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第三章 東の国の大きなお風呂編
元魔王様、嫌がる
一度お源の店から離れた三人はキキョウの後をついて歩いていた。
賽の目状になっている町は建物にも大きな特徴がないからつい迷ってしまいそうになるなと思いつつ、やはりこの町に住んでいるキキョウは慣れた様子でしゃんしゃんと下駄を鳴らして道を進む。
宿屋と店屋が多かった区画を抜け、少し静かな区画を過ぎ、そしてやって来たのは見上げるほどに大きく立派な朱色の門。ではなくそれからまた少し離れた場所。そこまでやってくると港に近かった区画とは打って変わって静まり返り、人がいるのかどうかも疑いたくなるような静寂が漂っていた。
「……ここは静かですね」
なんとなく呟いた言葉さえ響くような静けさだ。
「ああ、ここはね昼は寝てるのさ」
人のことだろうかと、思っていると前を歩くキキョウが楽しそうに声を弾ませた。
「今昼間は人が寝てると思っただろう?」
「え、どうして分かったんですか?」
視線だけ振り返ったキキョウはステラを見て、すぅっと目を細めて微笑んだ。
「──わかるさ。ステラはそういうのは知らないだろうからね」
また前を向いたキキョウが静かに呟いた。
「ここは夜の街さ。夜になったら目を覚ますんだ。朝や昼はぐーすか寝るんだよ、何せ夜に人一倍頑張らないといけないからねぇ」
そこまで聞いてステラはようやくここが、というかこの区画がどんな場所なのか理解した。図らずしも少し顔が熱くなってしまったのは何を隠そうステラにそういった経験がまるでないからである。
それを見透かされたことも、そこまで言われなければここがどんな場所なのかもわからなかった己の浅学さが恥ずかしいと、居た堪れないと思った。ちなみにリヴィウスとてぷはそもそもこの区画がどうだろうと興味がないらしく先程から欠伸をしながら歩いている。
ひっそりと静まったここでは興味を唆るものが無かったらしい。
「あ、今からあたしのやってる店に連れてくんだけどさ。おリンに似たようなのがわんさかいるから気を付けなね、色男」
「!」
眠そうだったリヴィウスの目がカッと開いた。
「ステラ、嫌だ」
思わずカタコトになってしまうくらいには先程の出会いが衝撃だったようで、捨てられた子犬のような目で見られステラの喉から「グゥ」と何かを絞ったような音が出た。
「大丈夫さ、あたしの客だって分かったらみんな手なんか出してこないからね。まああつぅい目では見られるだろうから、それは我慢しておくれよ」
「……」
少し眠たげだったリヴィウスの表情が不機嫌なものに変わった。眉も口角も下がったその顔はなまじリヴィウスの顔が整っているせいで迫力すらあるのに、キキョウはそれすらも笑い飛ばした。その姿にリヴィウスはやりづらそうに眉間に皺を寄せ、おリンの攻撃を側で見ていたてぷが慰めるようにリヴィウスの頭を撫でていた。
……それほどまでに嫌だったのだろうか。
背中側からしか見ていなかったステラにはわからなかったのだ。あの時のおリンの鬼気迫る乙女の顔を。目を血走らせ、筋肉にものを言わせてリヴィウスを拘束し、隙あらば唇を奪おうとしていた剛直さを。
そしてリヴィウスが魔王として生まれ生きてきた千年という時間の中、強過ぎるが故に孤独で魔族の誰もがあんな距離の詰め方をしてこなかったということを。
つまりリヴィウスにとって、初めてだったのだ。全身全霊の情熱を体に受けるということが……。これは後日の話だが、リヴィウスはこの一件以来たまにその光景を夢に見るらしい。
「さあて歩かせて悪かったね、ここだよ。とは言ってももうちょっと歩くけどね」
キキョウが立ち止まった場所にあるのは先程見た門とは大きさも色の違う青色の門。その両端に立っている線の細い男性二人はキキョウを見るや否や「おかえりなさいませ」と恭しく首を垂れた。それに手で挨拶を返したキキョウは門の中に足を踏み入れる。
ステラたちもその後ろについていき、門を潜った先にある街並みに目を丸くしたのだった。
賽の目状になっている町は建物にも大きな特徴がないからつい迷ってしまいそうになるなと思いつつ、やはりこの町に住んでいるキキョウは慣れた様子でしゃんしゃんと下駄を鳴らして道を進む。
宿屋と店屋が多かった区画を抜け、少し静かな区画を過ぎ、そしてやって来たのは見上げるほどに大きく立派な朱色の門。ではなくそれからまた少し離れた場所。そこまでやってくると港に近かった区画とは打って変わって静まり返り、人がいるのかどうかも疑いたくなるような静寂が漂っていた。
「……ここは静かですね」
なんとなく呟いた言葉さえ響くような静けさだ。
「ああ、ここはね昼は寝てるのさ」
人のことだろうかと、思っていると前を歩くキキョウが楽しそうに声を弾ませた。
「今昼間は人が寝てると思っただろう?」
「え、どうして分かったんですか?」
視線だけ振り返ったキキョウはステラを見て、すぅっと目を細めて微笑んだ。
「──わかるさ。ステラはそういうのは知らないだろうからね」
また前を向いたキキョウが静かに呟いた。
「ここは夜の街さ。夜になったら目を覚ますんだ。朝や昼はぐーすか寝るんだよ、何せ夜に人一倍頑張らないといけないからねぇ」
そこまで聞いてステラはようやくここが、というかこの区画がどんな場所なのか理解した。図らずしも少し顔が熱くなってしまったのは何を隠そうステラにそういった経験がまるでないからである。
それを見透かされたことも、そこまで言われなければここがどんな場所なのかもわからなかった己の浅学さが恥ずかしいと、居た堪れないと思った。ちなみにリヴィウスとてぷはそもそもこの区画がどうだろうと興味がないらしく先程から欠伸をしながら歩いている。
ひっそりと静まったここでは興味を唆るものが無かったらしい。
「あ、今からあたしのやってる店に連れてくんだけどさ。おリンに似たようなのがわんさかいるから気を付けなね、色男」
「!」
眠そうだったリヴィウスの目がカッと開いた。
「ステラ、嫌だ」
思わずカタコトになってしまうくらいには先程の出会いが衝撃だったようで、捨てられた子犬のような目で見られステラの喉から「グゥ」と何かを絞ったような音が出た。
「大丈夫さ、あたしの客だって分かったらみんな手なんか出してこないからね。まああつぅい目では見られるだろうから、それは我慢しておくれよ」
「……」
少し眠たげだったリヴィウスの表情が不機嫌なものに変わった。眉も口角も下がったその顔はなまじリヴィウスの顔が整っているせいで迫力すらあるのに、キキョウはそれすらも笑い飛ばした。その姿にリヴィウスはやりづらそうに眉間に皺を寄せ、おリンの攻撃を側で見ていたてぷが慰めるようにリヴィウスの頭を撫でていた。
……それほどまでに嫌だったのだろうか。
背中側からしか見ていなかったステラにはわからなかったのだ。あの時のおリンの鬼気迫る乙女の顔を。目を血走らせ、筋肉にものを言わせてリヴィウスを拘束し、隙あらば唇を奪おうとしていた剛直さを。
そしてリヴィウスが魔王として生まれ生きてきた千年という時間の中、強過ぎるが故に孤独で魔族の誰もがあんな距離の詰め方をしてこなかったということを。
つまりリヴィウスにとって、初めてだったのだ。全身全霊の情熱を体に受けるということが……。これは後日の話だが、リヴィウスはこの一件以来たまにその光景を夢に見るらしい。
「さあて歩かせて悪かったね、ここだよ。とは言ってももうちょっと歩くけどね」
キキョウが立ち止まった場所にあるのは先程見た門とは大きさも色の違う青色の門。その両端に立っている線の細い男性二人はキキョウを見るや否や「おかえりなさいませ」と恭しく首を垂れた。それに手で挨拶を返したキキョウは門の中に足を踏み入れる。
ステラたちもその後ろについていき、門を潜った先にある街並みに目を丸くしたのだった。
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