94 / 105
第四章 西の国の救国の聖女編
迂闊の申し子
泣き止んだのはそれから少し経ってからだった。泣くのは、それこそ声を出して泣くのなんて生まれて初めてだったのではないだろうか。それに多少の羞恥を感じつつ鼻を啜って、顔を上げるとそこには優しい顔をしたリマがいて理由のない安心感が体を包む。
つい体から力が抜けてゆっくりとしてしまいそうになるが、ステラには聞かなければいけないことがいくつかある。
「……おじいちゃん、私が生きているって知ってたんですか?」
「んー、ほほほ」
リマの皺だらけの手がステラの濡れた頬を撫でる。優しく慈愛に満ちた視線を受けながらステラはここに転移した瞬間を思い出した。
足元に現れた光魔法を表す白の魔法陣。この世界で精霊以外で転移魔法が使用できるのはステラを除けば教皇リマ唯一人だけなのだ。だから転移魔法が展開された時点でステラは誰が自分を呼んでいるのかわかっていた。
それはわかったけれど、驚いているのだ。だってステラは死んだことになっているはずだから。
リマはほっほ、と笑って白い髭を揺らした。
「女神様から教えて貰っていたんじゃよ」
「女神様から?」
ステラは驚きに目を丸くした。
「そうそう。勇者くんたちが戻ってきて、それから三日後くらいだったかのぅ。女神リーベがわしの夢に出てきて話してくれたのじゃ。ステラちゃんも、……それと魔王もまだ生きているということを」
「!」
「ああ大丈夫じゃよ。これを知っておるのはわししかおらんから」
リマの手が無意識に強張ったステラの背を撫でた。じっと顔を見てもリマの表情からは嘘を感じられない。いつもの優しいステラのよく知るリマの顔だ。けれどそれを信じていいのか、一抹の不安がステラの胸に影を落とす。
リヴィウスは、魔王は、人間の千年にも渡る敵だった。その存在が今も生きていて、しかもこの口振りだとステラと行動を共にしていることもわかっているのだろう。口の中が、急激に乾いてくようだった。
「違う! 違うよステラちゃん! 本当にわししか知らないからね! 本当に大丈夫だからね!」
びえ、という間抜けな効果音がつきそうな顔でステラの肩を掴んで滂沱の涙を流す姿にステラは瞬時に理解した。
(あ、これ大丈夫なやつだ)
リマは教皇という地位に就いていることから腹芸も何のその、というこの姿からは想像も出来ない一面を持っているけれどステラに対しては滅多なことがない限り嘘をつかない。過去つかれた嘘といえばステラが楽しみにしていたデザートをリマが食べてしまい、それを側近のせいにしたことだろうか。
どう頭を捻ってもその程度の嘘しか思い当たらないのだから、この人はステラにこんな嘘をつかないという信頼があった。
「女神様がな、ステラちゃんも魔王も頑張ったからこれから先は自由にしてあげるべきだって言っててな」
べそべそと泣きながら告げられた言葉にステラは瞬きを繰り返す。
「わしだって本当はステラちゃんにすぐ戻ってきて欲しかったけど、でもそれはわしの我儘じゃものな。……魔王を倒したら男の子として生活を保障するって約束もしておったし、何より魔王がいなくなったのなら、聖女のお仕事も終わりじゃからなあ」
そこまで言うとリマは裾の中に手を入れてごそごそとあるものを取り出した。リマの手のひらに乗る程度の球体のガラス玉だ。
「女神様がの、これでステラちゃんたちのことをたまに見せてくれていたんじゃ。だから元気に、楽しそうに過ごしておるのも知っておったよ」
慈しむように球体を撫でたリマがステラを見る。優しい表情にステラはまた少し鼻の奥が痛んだ。
「でもね」
低い声に鼻の痛みが引いた。ぱちぱちと瞬きをするとリマが慎重にガラス玉を裾にしまい直して、ステラの肩をガッと勢いよく掴んだ。
「!」
「迂闊が過ぎるんじゃよステラちゃああああん!」
ぐわんぐわんと揺らされながら切に訴えられた言葉にステラはただただ目を丸くする他なかった。
つい体から力が抜けてゆっくりとしてしまいそうになるが、ステラには聞かなければいけないことがいくつかある。
「……おじいちゃん、私が生きているって知ってたんですか?」
「んー、ほほほ」
リマの皺だらけの手がステラの濡れた頬を撫でる。優しく慈愛に満ちた視線を受けながらステラはここに転移した瞬間を思い出した。
足元に現れた光魔法を表す白の魔法陣。この世界で精霊以外で転移魔法が使用できるのはステラを除けば教皇リマ唯一人だけなのだ。だから転移魔法が展開された時点でステラは誰が自分を呼んでいるのかわかっていた。
それはわかったけれど、驚いているのだ。だってステラは死んだことになっているはずだから。
リマはほっほ、と笑って白い髭を揺らした。
「女神様から教えて貰っていたんじゃよ」
「女神様から?」
ステラは驚きに目を丸くした。
「そうそう。勇者くんたちが戻ってきて、それから三日後くらいだったかのぅ。女神リーベがわしの夢に出てきて話してくれたのじゃ。ステラちゃんも、……それと魔王もまだ生きているということを」
「!」
「ああ大丈夫じゃよ。これを知っておるのはわししかおらんから」
リマの手が無意識に強張ったステラの背を撫でた。じっと顔を見てもリマの表情からは嘘を感じられない。いつもの優しいステラのよく知るリマの顔だ。けれどそれを信じていいのか、一抹の不安がステラの胸に影を落とす。
リヴィウスは、魔王は、人間の千年にも渡る敵だった。その存在が今も生きていて、しかもこの口振りだとステラと行動を共にしていることもわかっているのだろう。口の中が、急激に乾いてくようだった。
「違う! 違うよステラちゃん! 本当にわししか知らないからね! 本当に大丈夫だからね!」
びえ、という間抜けな効果音がつきそうな顔でステラの肩を掴んで滂沱の涙を流す姿にステラは瞬時に理解した。
(あ、これ大丈夫なやつだ)
リマは教皇という地位に就いていることから腹芸も何のその、というこの姿からは想像も出来ない一面を持っているけれどステラに対しては滅多なことがない限り嘘をつかない。過去つかれた嘘といえばステラが楽しみにしていたデザートをリマが食べてしまい、それを側近のせいにしたことだろうか。
どう頭を捻ってもその程度の嘘しか思い当たらないのだから、この人はステラにこんな嘘をつかないという信頼があった。
「女神様がな、ステラちゃんも魔王も頑張ったからこれから先は自由にしてあげるべきだって言っててな」
べそべそと泣きながら告げられた言葉にステラは瞬きを繰り返す。
「わしだって本当はステラちゃんにすぐ戻ってきて欲しかったけど、でもそれはわしの我儘じゃものな。……魔王を倒したら男の子として生活を保障するって約束もしておったし、何より魔王がいなくなったのなら、聖女のお仕事も終わりじゃからなあ」
そこまで言うとリマは裾の中に手を入れてごそごそとあるものを取り出した。リマの手のひらに乗る程度の球体のガラス玉だ。
「女神様がの、これでステラちゃんたちのことをたまに見せてくれていたんじゃ。だから元気に、楽しそうに過ごしておるのも知っておったよ」
慈しむように球体を撫でたリマがステラを見る。優しい表情にステラはまた少し鼻の奥が痛んだ。
「でもね」
低い声に鼻の痛みが引いた。ぱちぱちと瞬きをするとリマが慎重にガラス玉を裾にしまい直して、ステラの肩をガッと勢いよく掴んだ。
「!」
「迂闊が過ぎるんじゃよステラちゃああああん!」
ぐわんぐわんと揺らされながら切に訴えられた言葉にステラはただただ目を丸くする他なかった。
あなたにおすすめの小説
不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です
新川はじめ
BL
国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。
フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。
生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!
ゲーム世界の貴族A(=俺)
猫宮乾
BL
妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。
【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)
てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。
言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち―――
大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡)
20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
薄幸な子爵は捻くれて傲慢な公爵に溺愛されて逃げられない
くまだった
BL
アーノルド公爵公子に気に入られようと常に周囲に人がいたが、没落しかけているレイモンドは興味がないようだった。アーノルドはそのことが、面白くなかった。ついにレイモンドが学校を辞めてしまって・・・
捻くれ傲慢公爵→→→→→貧困薄幸没落子爵
最後のほうに主人公では、ないですが人が亡くなるシーンがあります。
地雷の方はお気をつけください。
ムーンライトさんで、先行投稿しています。
感想いただけたら嬉しいです。
兄様の親友と恋人期間0日で結婚した僕の物語
サトー
BL
スローン王国の第五王子ユリアーネスは内気で自分に自信が持てず第一王子の兄、シリウスからは叱られてばかり。結婚して新しい家庭を築き、城を離れることが唯一の希望であるユリアーネスは兄の親友のミオに自覚のないまま恋をしていた。
ユリアーネスの結婚への思いを知ったミオはプロポーズをするが、それを知った兄シリウスは激昂する。
兄に縛られ続けた受けが結婚し、攻めとゆっくり絆を深めていくお話。
受け ユリアーネス(19)スローン王国第五王子。内気で自分に自信がない。
攻め ミオ(27)産まれてすぐゲンジツという世界からやってきた異世界人。を一途に思っていた。
※本番行為はないですが実兄→→→→受けへの描写があります。
※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。
【完結】星に焦がれて
白(しろ)
BL
気付いたら八年間囲われてた話、する? わんこ執着攻め×鈍感受け
「お、前、いつから…?」
「最初からだよ。初めて見た時から俺はお前のことが好きだった」
僕、アルデバラン・スタクにはどうしても敵わない男がいた。
家柄も、センスも、才能も、全てを持って生まれてきた天才、シリウス・ルーヴだ。
僕たちは十歳の頃王立の魔法学園で出会った。
シリウスは天才だ。だけど性格は無鉄砲で無計画で大雑把でとにかく甘えた、それに加えて我儘と来た。それに比べて僕は冷静で落ち着いていて、体よりも先に頭が働くタイプだったから気が付けば周りの大人たちの策略にはめられてシリウスの世話係を任されることになっていた。
二人組を作る時も、食事の時も、部屋だって同じのまま十八で学園を卒業する年まで僕たちは常に一緒に居て──そしてそれは就職先でも同じだった。
配属された辺境の地でも僕はシリウスの世話を任され、日々を慌ただしく過ごしていたそんなある日、国境の森に魔物が発生した。それを掃討すべく現場に向かうと何やら魔物の様子がおかしいことに気が付く。
その原因を突き止めたシリウスが掃討に当たったのだが、魔物の攻撃を受けてしまい重傷を負ってしまう。
初めて見るシリウスの姿に僕は動揺し、どうしようもなく不安だった。目を覚ますまでの間何をしていていも気になっていた男が三日振りに目を覚ました時、異変が起きた。
「…シリウス?」
「アルはさ、優しいから」
背中はベッドに押し付けられて、目の前には見たことが無い顔をしたシリウスがいた。
いつだって一等星のように煌めいていた瞳が、仄暗い熱で潤んでいた。とても友人に向ける目では、声では無かった。
「──俺のこと拒めないでしょ?」
おりてきた熱を拒む術を、僕は持っていなかった。
その日を境に、僕たちの関係は変わった。でも、僕にはどうしてシリウスがそんなことをしたのかがわからなかった。
これは気付かないうちに八年間囲われて、向けられている愛の大きさに気付かないまますったもんだする二人のお話。
【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。
白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。
僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。
けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。
どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。
「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」
神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。
これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。
本編は三人称です。
R−18に該当するページには※を付けます。
毎日20時更新
登場人物
ラファエル・ローデン
金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。
ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。
首筋で脈を取るのがクセ。
アルフレッド
茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。
剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。
神様
ガラが悪い大男。