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第二章 西の国の花の祭り編
そのままでいいんだぞ
そうしてまずテーブルに置かれたのはメールアランの塩漬け。楕円形の白磁の皿に盛り付けられた魚の上に玉ねぎのみじん切りと彩りのパセリが乗った非常にシンプルな料理だ。それと一緒に小さなバスケットに入ったパンが置かれると穏やかな笑みを称えた紳士が口を開く。
「メールアランは最近漁が解禁となりまして、今が一番美味しい季節なのですよ。魚と思えない程脂が乗っておりますので、最初は魚だけで、その後はお好みでパンに乗せて召し上がられるのもおすすめとなっております」
それでは他のお料理も今しばらくお待ちください、と洗練された動きで軽く頭を下げホールに下がっていった姿を見てからステラはテーブルに視線を戻す。ステラから見たら非常に美味しそうに見える料理だが、食べ盛りの二人に取ってはそうではないらしい。
あからさまに「これは本当に美味しいのか?」という顔をしている二人に笑いそうになりながらナイフとフォークを手に取ると一口大に切り分けて口に運ぶ。
「!」
「……うまいのか?」
リヴィウスが気遣わしげに訊いてくるのにステラは口を押さえながら頷いた。
「美味しいです、すごく。お二人も食べてみてください」
ステラの目は輝いていた。旅をする中でいくつもの美食に巡り会ったと思っていたけれど、やはり産地で取れるものは格が違うと言わざるを得ない。確かにこれはパンに乗せても美味しいはずだと、紳士の言葉に内心頷いていた。
ステラの様子を見て二人もなんとなく覚悟を決めたのか切り分けて恐る恐るといった様子でメールアランを口に運ぶ。いつもは大きな口でがぶりとかぶりつくのにまるで上品な食べ方にステラは苦笑するように眉を下げるも、ゆっくりと咀嚼している二人の顔が見る間に変わっていく様を見て思わず得意げに笑った。
「美味しいでしょう?」
二人は何も言わずコクコクと頷き、ステラよりも先にパンに手を伸ばし紳士に教えて貰ったアレンジに挑戦する。焼き立てなのか暖かく柔らかなパンと脂の乗った塩気のある魚の相性は良く、更にそこに玉ねぎのみじん切りを加えることによって食感のアクセントにもなり食べ応えが増す。
リヴィウスとてぷは美味しそうにもっきゅもっきゅと頬を動かしていた。
やっぱり兄弟みたいだ、そう思いながらステラも即席サンドを作って口に運ぶ。じっくりと味わっているせいか三人の間に会話は無く、けれどもそれぞれの表情が美味しさを物語っているときに再び紳士が現れて残りの料理をテーブルへと載せていく。
きつね色に揚がった俵型の揚げ物に、青豆と野菜、それとソーセージのスープだ。メールアランの塩漬けだけでも大満足といったふうだった二人だが、やはり揚げ物が来ると目の輝きが増す。それに笑ったのはステラではなく老紳士で「失礼」と呟きつつも優しい目はてぷの方を見ている。
「当店の料理はお口に合いますかな?」
『うん! 美味しい!』
「それは良かった。ごゆっくりお楽しみください」
「………一緒にいると麻痺してしまいますが、てぷ様が子供扱いされているのを見ると違和感がありますね」
嬉々としてスープに手を付けようとしていたリヴィウスの手が止まり「本気かお前」というような顔でステラを見る。
「…何かおかしいことを言いましたか?」
「こいつを一番にそういう扱いをしているのはお前だろう」
「えっ」
ステラは衝撃に目を見開いた。衝撃すぎてメールアランを切り分ける手が止まった程だ。
「…自覚がないのか」
『でもボクステラに甘やかされるの好きだからこのままでいいぞ!』
否定どころか良い笑顔で肯定したてぷに更なる衝撃がステラを襲う。ステラは元聖女だ。だからこそ世界を創造した女神リーベに未だに習慣的に祈りを捧げているし、この世界の均衡を保っている精霊たちにも最大限の敬意を払っているつもりだった。
だがしかしそれが子供扱いだと言われ、ステラは動揺していた。
(もしかして私、てぷ様にとんでもない失礼を…?)
深刻な顔でメールアランを睨むステラを見てリヴィウスが少し困惑した空気を発しているのが分かったが、今はそれを気にかけている暇は──。
『ステラっ』
名前を呼ばれて顔を上げるとそこには顔いっぱいに笑うてぷの姿。口の周りにはパンや揚げ物のカケラが着いていて非常にわんぱくだ。ステラはほぼ無意識といっていい動作で手を伸ばしそれらの食べカスを取っていく。
『ステラはそのままでいいんだぞ。ボクはステラに甘やかされるのが好きだ』
満面の笑みで発せられた言葉にステラの心臓は見事に射抜かれた。元聖女でなければ耐えられなかったかもしれない程の可愛らしさだった。
「メールアランは最近漁が解禁となりまして、今が一番美味しい季節なのですよ。魚と思えない程脂が乗っておりますので、最初は魚だけで、その後はお好みでパンに乗せて召し上がられるのもおすすめとなっております」
それでは他のお料理も今しばらくお待ちください、と洗練された動きで軽く頭を下げホールに下がっていった姿を見てからステラはテーブルに視線を戻す。ステラから見たら非常に美味しそうに見える料理だが、食べ盛りの二人に取ってはそうではないらしい。
あからさまに「これは本当に美味しいのか?」という顔をしている二人に笑いそうになりながらナイフとフォークを手に取ると一口大に切り分けて口に運ぶ。
「!」
「……うまいのか?」
リヴィウスが気遣わしげに訊いてくるのにステラは口を押さえながら頷いた。
「美味しいです、すごく。お二人も食べてみてください」
ステラの目は輝いていた。旅をする中でいくつもの美食に巡り会ったと思っていたけれど、やはり産地で取れるものは格が違うと言わざるを得ない。確かにこれはパンに乗せても美味しいはずだと、紳士の言葉に内心頷いていた。
ステラの様子を見て二人もなんとなく覚悟を決めたのか切り分けて恐る恐るといった様子でメールアランを口に運ぶ。いつもは大きな口でがぶりとかぶりつくのにまるで上品な食べ方にステラは苦笑するように眉を下げるも、ゆっくりと咀嚼している二人の顔が見る間に変わっていく様を見て思わず得意げに笑った。
「美味しいでしょう?」
二人は何も言わずコクコクと頷き、ステラよりも先にパンに手を伸ばし紳士に教えて貰ったアレンジに挑戦する。焼き立てなのか暖かく柔らかなパンと脂の乗った塩気のある魚の相性は良く、更にそこに玉ねぎのみじん切りを加えることによって食感のアクセントにもなり食べ応えが増す。
リヴィウスとてぷは美味しそうにもっきゅもっきゅと頬を動かしていた。
やっぱり兄弟みたいだ、そう思いながらステラも即席サンドを作って口に運ぶ。じっくりと味わっているせいか三人の間に会話は無く、けれどもそれぞれの表情が美味しさを物語っているときに再び紳士が現れて残りの料理をテーブルへと載せていく。
きつね色に揚がった俵型の揚げ物に、青豆と野菜、それとソーセージのスープだ。メールアランの塩漬けだけでも大満足といったふうだった二人だが、やはり揚げ物が来ると目の輝きが増す。それに笑ったのはステラではなく老紳士で「失礼」と呟きつつも優しい目はてぷの方を見ている。
「当店の料理はお口に合いますかな?」
『うん! 美味しい!』
「それは良かった。ごゆっくりお楽しみください」
「………一緒にいると麻痺してしまいますが、てぷ様が子供扱いされているのを見ると違和感がありますね」
嬉々としてスープに手を付けようとしていたリヴィウスの手が止まり「本気かお前」というような顔でステラを見る。
「…何かおかしいことを言いましたか?」
「こいつを一番にそういう扱いをしているのはお前だろう」
「えっ」
ステラは衝撃に目を見開いた。衝撃すぎてメールアランを切り分ける手が止まった程だ。
「…自覚がないのか」
『でもボクステラに甘やかされるの好きだからこのままでいいぞ!』
否定どころか良い笑顔で肯定したてぷに更なる衝撃がステラを襲う。ステラは元聖女だ。だからこそ世界を創造した女神リーベに未だに習慣的に祈りを捧げているし、この世界の均衡を保っている精霊たちにも最大限の敬意を払っているつもりだった。
だがしかしそれが子供扱いだと言われ、ステラは動揺していた。
(もしかして私、てぷ様にとんでもない失礼を…?)
深刻な顔でメールアランを睨むステラを見てリヴィウスが少し困惑した空気を発しているのが分かったが、今はそれを気にかけている暇は──。
『ステラっ』
名前を呼ばれて顔を上げるとそこには顔いっぱいに笑うてぷの姿。口の周りにはパンや揚げ物のカケラが着いていて非常にわんぱくだ。ステラはほぼ無意識といっていい動作で手を伸ばしそれらの食べカスを取っていく。
『ステラはそのままでいいんだぞ。ボクはステラに甘やかされるのが好きだ』
満面の笑みで発せられた言葉にステラの心臓は見事に射抜かれた。元聖女でなければ耐えられなかったかもしれない程の可愛らしさだった。
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