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第三章 東の国の大きなお風呂編
圧倒的情報量と処理を拒否した頭
「魔族として弱い奴らは強くなる為、腹を満たす為に人間を食う。だが上位の力が強い魔族になると食欲すらも希薄だ。人間を食うまでもなく力があるからな。だからそういう奴らは暇潰しに下級魔族を庇護してみたり、人間の街を支配したりする。その中でたまにいたぞ、人間との間に子を儲ける奴らが」
淡々と語られる言葉は聖女として数々の知識の吸収を義務付けられたステラですら知らないものだ。否、魔族が面白半分に人間と番うことがあるというのは知っている。けれどその結末は大抵悲しいもので終わるのだ。
だからそんな存在がいることすら、ステラたち人間は知らない。いるべきではない、と無意識に多くの人間が忌避している存在でもあった。
ステラの脳裏に少年の様子が思い出される。自分と似た顔立ちに、心配になる程細い体。長い黒髪と、ステラを見て怒り、そして泣き崩れた姿。そのどれもがステラの心にしこりを残す。どうにかして助けてあげたいと思う。
だって彼はあんなにも酷い扱いを受けていた。それなのに、ステラを助けようとしてくれた優しい子でもあるのだ。
顎に手を当てて思い悩むステラをリヴィウスとてぷが見ていた。
「放っておけ」
突き放すような声にステラがハッと顔を上げる。
「どうしてですか?」
『あのヒトの子は自分からあの男を連れて逃げていったんだぞ』
精霊は嘘を吐かない。だからこれは真実の言葉だ。だからこそ、ステラは信じられないと目を見開いた。咄嗟に反論しようと口を開いたけれど、結局何も言えずに口を閉じたのは自分があの少年のことを何も知らないからだ。
名前も、どうしてあそこにいるのかも、どうしてステラの顔を見て泣き出したのかも、ステラは知らない。だから彼の行動をおかしいという権利は、ステラには無い。
「お前が気にすることじゃない。あの男が逃げたのは心底気に食わないがな」
うんざりと息を吐いたリヴィウスの顎がステラの頭に乗る。ずしりとした重たさに「ぐえ」と変な声が出た。
『ステラくらいの治癒魔法が使えるやつがいない限りあの男しばらく動けないと思うぞ』
くりくりの目でリヴィウスを見ながら言い放たれた言葉にふと思った。一体どの程度の痛めつけを行ったのだろう、と。だがステラはそれをあえて訊くことはしなかった。なんとなく、その方がいいと思ったのだ。
そうしてまたふと思い出す。思い出して、なんて大事なことを後回しにしていたんだと己の迂闊さを恥じた。
「あの、魔族はどうなりましたか? 赤黒い髪をした、女性の魔族なんですが」
「いたか? そんなやつ」
「え」
ステラの背中に嫌な汗が伝う。リヴィウスですら気が付いていないというのであれば、もしかしたら危険を察知して逃げてしまったのだろうか。あれほどの力を持つ魔族が今も好きに行動しているのだとしたらステラはここで休んでいる訳には行かない。
緊張が走ったと同時に、その緊張を吹き飛ばすようなてぷの特大な溜息が部屋に響いた。
『いたぞ。お前が最初に吹き飛ばした部屋にいたんだぞ。あの魔族お前見てすんごい興奮してたんだぞ』
「知らん。覚えてない」
『はああああああ』
てぷがとんでもなくやさぐれた顔で溜息を吐いた。いい加減溜息を吐きすぎてお腹が萎んでしまうのではと思う程に溜息ばかり吐いている。
『魔族はちゃんと倒したんだぞ。でも倒したのはリヴィじゃない。リヴィはステラがいないってわかった途端に違うとこに行ったからな!』
「え?」
その言葉にさらにステラは混乱した。倒したのがリヴィじゃない…? あの上位魔族にも匹敵する魔力を持った存在をリヴィ以外が倒した? ステラは混乱して、もしかしててぷが、と視線を向けるがてぷはその意図を知ってかふるふると首を横に振った。
「えぇ…? じゃあ誰が…?」
『知らないヒトの子だぞ。 すんごいおっきかったんだぞ! リヴィよりもおっきくてどーんって感じだったぞ! そのヒトの子がこう、ずばーんってパンチしたんだぞ』
情報量にステラの頭はパンクしそうだった。無意識のうちに眉間に深い皺が寄っていて、それに気が付いたてぷが不思議そうに首を傾げている。
ひとまず魔族が倒されていたのなら良い。それならば何よりだ。だがしかし、新たな気になる問題が浮上してきてしまった。ステラの頭に浮かぶのはかつての勇者一行の仲間の一人。
リヴィウスよりも背が高く。体も逞しく、そして全ての物事を拳と筋肉と時々剣で解決していた岩のような大男を、ステラは知っている。そしてその男であれば単騎でもあの程度の魔族とであれば渡り合えるというのも、ステラはわかっている。
かつてのリヴィウスの言葉をステラは今身を持って体験していた。
「こんな情報量……生きてきて初めてです……」
ステラの言葉にてぷもリヴィウスも不思議そうにしていた。それはそうだ。だってこれらの情報はステラの中だけで絶大な混乱という威力を発揮する。
ああどうしたものか、そう思いながらステラはリヴィウスの腕の中で溜息を吐いたのだった。
淡々と語られる言葉は聖女として数々の知識の吸収を義務付けられたステラですら知らないものだ。否、魔族が面白半分に人間と番うことがあるというのは知っている。けれどその結末は大抵悲しいもので終わるのだ。
だからそんな存在がいることすら、ステラたち人間は知らない。いるべきではない、と無意識に多くの人間が忌避している存在でもあった。
ステラの脳裏に少年の様子が思い出される。自分と似た顔立ちに、心配になる程細い体。長い黒髪と、ステラを見て怒り、そして泣き崩れた姿。そのどれもがステラの心にしこりを残す。どうにかして助けてあげたいと思う。
だって彼はあんなにも酷い扱いを受けていた。それなのに、ステラを助けようとしてくれた優しい子でもあるのだ。
顎に手を当てて思い悩むステラをリヴィウスとてぷが見ていた。
「放っておけ」
突き放すような声にステラがハッと顔を上げる。
「どうしてですか?」
『あのヒトの子は自分からあの男を連れて逃げていったんだぞ』
精霊は嘘を吐かない。だからこれは真実の言葉だ。だからこそ、ステラは信じられないと目を見開いた。咄嗟に反論しようと口を開いたけれど、結局何も言えずに口を閉じたのは自分があの少年のことを何も知らないからだ。
名前も、どうしてあそこにいるのかも、どうしてステラの顔を見て泣き出したのかも、ステラは知らない。だから彼の行動をおかしいという権利は、ステラには無い。
「お前が気にすることじゃない。あの男が逃げたのは心底気に食わないがな」
うんざりと息を吐いたリヴィウスの顎がステラの頭に乗る。ずしりとした重たさに「ぐえ」と変な声が出た。
『ステラくらいの治癒魔法が使えるやつがいない限りあの男しばらく動けないと思うぞ』
くりくりの目でリヴィウスを見ながら言い放たれた言葉にふと思った。一体どの程度の痛めつけを行ったのだろう、と。だがステラはそれをあえて訊くことはしなかった。なんとなく、その方がいいと思ったのだ。
そうしてまたふと思い出す。思い出して、なんて大事なことを後回しにしていたんだと己の迂闊さを恥じた。
「あの、魔族はどうなりましたか? 赤黒い髪をした、女性の魔族なんですが」
「いたか? そんなやつ」
「え」
ステラの背中に嫌な汗が伝う。リヴィウスですら気が付いていないというのであれば、もしかしたら危険を察知して逃げてしまったのだろうか。あれほどの力を持つ魔族が今も好きに行動しているのだとしたらステラはここで休んでいる訳には行かない。
緊張が走ったと同時に、その緊張を吹き飛ばすようなてぷの特大な溜息が部屋に響いた。
『いたぞ。お前が最初に吹き飛ばした部屋にいたんだぞ。あの魔族お前見てすんごい興奮してたんだぞ』
「知らん。覚えてない」
『はああああああ』
てぷがとんでもなくやさぐれた顔で溜息を吐いた。いい加減溜息を吐きすぎてお腹が萎んでしまうのではと思う程に溜息ばかり吐いている。
『魔族はちゃんと倒したんだぞ。でも倒したのはリヴィじゃない。リヴィはステラがいないってわかった途端に違うとこに行ったからな!』
「え?」
その言葉にさらにステラは混乱した。倒したのがリヴィじゃない…? あの上位魔族にも匹敵する魔力を持った存在をリヴィ以外が倒した? ステラは混乱して、もしかしててぷが、と視線を向けるがてぷはその意図を知ってかふるふると首を横に振った。
「えぇ…? じゃあ誰が…?」
『知らないヒトの子だぞ。 すんごいおっきかったんだぞ! リヴィよりもおっきくてどーんって感じだったぞ! そのヒトの子がこう、ずばーんってパンチしたんだぞ』
情報量にステラの頭はパンクしそうだった。無意識のうちに眉間に深い皺が寄っていて、それに気が付いたてぷが不思議そうに首を傾げている。
ひとまず魔族が倒されていたのなら良い。それならば何よりだ。だがしかし、新たな気になる問題が浮上してきてしまった。ステラの頭に浮かぶのはかつての勇者一行の仲間の一人。
リヴィウスよりも背が高く。体も逞しく、そして全ての物事を拳と筋肉と時々剣で解決していた岩のような大男を、ステラは知っている。そしてその男であれば単騎でもあの程度の魔族とであれば渡り合えるというのも、ステラはわかっている。
かつてのリヴィウスの言葉をステラは今身を持って体験していた。
「こんな情報量……生きてきて初めてです……」
ステラの言葉にてぷもリヴィウスも不思議そうにしていた。それはそうだ。だってこれらの情報はステラの中だけで絶大な混乱という威力を発揮する。
ああどうしたものか、そう思いながらステラはリヴィウスの腕の中で溜息を吐いたのだった。
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