。……だからお前たちとの毎日はやることがあって、時間が長く感じる」
「……」
「なんだ、その顔は」
ステラは思わず顔を上げてリヴィウスを凝視した。
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