【完結】元つく二人の珍道中!〜(元)魔王と聖女の全国行脚美食旅〜

白(しろ)

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第三章 東の国の大きなお風呂編

好きなように

 キキョウはステラがキースに囚われていたのを知っている。媚薬を飲まされていたことも知っていたし、その後なんらかの力が働いてリヴィウスとステラが姿を消したことも知っている。
 魔法というものは、そんなに便利なものではない。生活が便利になるようにと日々研究はされているが攻撃や防衛、転移などの高等魔法が使えるのはほんの一部。ステラはその一部をキキョウの前で当たり前のように見せてしまっている。
 それらの可能性が合わさって、キキョウはその結論に辿り着いたらしい。

「だからあんたそうほいほい魔法を使うんじゃないよ」
「……返す言葉もございません」

 ステラは己の迂闊さを反省していた。何を隠そう生まれてから今まで高等魔法を使うのが当たり前の人生を過ごしてきたステラはその辺りの感覚が麻痺していた。流石に転移魔法クラスの大魔法は使用するのを控えていたが、そうだった。
 一般の人たちは氷はおろか水を一滴出す魔法すら使用出来ないのだ。

「まあやっちまったもんはしょうがないさ。幸いにもここはアズマヒの国だ。外海とはそう情報を交換することもないし、噂が回ったとしても数日で消える。だけど、地続きの場所はそうもいかないからね。あんた、というかあんたたちはもっと慎重に旅をしな」

 ぐうの音も出ない正論にステラは渋い顔をして頷くしか出来ない。けれど最後の言葉は少し意外でぱちぱちと瞬きをする。

「なんだい」
「いえ、もっと責められるものだとばかり。生きていたくせに、とか」
「あんたに感謝する人間はいても責める人間なんてどこにもいないだろ。あの御伽噺みたいな噂が本当なら、あんたは間違いなく世界を救ったんだからね」

 わ、と舞台の方で歓声が上がる。何やらてぷが屈強な乙女たちに遊ばれているけれど本人は嬉しそうにキャッキャとはしゃいでいる。リヴィウスは乙女たちに囲まれてどこかに魂を飛ばしていた。

「まあ信じ難いことばっかりだけどね。生きてるし、男だし、こんな無防備に旅をしているし、警戒心は無いしで。でもまあ、いいんじゃないかい。生きてんなら好きなことしたって」

 静かに呟かれた言葉はステラに、というよりはキキョウが自分に言い聞かせているような気がした。

「人生は一回きりだ。好きなことしてかないとあっという間に年食っちまう。だからあんたも好きなようにお生きよ」

 ぱんっと小気味よく膝を叩いたキキョウが立ち上がった。ふわりと香る匂いは夜の花を思わせるようなどこか物悲しいもの。けれどその匂いをキキョウが纏うからこそ、唯一無二の美しさになっている。

「さあさあ今日は特別だ。あたしの舞も観ていきな!」
「姐さーーーん!」
「素敵よ! 今日もアズマヒ一の美人だわー!」

 広間が今日一番の盛り上がりを見せてそれまで舞台に上がっていた屈強な乙女たちが全員降りてきてその場所をキキョウに渡す。その頃にはそれまで可愛がられていたリヴィウスもようやく解放されたらしく、よろよろとステラの隣にやって来た。
 ちなみにてぷは乙女の膝の上でキキョウの姿をきゃいきゃいとはしゃぎながら見ている。言わずもがなとても可愛い。

「リヴィ、口を開けてください」
「ん」

 大人しく口を開けたリヴィウスに先程の大福を押し込む。

「食べかけですみません。でも今甘いものが欲しいだろうなと思って」

 むぐむぐと咀嚼している様子を微笑みながら見ているとあれだけ騒がしかった広間が心地よい静寂に包まれる。何事だろうかと舞台の方に顔を向ければそれから数秒と立たず弦楽器の音がした。
 豊かな音色の中キキョウが滑らかに舞っている。その姿はまさしく天女のそれで思わず目を奪われた。口許に艶やかな笑みを湛え、洗練された所作で踊るその姿はキキョウの生き様を表しているようだった。その姿を見ながらステラはつい先程言われた言葉を反芻する。

「何か言われたか」

 いつの間にか右手が握られていてステラは視線を隣に向ける。リヴィウスの視線は舞台に向いたままだったが、意識はこちらにあるのがわかってステラは微笑んだ。

「……色々と。でも素敵なお話でしたよ」
「そうか」

 自然と指が交差する形で手を握り直して二人はまた舞台の方を見る。人攫い事件の解決を祝して開かれたその宴は夜遅くまで続いた。余談だが、最後まで生き残っていたのはステラとリヴィウスとキキョウ、そして元気いっぱいのてぷだったらしい。
 キキョウは言った。「てぷ坊の体力どうなってんの?」と。
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