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第三章 東の国の大きなお風呂編
極彩色の町
その街並みはやはりアズマヒの国の特徴である木造平家建てだ。高くとも二階までに留められているのだが、ステラが驚いたのはそこではない。何というか、目が痛いのだ。
どこからどう見ても一般的な建築物の筈なのに屋根の色や外の壁の色がおかしいのである。
この国の建物の外観は色すらも同系色で統一されている。黒や茶色、灰色が多いのだがこの区画は違う。原色が多いのだ。赤、黄色、緑、たまに金色も混ざっていて落ち着いた色合いに慣れている目には毒と言ってもいい光景だった。
その光景に驚いているのはリヴィウスやてぷも同じで、なんなら黒と紫しかない世界で千年もの時を生きてきたリヴィウスにとっては目が潰れる程の色彩の暴力なのではないかとすら思う。その証拠にリヴィウスはもうほとんど目を閉じていた。ほんの少しだけ目を開けてはいるが視線は地面に向けられている。ステラはわかるな、と頷いた。
地面の茶色に感謝する日が来るなんて夢にも思っていなかった。
「昼間だと地味だけど夜になるともっと派手になるんだよ」
『地味⁉︎ これで地味なのか⁉︎』
「そうさ。ここはオーエド一の盛り場、裏タカマガハラなんだから」
まるで舞台に立つ役者のような大仰な台詞で言い切ったキキョウはばっと両腕を広げた。その瞬間、街全体がギラギラと輝いて見えたのは目の錯覚だったけれどそれでも夜になると本当に“そう”なるんだろうなと、ステラは確信した。
『裏ってなんだ? 表もあるのか?』
リヴィウスとは違いもう色に慣れたらしいてぷは興味深そうにあちこちを眺めながら問いかけた。キキョウは口許だけ微笑んで人差し指を唇に押し当てた。
「子供にはまぁだ早いね」
『子供じゃないぞ!』
「そうやって言い返してくるのが子供の証さ。心配せずとも大きくなったら自然とわかるよ、ねえ色男?」
突然話を振られたリヴィウスだったが会話の内容は理解しているのか大した反応をすることもなく「そうだな」と素っ気なく返した。相変わらず目は糸のように細められているけれど、ステラはそのやりとりに少しだけ、ほんの少しだけ胸にもやっとしたものが広がった。
「?」
それがなんなのかわからず胸に手を当てて首を傾げていれば不意にキキョウの足が止まった。
「ただいま」
ぴったりと閉じられている木製の扉を開けてキキョウが中へと入る。
「三人ほど客人を連れて来た。奥の間に通すからお茶の用意を頼むよ。ああそれと子供がいるから茶菓子も必要だねえ」
勝手に入る訳にはいかないなと建物の前で待っていれば中からひょこりとキキョウが顔を出した。緩く唇に弧を描いたままちょいちょい、と白魚のような手でステラたちに手招きをする。
「さあさあ入った入った。ここがあたしの店だよ。あ、色男は一回てぷ坊を下ろした方がいいよ、あんた大きいからぶつかっちまう」
そう言われて入口を見上げる。確かにステラやてぷなら問題なく潜れる高さだけれどリヴィウスがそのまま通ったら確実に顔を強打してしまう位置だった。
「……この国の建物は低すぎやしないか」
大人しくてぷを下ろしたリヴィウスは言われた通り頭を下げて店の中に足を踏み入れた。ステラもその後に続くと今まで原色で派手な外観を見てきたせいで落ち着いた色合いの内装がやけに地味に感じられる。
『うう、騒がしいのから落ち着いたのに急に変わると目がしぱしぱするんだぞ~』
それにはステラも全く同意見だった。平衡感覚が一瞬失われたような気がする。
「あはは、まあすぐに慣れるよ」
軽く笑い飛ばしたキキョウに苦笑しつつステラたちは板張りの廊下を歩く。時々熱烈な視線を感じるのはきっと気のせいではないのだろうなと思いながらチラリとリヴィウスを見上げると「……」苦虫を五十匹程度同時に噛み潰したような顔をしていた。
「……どうして俺はこんなに見られているんだ」
「……顔が整っているから、ですかね?」
『……ボクも見られてる気がするんだぞ』
ステラは緩い微笑みを浮かべたまま小さく首を横に振り、励ますようにリヴィウスの背中を撫でた。
するとステラにも視線が集まった。刺すようなそれだった。
どこからどう見ても一般的な建築物の筈なのに屋根の色や外の壁の色がおかしいのである。
この国の建物の外観は色すらも同系色で統一されている。黒や茶色、灰色が多いのだがこの区画は違う。原色が多いのだ。赤、黄色、緑、たまに金色も混ざっていて落ち着いた色合いに慣れている目には毒と言ってもいい光景だった。
その光景に驚いているのはリヴィウスやてぷも同じで、なんなら黒と紫しかない世界で千年もの時を生きてきたリヴィウスにとっては目が潰れる程の色彩の暴力なのではないかとすら思う。その証拠にリヴィウスはもうほとんど目を閉じていた。ほんの少しだけ目を開けてはいるが視線は地面に向けられている。ステラはわかるな、と頷いた。
地面の茶色に感謝する日が来るなんて夢にも思っていなかった。
「昼間だと地味だけど夜になるともっと派手になるんだよ」
『地味⁉︎ これで地味なのか⁉︎』
「そうさ。ここはオーエド一の盛り場、裏タカマガハラなんだから」
まるで舞台に立つ役者のような大仰な台詞で言い切ったキキョウはばっと両腕を広げた。その瞬間、街全体がギラギラと輝いて見えたのは目の錯覚だったけれどそれでも夜になると本当に“そう”なるんだろうなと、ステラは確信した。
『裏ってなんだ? 表もあるのか?』
リヴィウスとは違いもう色に慣れたらしいてぷは興味深そうにあちこちを眺めながら問いかけた。キキョウは口許だけ微笑んで人差し指を唇に押し当てた。
「子供にはまぁだ早いね」
『子供じゃないぞ!』
「そうやって言い返してくるのが子供の証さ。心配せずとも大きくなったら自然とわかるよ、ねえ色男?」
突然話を振られたリヴィウスだったが会話の内容は理解しているのか大した反応をすることもなく「そうだな」と素っ気なく返した。相変わらず目は糸のように細められているけれど、ステラはそのやりとりに少しだけ、ほんの少しだけ胸にもやっとしたものが広がった。
「?」
それがなんなのかわからず胸に手を当てて首を傾げていれば不意にキキョウの足が止まった。
「ただいま」
ぴったりと閉じられている木製の扉を開けてキキョウが中へと入る。
「三人ほど客人を連れて来た。奥の間に通すからお茶の用意を頼むよ。ああそれと子供がいるから茶菓子も必要だねえ」
勝手に入る訳にはいかないなと建物の前で待っていれば中からひょこりとキキョウが顔を出した。緩く唇に弧を描いたままちょいちょい、と白魚のような手でステラたちに手招きをする。
「さあさあ入った入った。ここがあたしの店だよ。あ、色男は一回てぷ坊を下ろした方がいいよ、あんた大きいからぶつかっちまう」
そう言われて入口を見上げる。確かにステラやてぷなら問題なく潜れる高さだけれどリヴィウスがそのまま通ったら確実に顔を強打してしまう位置だった。
「……この国の建物は低すぎやしないか」
大人しくてぷを下ろしたリヴィウスは言われた通り頭を下げて店の中に足を踏み入れた。ステラもその後に続くと今まで原色で派手な外観を見てきたせいで落ち着いた色合いの内装がやけに地味に感じられる。
『うう、騒がしいのから落ち着いたのに急に変わると目がしぱしぱするんだぞ~』
それにはステラも全く同意見だった。平衡感覚が一瞬失われたような気がする。
「あはは、まあすぐに慣れるよ」
軽く笑い飛ばしたキキョウに苦笑しつつステラたちは板張りの廊下を歩く。時々熱烈な視線を感じるのはきっと気のせいではないのだろうなと思いながらチラリとリヴィウスを見上げると「……」苦虫を五十匹程度同時に噛み潰したような顔をしていた。
「……どうして俺はこんなに見られているんだ」
「……顔が整っているから、ですかね?」
『……ボクも見られてる気がするんだぞ』
ステラは緩い微笑みを浮かべたまま小さく首を横に振り、励ますようにリヴィウスの背中を撫でた。
するとステラにも視線が集まった。刺すようなそれだった。
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