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第三章 東の国の大きなお風呂編
登場、とてもすごい美人
「手が滑ったなんてそんなことあるわけ」
「やめなおリン、みっともない」
水に濡れたことで髪もお化粧も散々なことになっているおリンの怒りに染まった顔には迫力があるけれども、ステラは欠片も動じてはいなかった。薄らと笑みを浮かべてすらいたのだが、鋭い刃物のような声が空気を裂いたことで二人の間に漂っていた剣呑な雰囲気が一瞬にして霧となる。
「ね、姐さんっ」
おリンの表情がぎくりとしたものに変わった。言うなれば悪戯が見つかった時の子供のような顔に似ているなとステラは思った。
「で、でもね姐さん、アタシ」
「言い訳なんて聞きたかないよ。お源さんにも旅の方にも迷惑を掛けて何をやってんだいあんたは。ほら、そんな見窄らしい格好してちゃうちの看板にキズがつく。さっさと店に戻って顔洗ってきな」
元々人の往来の激しい道だからか、いつの間にかステラたちを中心に輪のように人が集まっていた。その中から現れたのはリヴィウスの顔を見慣れているステラですら驚く程の美貌の持ち主だった。
根本から毛先に掛けて濃い青から白に変わる神秘的とも言える不思議な髪は真っ直ぐと腰にまで伸びていて、その顔はほんの僅かでも微笑めば老若男女関係なく心を奪ってしまえるだろうと思う程に整っている。そこにダメ押しをするように瞼にも頬にも薄く赤い、まるで酔っているのかと勘違いしてしまいそうになる自然な紅色が映えていて、凶悪的な程に妖艶だった。
「……悪かったね、旅の方。おリンはうちの子なんだよ。……悪い子じゃあないんだけどね、あんたみたいな男前を前にするとああなっちまうんだ。代わりにあたしが謝るよ」
おリンは奇妙な鳴き声を上げて走り去り、その場にはステラたちとその名前も分からない麗人が残った。眉を僅かに下げる仕草ですら色香の漂うその人にステラは内心ドギマギしながら杖を収納して「いえ」と手を振った。
「こちらこそ頭に来たとはいえ急に水を掛けるような真似をしてしまってすみません」
「あはは! そりゃ構わないさ。むしろあれくらいやってくれて助かったよ。おリンは見た目がああだからね、あの子を怒れるやつなんてここいらじゃあたしかあの子の先輩たちくらいなもんさ」
騒ぎが収まったとわかると周囲から人が少しずつ減っていく。それを見計らってから最初におリンに絡まれていた店主が助け舟を出すようにちょいちょいとステラたちと麗人を手招きした。
「お源さん、うちのが悪かったね。お詫びで肉入りの以外も全部買ってくよ」
『ええ! それは困るんだぞ!』
麗人の一言でようやく衝撃から戻ってこれたらしいてぷの言葉に店主であるお源も麗人も目を丸くした。ちなみにリヴィウスはステラの服を掴んでいる。こちらはまだ衝撃から戻ってこられていないようだ。
『ボクこの店の美味しそうな匂いのやつが欲しいんだぞ。だから全部は困る!』
「おやおやそうなのかい。そりゃ悪いことしたね。じゃああんたたちの分もあたしが買おう。それならいいかい?」
『うん、それならいいんだぞ! お前いい奴なんだぞ!』
「あ、ダメですよてぷ様」
「いいよいいよ気にしないでおくれ。あんたてぷっていうのかい? あたしはキキョウっていうんだ、よろしくね。あんたの名前も聞いておいて良いかい? そっちで放心してる男前の名前も」
麗人は見た目の妖艶さとは良い意味で乖離のある人懐こい笑みを浮かべた。
「私はステラ。こっちはリヴィウスです。……すみません、さっきのおリンさんのが結構驚きだったみたいで…」
「……ああ……」
キキョウは同情の目をリヴィウスに向けた。それにステラもしみじみ頷いていたが、ようやく衝撃から戻ってくることが出来たらしいリヴィウスがステラの頭に顎を乗せた。
「……お前の部下だか手下だか知らないが、きちんと躾はしておいてくれ……」
聞いたことがない程の疲弊し切った声にステラもキキョウも、そしててぷですら苦笑いを浮かべた。そしてそこに、もう一つの気まずさが加わる。
「……非常に言いづらいんだけどねぇ」
お源は深い深い溜息を吐いた。
「品切れなんだよ、芋揚げ。全部」
『えええええ⁉︎』
てぷの悲痛な声が響いた。
「やめなおリン、みっともない」
水に濡れたことで髪もお化粧も散々なことになっているおリンの怒りに染まった顔には迫力があるけれども、ステラは欠片も動じてはいなかった。薄らと笑みを浮かべてすらいたのだが、鋭い刃物のような声が空気を裂いたことで二人の間に漂っていた剣呑な雰囲気が一瞬にして霧となる。
「ね、姐さんっ」
おリンの表情がぎくりとしたものに変わった。言うなれば悪戯が見つかった時の子供のような顔に似ているなとステラは思った。
「で、でもね姐さん、アタシ」
「言い訳なんて聞きたかないよ。お源さんにも旅の方にも迷惑を掛けて何をやってんだいあんたは。ほら、そんな見窄らしい格好してちゃうちの看板にキズがつく。さっさと店に戻って顔洗ってきな」
元々人の往来の激しい道だからか、いつの間にかステラたちを中心に輪のように人が集まっていた。その中から現れたのはリヴィウスの顔を見慣れているステラですら驚く程の美貌の持ち主だった。
根本から毛先に掛けて濃い青から白に変わる神秘的とも言える不思議な髪は真っ直ぐと腰にまで伸びていて、その顔はほんの僅かでも微笑めば老若男女関係なく心を奪ってしまえるだろうと思う程に整っている。そこにダメ押しをするように瞼にも頬にも薄く赤い、まるで酔っているのかと勘違いしてしまいそうになる自然な紅色が映えていて、凶悪的な程に妖艶だった。
「……悪かったね、旅の方。おリンはうちの子なんだよ。……悪い子じゃあないんだけどね、あんたみたいな男前を前にするとああなっちまうんだ。代わりにあたしが謝るよ」
おリンは奇妙な鳴き声を上げて走り去り、その場にはステラたちとその名前も分からない麗人が残った。眉を僅かに下げる仕草ですら色香の漂うその人にステラは内心ドギマギしながら杖を収納して「いえ」と手を振った。
「こちらこそ頭に来たとはいえ急に水を掛けるような真似をしてしまってすみません」
「あはは! そりゃ構わないさ。むしろあれくらいやってくれて助かったよ。おリンは見た目がああだからね、あの子を怒れるやつなんてここいらじゃあたしかあの子の先輩たちくらいなもんさ」
騒ぎが収まったとわかると周囲から人が少しずつ減っていく。それを見計らってから最初におリンに絡まれていた店主が助け舟を出すようにちょいちょいとステラたちと麗人を手招きした。
「お源さん、うちのが悪かったね。お詫びで肉入りの以外も全部買ってくよ」
『ええ! それは困るんだぞ!』
麗人の一言でようやく衝撃から戻ってこれたらしいてぷの言葉に店主であるお源も麗人も目を丸くした。ちなみにリヴィウスはステラの服を掴んでいる。こちらはまだ衝撃から戻ってこられていないようだ。
『ボクこの店の美味しそうな匂いのやつが欲しいんだぞ。だから全部は困る!』
「おやおやそうなのかい。そりゃ悪いことしたね。じゃああんたたちの分もあたしが買おう。それならいいかい?」
『うん、それならいいんだぞ! お前いい奴なんだぞ!』
「あ、ダメですよてぷ様」
「いいよいいよ気にしないでおくれ。あんたてぷっていうのかい? あたしはキキョウっていうんだ、よろしくね。あんたの名前も聞いておいて良いかい? そっちで放心してる男前の名前も」
麗人は見た目の妖艶さとは良い意味で乖離のある人懐こい笑みを浮かべた。
「私はステラ。こっちはリヴィウスです。……すみません、さっきのおリンさんのが結構驚きだったみたいで…」
「……ああ……」
キキョウは同情の目をリヴィウスに向けた。それにステラもしみじみ頷いていたが、ようやく衝撃から戻ってくることが出来たらしいリヴィウスがステラの頭に顎を乗せた。
「……お前の部下だか手下だか知らないが、きちんと躾はしておいてくれ……」
聞いたことがない程の疲弊し切った声にステラもキキョウも、そしててぷですら苦笑いを浮かべた。そしてそこに、もう一つの気まずさが加わる。
「……非常に言いづらいんだけどねぇ」
お源は深い深い溜息を吐いた。
「品切れなんだよ、芋揚げ。全部」
『えええええ⁉︎』
てぷの悲痛な声が響いた。
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