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第二章 西の国の花の祭り編
多分きっと良い変化
『おま、お前、それ屁理屈だって言うんだぞ! うわあああ飛ぶなああ!』
大木が倒れ道となっている場所に飛び乗った振動でてぷは舌を噛みそうになった。全然言うことを聞かないのにカチンとは来ているし、人間の体なんだから無茶をするなと言外に言っていたステラの意思を完全に無視しているリヴィウスに呆れもしている。
でも、それでもまあいいかと思ってしまった。
『リヴィ、怪我したら駄目だぞ。ステラが悲しむ』
「……怪我をしても駄目なのか、あいつは」
『そうだぞ』
元々魔王であり魔族だったリヴィウスには確かに感情が少ない。けれど無い、という訳ではないのだ。それは多分、きっとてぷが誰よりも一番よく知っている。
記憶の奥の方にあるけれどてぷにとっては比較的最近とも言っていいようなもの。そこにいるリヴィウスは今みたいに何かに対して心を傾けることも出来ていたし、もう少しだけ表情も豊かだった気がする。
けれど時が経つにつれ魔王然としたリヴィウスには感情も、少しばかりあった表情の変化も無くなった。仕方がない、魔族とはそういうものだ。魔王ならば尚更。
それなのに今のリヴィウスの顔は眉間に皺が寄っていて不満な様子だし、緑の壁としか思えない遺跡の中を進むステラの気配を感じてチラチラと視線をそちらに向けている。こんなにも何かを気に掛ける彼を、てぷは見たことがなかった。
『ふふん』
思わず笑ってしまったてぷをリヴィウスが横目で見る。理解不能といった顔だ。
「何を笑っている」
『なんでもないぞ。それにしても下って言っても結構遠いなー。 昔も今もヒトの子が建てる物はよくわからないんだぞ』
「……人間がよくわからない、ということに関してはお前に同意だ」
リヴィウスは先程よりも気持ちゆっくりと下に向かって足を進める。ステラ、という名前を出せば途端に大人しく従順になる彼を見ればかつての魔族の同胞たちは腰を抜かすだろう。魔王だった彼は誰の言うことも聞きはしなかったのだから。
指先一つ、視線の一つで全ての魔族を操り、千年の間に滅した街も国も数知れず、幾度となく人間を窮地に追い込んでは波のように引いて見せる残酷さはまさに魔族そのものだった。けれどそんな圧倒的な存在だったものが、ただ創造神リーベの加護を受けているだけに過ぎない一人の人間にこうも振り回さるとは、精霊として幾星霜の時を生きてきたてぷにも予想が付かなかった。
けれどこの変化は、うん。とても良いと思うのだ。
『早くステラに会いたいな、リヴィ』
彼はその声には何も答えなかった。てぷは笑みを深くし、けれどリヴィウスと同じようにステラの気配に気を配りながら眼科に広がる緑の大地を目指すのだった。
───
脆くなっていた遺跡の壁に体重を預けてしまったことで不覚にもリヴィウスたちと逸れてしまったステラは現在遺跡内を探索しようと辺りを光で照らしていた。
落ちてしまった時、着地する直前でステラは風魔法を操って衝撃を相殺した。見上げた先にある光は小さく、己が相当な距離を落ちたのだと理解はしていても焦る様子は一切なかった。その理由はとても簡単だ。
勇者一行との旅でこんな罠には掛かりなれてしまっているからである。
最近はめっきり使用頻度が下がった魔法の媒体となる杖をインベントリから取り出して、小さく魔法を唱えて自身の背丈程ある杖の先端に光を灯して遺跡の中を照らす。落ちたのが自分だけだったのがまだ救いだなと思いつつ、てぷたちとの会話を終えてステラは歩き出したのだ。
光で照らした遺跡の内部はやはり遺跡というだけあって石材ばかりで作られている。ステラが落ちた場所からここまではいくつか階層があったらしいが、幸か不幸か全て床が崩れてしまっていて、その結果ステラは結構な下層まで落ちてしまったらしい。石材ばかりとはっても悠久の時を経てきた場所なのだろう。所々から木の根が見えているし、モンスターの気配も当然する。
かつて何かを祀っていたのか、それともなんらかの役割を果たしていたのか、確かな文明が残るこの場所は今では自然に飲み込まれ人間以外の生き物の住処となっている。こういう場所をステラはいくつか知っているけれど、湧いてくる感情はいつも同じだ。
「……素敵な場所」
朽ちた文明と自然が共生している様を見るのがステラはなんとなく好きだった。元々人工物よりも自然のものを愛する性格だし、騒がしいよりも静かな方が好きだ。魔法を使わなければ一切光が入らないのも、恒久的に暗闇だからから湿気た匂いが充満しているのも気になるけれど、それでも好きだと思えた。
だがのんびりとここを観察している場合じゃないなと頭を振る。
「早く出ないと」
きっと今も軽い言い合いをしているだろう二人を思い浮かべながら、ステラは足を前に踏み出した。
大木が倒れ道となっている場所に飛び乗った振動でてぷは舌を噛みそうになった。全然言うことを聞かないのにカチンとは来ているし、人間の体なんだから無茶をするなと言外に言っていたステラの意思を完全に無視しているリヴィウスに呆れもしている。
でも、それでもまあいいかと思ってしまった。
『リヴィ、怪我したら駄目だぞ。ステラが悲しむ』
「……怪我をしても駄目なのか、あいつは」
『そうだぞ』
元々魔王であり魔族だったリヴィウスには確かに感情が少ない。けれど無い、という訳ではないのだ。それは多分、きっとてぷが誰よりも一番よく知っている。
記憶の奥の方にあるけれどてぷにとっては比較的最近とも言っていいようなもの。そこにいるリヴィウスは今みたいに何かに対して心を傾けることも出来ていたし、もう少しだけ表情も豊かだった気がする。
けれど時が経つにつれ魔王然としたリヴィウスには感情も、少しばかりあった表情の変化も無くなった。仕方がない、魔族とはそういうものだ。魔王ならば尚更。
それなのに今のリヴィウスの顔は眉間に皺が寄っていて不満な様子だし、緑の壁としか思えない遺跡の中を進むステラの気配を感じてチラチラと視線をそちらに向けている。こんなにも何かを気に掛ける彼を、てぷは見たことがなかった。
『ふふん』
思わず笑ってしまったてぷをリヴィウスが横目で見る。理解不能といった顔だ。
「何を笑っている」
『なんでもないぞ。それにしても下って言っても結構遠いなー。 昔も今もヒトの子が建てる物はよくわからないんだぞ』
「……人間がよくわからない、ということに関してはお前に同意だ」
リヴィウスは先程よりも気持ちゆっくりと下に向かって足を進める。ステラ、という名前を出せば途端に大人しく従順になる彼を見ればかつての魔族の同胞たちは腰を抜かすだろう。魔王だった彼は誰の言うことも聞きはしなかったのだから。
指先一つ、視線の一つで全ての魔族を操り、千年の間に滅した街も国も数知れず、幾度となく人間を窮地に追い込んでは波のように引いて見せる残酷さはまさに魔族そのものだった。けれどそんな圧倒的な存在だったものが、ただ創造神リーベの加護を受けているだけに過ぎない一人の人間にこうも振り回さるとは、精霊として幾星霜の時を生きてきたてぷにも予想が付かなかった。
けれどこの変化は、うん。とても良いと思うのだ。
『早くステラに会いたいな、リヴィ』
彼はその声には何も答えなかった。てぷは笑みを深くし、けれどリヴィウスと同じようにステラの気配に気を配りながら眼科に広がる緑の大地を目指すのだった。
───
脆くなっていた遺跡の壁に体重を預けてしまったことで不覚にもリヴィウスたちと逸れてしまったステラは現在遺跡内を探索しようと辺りを光で照らしていた。
落ちてしまった時、着地する直前でステラは風魔法を操って衝撃を相殺した。見上げた先にある光は小さく、己が相当な距離を落ちたのだと理解はしていても焦る様子は一切なかった。その理由はとても簡単だ。
勇者一行との旅でこんな罠には掛かりなれてしまっているからである。
最近はめっきり使用頻度が下がった魔法の媒体となる杖をインベントリから取り出して、小さく魔法を唱えて自身の背丈程ある杖の先端に光を灯して遺跡の中を照らす。落ちたのが自分だけだったのがまだ救いだなと思いつつ、てぷたちとの会話を終えてステラは歩き出したのだ。
光で照らした遺跡の内部はやはり遺跡というだけあって石材ばかりで作られている。ステラが落ちた場所からここまではいくつか階層があったらしいが、幸か不幸か全て床が崩れてしまっていて、その結果ステラは結構な下層まで落ちてしまったらしい。石材ばかりとはっても悠久の時を経てきた場所なのだろう。所々から木の根が見えているし、モンスターの気配も当然する。
かつて何かを祀っていたのか、それともなんらかの役割を果たしていたのか、確かな文明が残るこの場所は今では自然に飲み込まれ人間以外の生き物の住処となっている。こういう場所をステラはいくつか知っているけれど、湧いてくる感情はいつも同じだ。
「……素敵な場所」
朽ちた文明と自然が共生している様を見るのがステラはなんとなく好きだった。元々人工物よりも自然のものを愛する性格だし、騒がしいよりも静かな方が好きだ。魔法を使わなければ一切光が入らないのも、恒久的に暗闇だからから湿気た匂いが充満しているのも気になるけれど、それでも好きだと思えた。
だがのんびりとここを観察している場合じゃないなと頭を振る。
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