【完結】元つく二人の珍道中!〜(元)魔王と聖女の全国行脚美食旅〜

白(しろ)

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第三章 東の国の大きなお風呂編

キキョウの相談事

 翌日からステラたちは肉入り芋揚げが出来上がるまでキキョウの手伝いをすることにした。キキョウの店で行われた何やらひりつくような緊張感の中語られた内容は少し意外なものだった。

「……最近ね、外海くる奴らの動きがおかしいんだよ」
「おかしい、とは?」
「明らかに来る人間が増えてる。それはまあ別に良いんだ、魔王が死んだことで魔族がいなくなったからね。旅への警戒心が下がるのは当然だし、それで人の動きが活発になるのもまた当然」

 煙管キセルを咥えたキキョウは憂い顔で煙をくゆらせた。

「ただいかんせん、来てる奴らに違和感がある」

 そういって机に並べられたのは何やら人物像のようなものだった。独特のタッチで描かれているものだが、特徴はなんとなく伝わる。

「そいつらは外海でそれなりに名前を売ってるワルだよ。名前はヒドラ、何か知らないかい?」

 てぷとリヴィウスは当然のことながら首を横に振った。けれどステラはその名前と似顔絵に覚えがあった。似顔絵を持ち上げて、記憶の中にある男たちと照らし合わせてみる。
 大きな鷲鼻に、鋭い三白眼。背は低くお腹は出ているけれど着ているものは一級品で、そして身につけている宝飾類はギラギラと輝いている趣味の悪い男。

「……知っています。ヒドラとはこの男が組しているグループの総称です。……この男が何か?」

 ステラはこの男を知っている。かつて勇者たちとの旅で人間の闇の部分を凝縮したような事件を起こした奴らだから、よく覚えている。
 キキョウの目が俄に見開かれカン、と煙管が置かれた。

「そりゃあ都合が良い。……最近こいつら絡みの人間がアズマヒに結構な頻度で来てんだよ。で、その度にオーエド中の食い物がある場所に持っていかれる」

 ステラは似顔絵を机に戻し、他に並べられているそれの中にまた一人見覚えのある顔を見つけて内側の頬の肉を噛んだ。

「その場所ってのがね、タカマガハラだ」
「……タカマガハラ?」
『ここじゃないんだぞ?』
「ここは裏タカマガハラさ。明るく楽しく芸を売る盛り場。でもタカマガハラは違う。あっちが売るのは春だ」

 一応てぷに配慮したのか直接的な表現は避けたけれど、その言葉の意味するところは三人が理解できた。だがそれだけでキキョウが警戒する意味がわからずにいるとリヴィウスが口を開いた。

「……別段おかしな話でも無いだろう。きな臭い奴らが行くには似合いの場所だと思うが」

 僅かにキキョウの目がリヴィウスを睨む。

「随分な言い方だね。……まあ、そう言いたくなるのもわかるよ。けど問題はそこじゃないんだ」
「勿体ぶらずに話せ。周りくどいのは好きじゃない」
「リヴィ」

 ステラが嗜めるように呼んでもリヴィウスは無表情のままキキョウを見ていた。それに深く、重たく息を吐き出したキキョウが小さく口を開く。

「……人が売られてるかもしれない」
「!」

 ステラの目が見開かれた。

「最近アズマヒで人攫いが増えてる。それに悔しいけどこの国は外に比べたら随分と色々が遅れてるらしいじゃないか。だから多分、そういうことをするには向いてる。タカマガハラなんて特にね」

 タカマガハラ、それはオーエドのとある地区全てを指す地名。入口には巨大な朱塗の鳥居と、その奥には常に見張りが数人付いている門がある。そしてその奥に広がるのは、まさしく遊廓と呼ぶに相応しい美しい男女が客を手招く世界だ。
 あまりの器量良しの多さに人生を狂わされた人々は数知れず。各界の著名人が入り浸り、金を、情報を落とし、もはや一つの国として成り立っているといっても不思議ではない場所。
 確かにそこならば、秘密裏に何が行われていても誰も口出し出来ないだろう。

「魔族が消えて商売がしやすくなったと思ったらこれだ。まだ確定じゃないんだけどね、ほぼ間違いないだろう」
「……それでこれを俺たちにどうしろというんだ」
「結論を急ぐねえ色男。……そりゃあ潰して欲しいさ、このヒドラとかいういけすかない馬鹿どもを」
「俺たちには関係無い。自分の国のことだろう」

 何を言っても打ち返される。普通の人なら折れてしまってもおかしくない程の冷たい声と言葉にキキョウは艶然と笑ってみせた。そしてつい、と視線を向けた先にいるのはステラだ。

「……ずるい人ですね」
「そういう商売だからね」

 重たく息を吐き出してステラはもう一度机に並ぶ似顔絵に視線を移した。
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