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第四章 西の国の救国の聖女編
倒せて良かった
港町で一泊した三人は当初の目的通り首都リュミールを目指して出発することにした。この港町からリュミールまではモンスターが頻繁に出現する森さえ抜けられればすぐに着くことが出来る。
冒険を始めた当初はモンスターや歩き慣れない森に手こずって酷く時間が掛かったものだが今のステラにとっては散歩にも等しい。けれど下手に魔法を使うのはまずいなと思い、リヴィウスとてぷにも聖水を掛けてモンスター避けをすれば本格的に森の中の移動は散歩になる。
程良く光が入り、風が吹けば木々の擦れる音がする道中には心地良さすら感じる。きっと気温が丁度いいのもあるだろう。暑過ぎず寒過ぎず、動けば温かくなる程度の気温と朝の静けさが重なってステラは思わず深呼吸した。
「はあ、癒されますね」
「森を歩くだけで癒されるのか?」
『自然はエネルギーを補充できるんだぞ。癒ししかないんだぞ』
「お前は精霊なんだからそうだろうが人間でもそうなのか?」
この森には比較的大きな道がある。首都やそれ以外の街から荷物を運ぶために馬車が通るからだ。今も道には新しい車輪の跡が残っていて、きっと首都で開かれる祭りに向かうための物なのだろうと推測出来た。
その道を三人は並んで歩いていた。てぷは相変わらずリヴィウスに抱えられているけれど。
「人によると思います。私は自然の中にいたりてぷ様に触れたりしていれば癒されますが、中にはお金の匂いを嗅ぐと癒される人やお酒を飲むと癒される人もいます。他にも色々ありますが、本当に人によってそれぞれだなという印象ですね」
「そうか」
ステラはリヴィウスの手を握っている。街ではないしこの森のことはわかっているしで迷子になる危険はまるで無いのだが、それでも握っていろと言われてこの状態だ。
ステラの言葉を聞いたリヴィウスは少しの間何かを考えていたのかそう返事をしたきり黙っていたがやがて「そうか」と全く同じ言葉を呟いてステラを見る。
「なら俺の癒しは」
『げふんごふんげふんなんだぞ!』
てぷのわざとらしい咳払いにリヴィウスの眉間に皺が寄る。不愉快だとばかりにてぷを視線が射抜くけれど子供姿のてぷはその倍は不快そうな顔をしてリヴィウスを見ていた。
『リヴィはボクの気持ちも考えて欲しいんだぞ』
「何故俺がお前を慮らなければいけない」
『トモダチには優しくするもんなんだぞ!』
「十分優しいだろう、俺は」
『……そんなことないって言えないのが悔しいんだぞ…!』
気軽な二人のやり取りに思わず笑ってしまいながら歩を進める。たまに後ろからやってくる馬車に道を開け「乗っていくかい?」なんて優しい言葉を掛けてくれる人には「歩きたいから」と返事をして穏やかな散歩を続ける。
進んでいくうちにてぷが甘い香りに気が付いて『あっちだぞ!』と指差す先に三人で向かって木に生っている果物を見つけて食べてみたり、そういえばこの奥に綺麗な湖があったと思い出したステラが二人を案内して少し休憩したりして、気が付けば時間は昼頃を迎えていた。
太陽が随分と上にやって来た頃にようやく森の出口が見え始めた。鬱蒼と茂った森は徐々に開けていくのではなく、ある境目で綺麗に開けるのである。出口が近づくに連れて見えてきた人工的な建造物と、その背後に聳える霊山フェデル。
ペタルにいた時は丁度反対側だったから見ることが出来なかったが、森を抜けた場所からはその中腹に建てられた大聖堂が小さくはあるが確認出来る。
『おお、これがリュミール…!』
「……広いな」
「首都ですから」
首都リュミールは谷に作られている。森の出口は丁度高台に位置していて、そこからリュミールを一望することが出来るのだ。首都全体を守るように建造された市壁の中、霊山フェデルの麓で横に広く建造されているのはリュミールの権力の象徴と言ってもいい王城だ。
これだけ遠くから見ても豪華だとわかる造りは数年ぶりに見ても感嘆の息が漏れる。城の前には大きな跳ね橋があり、そこから真っ直ぐに一本の道が街の中を通っているのも見えるが、傾斜を利用して街が出来ているからかそこから階段式で階級が別れていくのだ。
貴族街、商人や貴族の中でも位が低い家の土地と続き、市民街になるのだが上から見ていても街が活気付いているのがわかる。これは別に祭りが近いからではないない、リュミールは常にこうなのだ。
たった数年前に同じ場所でステラはこの景色を見ていた。あの頃感じていた漠然とした不安とほんの少しの高揚は今でも昨日のことのように思い出せる。けれどあの頃と今ではステラの心境はまるで違う。穏やかなのだ、とても。
「……ここに来たらもっと緊張すると思っていました」
聖女として大義を全うせねばならない。そんな感情がかつての旅の間中ずっとステラの胸の中にあった。だけど今はどんな形であれ魔王を倒し、着実に世界は平和に向けて進んでいっている。それをこの景色を見てようやく実感出来た、そんな気がした。
「……元魔王を前にこれを言うのもどうかと思いますが、倒せて良かったなって今思っています」
「……ふ」
『んふふ、面白いんだぞ』
リヴィウスとてぷがおかしそうに笑ってステラを見る。
「俺もあの時お前に倒されてよかったと思う」
あんまり真っ直ぐな目で伝えられた言葉にステラは目を丸くした。けれどなんだかおかしくて息を吐き出すように笑うと手を握り直す。
「それなら良かったです」
足を前に踏み出し、ステラたちは首都リュミールに向けて歩き出した。
冒険を始めた当初はモンスターや歩き慣れない森に手こずって酷く時間が掛かったものだが今のステラにとっては散歩にも等しい。けれど下手に魔法を使うのはまずいなと思い、リヴィウスとてぷにも聖水を掛けてモンスター避けをすれば本格的に森の中の移動は散歩になる。
程良く光が入り、風が吹けば木々の擦れる音がする道中には心地良さすら感じる。きっと気温が丁度いいのもあるだろう。暑過ぎず寒過ぎず、動けば温かくなる程度の気温と朝の静けさが重なってステラは思わず深呼吸した。
「はあ、癒されますね」
「森を歩くだけで癒されるのか?」
『自然はエネルギーを補充できるんだぞ。癒ししかないんだぞ』
「お前は精霊なんだからそうだろうが人間でもそうなのか?」
この森には比較的大きな道がある。首都やそれ以外の街から荷物を運ぶために馬車が通るからだ。今も道には新しい車輪の跡が残っていて、きっと首都で開かれる祭りに向かうための物なのだろうと推測出来た。
その道を三人は並んで歩いていた。てぷは相変わらずリヴィウスに抱えられているけれど。
「人によると思います。私は自然の中にいたりてぷ様に触れたりしていれば癒されますが、中にはお金の匂いを嗅ぐと癒される人やお酒を飲むと癒される人もいます。他にも色々ありますが、本当に人によってそれぞれだなという印象ですね」
「そうか」
ステラはリヴィウスの手を握っている。街ではないしこの森のことはわかっているしで迷子になる危険はまるで無いのだが、それでも握っていろと言われてこの状態だ。
ステラの言葉を聞いたリヴィウスは少しの間何かを考えていたのかそう返事をしたきり黙っていたがやがて「そうか」と全く同じ言葉を呟いてステラを見る。
「なら俺の癒しは」
『げふんごふんげふんなんだぞ!』
てぷのわざとらしい咳払いにリヴィウスの眉間に皺が寄る。不愉快だとばかりにてぷを視線が射抜くけれど子供姿のてぷはその倍は不快そうな顔をしてリヴィウスを見ていた。
『リヴィはボクの気持ちも考えて欲しいんだぞ』
「何故俺がお前を慮らなければいけない」
『トモダチには優しくするもんなんだぞ!』
「十分優しいだろう、俺は」
『……そんなことないって言えないのが悔しいんだぞ…!』
気軽な二人のやり取りに思わず笑ってしまいながら歩を進める。たまに後ろからやってくる馬車に道を開け「乗っていくかい?」なんて優しい言葉を掛けてくれる人には「歩きたいから」と返事をして穏やかな散歩を続ける。
進んでいくうちにてぷが甘い香りに気が付いて『あっちだぞ!』と指差す先に三人で向かって木に生っている果物を見つけて食べてみたり、そういえばこの奥に綺麗な湖があったと思い出したステラが二人を案内して少し休憩したりして、気が付けば時間は昼頃を迎えていた。
太陽が随分と上にやって来た頃にようやく森の出口が見え始めた。鬱蒼と茂った森は徐々に開けていくのではなく、ある境目で綺麗に開けるのである。出口が近づくに連れて見えてきた人工的な建造物と、その背後に聳える霊山フェデル。
ペタルにいた時は丁度反対側だったから見ることが出来なかったが、森を抜けた場所からはその中腹に建てられた大聖堂が小さくはあるが確認出来る。
『おお、これがリュミール…!』
「……広いな」
「首都ですから」
首都リュミールは谷に作られている。森の出口は丁度高台に位置していて、そこからリュミールを一望することが出来るのだ。首都全体を守るように建造された市壁の中、霊山フェデルの麓で横に広く建造されているのはリュミールの権力の象徴と言ってもいい王城だ。
これだけ遠くから見ても豪華だとわかる造りは数年ぶりに見ても感嘆の息が漏れる。城の前には大きな跳ね橋があり、そこから真っ直ぐに一本の道が街の中を通っているのも見えるが、傾斜を利用して街が出来ているからかそこから階段式で階級が別れていくのだ。
貴族街、商人や貴族の中でも位が低い家の土地と続き、市民街になるのだが上から見ていても街が活気付いているのがわかる。これは別に祭りが近いからではないない、リュミールは常にこうなのだ。
たった数年前に同じ場所でステラはこの景色を見ていた。あの頃感じていた漠然とした不安とほんの少しの高揚は今でも昨日のことのように思い出せる。けれどあの頃と今ではステラの心境はまるで違う。穏やかなのだ、とても。
「……ここに来たらもっと緊張すると思っていました」
聖女として大義を全うせねばならない。そんな感情がかつての旅の間中ずっとステラの胸の中にあった。だけど今はどんな形であれ魔王を倒し、着実に世界は平和に向けて進んでいっている。それをこの景色を見てようやく実感出来た、そんな気がした。
「……元魔王を前にこれを言うのもどうかと思いますが、倒せて良かったなって今思っています」
「……ふ」
『んふふ、面白いんだぞ』
リヴィウスとてぷがおかしそうに笑ってステラを見る。
「俺もあの時お前に倒されてよかったと思う」
あんまり真っ直ぐな目で伝えられた言葉にステラは目を丸くした。けれどなんだかおかしくて息を吐き出すように笑うと手を握り直す。
「それなら良かったです」
足を前に踏み出し、ステラたちは首都リュミールに向けて歩き出した。
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