52 / 105
第三章 東の国の大きなお風呂編
いつか見た衝撃、再び
その結果、即決だった。
案内された宿屋は他の家屋が平家なのに対して三階まである造りで、それだけでも高級感があるのに案内された部屋も、何よりてぷが楽しみにしていたお風呂も最高のものだった。
確かにステラは以前てぷに十人が一斉に入れる風呂があると伝えはしたし、それは実際にステラたちがこの国に来たときに入ったものだ。だがしかし、当時なんて豪華だと思っていた風呂がこの国では中程度のグレードであったことを知った。
「お子様もいらっしゃいますのでこちらの方が都合がよろしいかと思いまして。いかがでしょう?」
そう問いかけてきたのはその宿屋の女将と名乗る人物だった。
案内された部屋は植物を編んで作った敷物が敷かれていて、ふわりと香る独特な香りがなんとも心地良い。部屋の広さも十分だし、女将から案内された部屋の奥にある扉を開けた時三人の目に飛び込んできたのは本当に三人がちょうど一緒に入れるくらいの大きさの風呂だった。
とぷとぷとどこからか引いてきたらしいお湯が浴槽に延々と流れ込み、もくもくと湯気が立っているが半分自然が見えているような状態だからかそれも気にならない。
「おい、外だぞ」
リヴィウスの苦言に女将がほくそ笑んだ。
「ご心配には及びませんわ。こちらは目隠しが施されたこの露天風呂のためだけに作ったうちの庭ですから。外から誰かに見られるなんてことありませんわ」
それでも少し疑っているようだったが、結局は大興奮しているてぷの『ここがいい!』の一言で即決だったのだ。
『よし! それじゃあ街に行くんだぞ!』
希望通りの風呂が見つかって大興奮のてぷはそのままの元気で次の目的を満たすべく街の方向を指さした。
長い長い船旅だったとはいえリヴィウスもステラも冒険者であり元々は魔王と聖女である、この程度では疲労なんて感じるはずもなく、むしろてぷの元気の良さに笑いながら頷くと宿屋を出る。
すぐに宿屋の客引きに捕まったこともあって、宿屋の暖簾を潜った先にある景色にすでに一度この国に滞在したことのあるステラですら一瞬圧倒されて足を止めた。それくらいこの国は賑やかで、そしてあまりにも異国すぎて脳の処理が追いつかなくなるのだ。
それはどうやらリヴィウスも同じようで、表情こそいつもと変わらないがその目はあちこちに向いていた。けれどもこの旅で今一番の決定権を持っているのはてぷである。リヴィウスの頭にぎゅっと捕まってすんすんと匂いを嗅いでいたかと思えばカッと目を見開いてある方向を指さした。
『あっちだぞ! あっちから良い匂いがするんだぞ!』
ステラの身長はこの街の人たちと対して変わらないけれど、リヴィウスは頭一つ以上は抜けている。だからてぷの指さした方向にあるものがなんとなく見えたのか「あれか」と低く呟いてステラの手を引いて歩き出す。目的地さえ決まっていればリヴィウスは迷わないのだ。
それから歩くこと数分もなかっただろうか。てぷの『もうちょっとだぞ』と明るく弾んだ声に無意識に口角が上がるのを感じていた時だった。
「ちょっとぉ! 肉入り芋揚げがないってどういうことよぉ!」
野太くはあるがどこか愛らしさと厳しさを感じさせる声が三人の耳に届いた。
「いやあ、その、最近大量注文が入っちまって在庫が」
「いやよいやよいやぁ! アタシはここの肉入り芋揚げじゃないともう満足できないカラダになってんのよ! どうしてくれんのぉ! 今に中毒症状が出るわよ! いいの? いいの? アタシの中毒症状すんごいだからぁッ!」
「今でも十分すご」
「なんか言ったかしら⁉︎」
てぷの指差した店の前にいたのはどういう原理かはわからないが太陽の光を受けて乱反射する紫の着物を着た女性(仮)。造形は街行く女性たちがきているものと全く同じな筈なのに、その迫力のせいだろうか、隠しきれない屈強な体のせいだろうか、人間が二人と半分くらいの体積を持ったその人の姿にリヴィウスとステラの足はぴたりと止まった。
『……ボク、あのヒトの子見たことあるんだぞ』
「……俺もだ」
ステラは言葉に出さずに頷いた。
思い出すのはペタルで行われた花祭りの閉会宣言。そこに現れた個性の塊としか言えない人たちのあまりにも圧倒的すぎるパフォーマンス。それを見た時と同じ衝撃が三人を襲っていた。
案内された宿屋は他の家屋が平家なのに対して三階まである造りで、それだけでも高級感があるのに案内された部屋も、何よりてぷが楽しみにしていたお風呂も最高のものだった。
確かにステラは以前てぷに十人が一斉に入れる風呂があると伝えはしたし、それは実際にステラたちがこの国に来たときに入ったものだ。だがしかし、当時なんて豪華だと思っていた風呂がこの国では中程度のグレードであったことを知った。
「お子様もいらっしゃいますのでこちらの方が都合がよろしいかと思いまして。いかがでしょう?」
そう問いかけてきたのはその宿屋の女将と名乗る人物だった。
案内された部屋は植物を編んで作った敷物が敷かれていて、ふわりと香る独特な香りがなんとも心地良い。部屋の広さも十分だし、女将から案内された部屋の奥にある扉を開けた時三人の目に飛び込んできたのは本当に三人がちょうど一緒に入れるくらいの大きさの風呂だった。
とぷとぷとどこからか引いてきたらしいお湯が浴槽に延々と流れ込み、もくもくと湯気が立っているが半分自然が見えているような状態だからかそれも気にならない。
「おい、外だぞ」
リヴィウスの苦言に女将がほくそ笑んだ。
「ご心配には及びませんわ。こちらは目隠しが施されたこの露天風呂のためだけに作ったうちの庭ですから。外から誰かに見られるなんてことありませんわ」
それでも少し疑っているようだったが、結局は大興奮しているてぷの『ここがいい!』の一言で即決だったのだ。
『よし! それじゃあ街に行くんだぞ!』
希望通りの風呂が見つかって大興奮のてぷはそのままの元気で次の目的を満たすべく街の方向を指さした。
長い長い船旅だったとはいえリヴィウスもステラも冒険者であり元々は魔王と聖女である、この程度では疲労なんて感じるはずもなく、むしろてぷの元気の良さに笑いながら頷くと宿屋を出る。
すぐに宿屋の客引きに捕まったこともあって、宿屋の暖簾を潜った先にある景色にすでに一度この国に滞在したことのあるステラですら一瞬圧倒されて足を止めた。それくらいこの国は賑やかで、そしてあまりにも異国すぎて脳の処理が追いつかなくなるのだ。
それはどうやらリヴィウスも同じようで、表情こそいつもと変わらないがその目はあちこちに向いていた。けれどもこの旅で今一番の決定権を持っているのはてぷである。リヴィウスの頭にぎゅっと捕まってすんすんと匂いを嗅いでいたかと思えばカッと目を見開いてある方向を指さした。
『あっちだぞ! あっちから良い匂いがするんだぞ!』
ステラの身長はこの街の人たちと対して変わらないけれど、リヴィウスは頭一つ以上は抜けている。だからてぷの指さした方向にあるものがなんとなく見えたのか「あれか」と低く呟いてステラの手を引いて歩き出す。目的地さえ決まっていればリヴィウスは迷わないのだ。
それから歩くこと数分もなかっただろうか。てぷの『もうちょっとだぞ』と明るく弾んだ声に無意識に口角が上がるのを感じていた時だった。
「ちょっとぉ! 肉入り芋揚げがないってどういうことよぉ!」
野太くはあるがどこか愛らしさと厳しさを感じさせる声が三人の耳に届いた。
「いやあ、その、最近大量注文が入っちまって在庫が」
「いやよいやよいやぁ! アタシはここの肉入り芋揚げじゃないともう満足できないカラダになってんのよ! どうしてくれんのぉ! 今に中毒症状が出るわよ! いいの? いいの? アタシの中毒症状すんごいだからぁッ!」
「今でも十分すご」
「なんか言ったかしら⁉︎」
てぷの指差した店の前にいたのはどういう原理かはわからないが太陽の光を受けて乱反射する紫の着物を着た女性(仮)。造形は街行く女性たちがきているものと全く同じな筈なのに、その迫力のせいだろうか、隠しきれない屈強な体のせいだろうか、人間が二人と半分くらいの体積を持ったその人の姿にリヴィウスとステラの足はぴたりと止まった。
『……ボク、あのヒトの子見たことあるんだぞ』
「……俺もだ」
ステラは言葉に出さずに頷いた。
思い出すのはペタルで行われた花祭りの閉会宣言。そこに現れた個性の塊としか言えない人たちのあまりにも圧倒的すぎるパフォーマンス。それを見た時と同じ衝撃が三人を襲っていた。
あなたにおすすめの小説
不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です
新川はじめ
BL
国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。
フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。
生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!
ゲーム世界の貴族A(=俺)
猫宮乾
BL
妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。
【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)
てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。
言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち―――
大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡)
20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
薄幸な子爵は捻くれて傲慢な公爵に溺愛されて逃げられない
くまだった
BL
アーノルド公爵公子に気に入られようと常に周囲に人がいたが、没落しかけているレイモンドは興味がないようだった。アーノルドはそのことが、面白くなかった。ついにレイモンドが学校を辞めてしまって・・・
捻くれ傲慢公爵→→→→→貧困薄幸没落子爵
最後のほうに主人公では、ないですが人が亡くなるシーンがあります。
地雷の方はお気をつけください。
ムーンライトさんで、先行投稿しています。
感想いただけたら嬉しいです。
兄様の親友と恋人期間0日で結婚した僕の物語
サトー
BL
スローン王国の第五王子ユリアーネスは内気で自分に自信が持てず第一王子の兄、シリウスからは叱られてばかり。結婚して新しい家庭を築き、城を離れることが唯一の希望であるユリアーネスは兄の親友のミオに自覚のないまま恋をしていた。
ユリアーネスの結婚への思いを知ったミオはプロポーズをするが、それを知った兄シリウスは激昂する。
兄に縛られ続けた受けが結婚し、攻めとゆっくり絆を深めていくお話。
受け ユリアーネス(19)スローン王国第五王子。内気で自分に自信がない。
攻め ミオ(27)産まれてすぐゲンジツという世界からやってきた異世界人。を一途に思っていた。
※本番行為はないですが実兄→→→→受けへの描写があります。
※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。
【完結】星に焦がれて
白(しろ)
BL
気付いたら八年間囲われてた話、する? わんこ執着攻め×鈍感受け
「お、前、いつから…?」
「最初からだよ。初めて見た時から俺はお前のことが好きだった」
僕、アルデバラン・スタクにはどうしても敵わない男がいた。
家柄も、センスも、才能も、全てを持って生まれてきた天才、シリウス・ルーヴだ。
僕たちは十歳の頃王立の魔法学園で出会った。
シリウスは天才だ。だけど性格は無鉄砲で無計画で大雑把でとにかく甘えた、それに加えて我儘と来た。それに比べて僕は冷静で落ち着いていて、体よりも先に頭が働くタイプだったから気が付けば周りの大人たちの策略にはめられてシリウスの世話係を任されることになっていた。
二人組を作る時も、食事の時も、部屋だって同じのまま十八で学園を卒業する年まで僕たちは常に一緒に居て──そしてそれは就職先でも同じだった。
配属された辺境の地でも僕はシリウスの世話を任され、日々を慌ただしく過ごしていたそんなある日、国境の森に魔物が発生した。それを掃討すべく現場に向かうと何やら魔物の様子がおかしいことに気が付く。
その原因を突き止めたシリウスが掃討に当たったのだが、魔物の攻撃を受けてしまい重傷を負ってしまう。
初めて見るシリウスの姿に僕は動揺し、どうしようもなく不安だった。目を覚ますまでの間何をしていていも気になっていた男が三日振りに目を覚ました時、異変が起きた。
「…シリウス?」
「アルはさ、優しいから」
背中はベッドに押し付けられて、目の前には見たことが無い顔をしたシリウスがいた。
いつだって一等星のように煌めいていた瞳が、仄暗い熱で潤んでいた。とても友人に向ける目では、声では無かった。
「──俺のこと拒めないでしょ?」
おりてきた熱を拒む術を、僕は持っていなかった。
その日を境に、僕たちの関係は変わった。でも、僕にはどうしてシリウスがそんなことをしたのかがわからなかった。
これは気付かないうちに八年間囲われて、向けられている愛の大きさに気付かないまますったもんだする二人のお話。
【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。
白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。
僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。
けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。
どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。
「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」
神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。
これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。
本編は三人称です。
R−18に該当するページには※を付けます。
毎日20時更新
登場人物
ラファエル・ローデン
金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。
ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。
首筋で脈を取るのがクセ。
アルフレッド
茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。
剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。
神様
ガラが悪い大男。