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終章 辺鄙な土地でのこれから編
あれから一年後の世界
魔王を討ってから一年経つ日を祝う祭りで起きた事件。聖女と共に倒したはずの魔王が蘇り、ウエレスト大陸の首都リュメールに出現し勇者たちと交戦したあの日から早いもので一年が経とうとしている。
あの日の出来事はその現場を目撃した人から見ていない人に伝わり、話には尾鰭がついてきっと多分世界全土に広がった。
「世界の危機に救国の聖女が降臨し、今度こそ魔王を討ち倒した」
軽くいえばこの程度だが、あの日魔王と聖女の消える間際のやりとりを見た人は違う解釈もしている。
あの時聖女と魔王は戦う訳ではなく、手を触れ合わせて消滅した。それは聖女による浄化の光が魔王を射抜いたのではなく、魔王と聖女は互いに寄り添うようにして消えたのだと言うものだった。
始めは誰もそんな話を信じはしなかった。「魔王は世界の危機を前に蘇った聖女によって永遠に封印された」この方がわかりやすく、また大衆は受け入れやすかったからだ。だがしかし、人間の想像力とは豊かなものなのだ。
「魔王と聖女さまって、禁断の組み合わせだよね」
「確かにー。しかもさしかもさ、魔王ってすっっごいカッコ良かったんでしょ? お祭り行ってた子から聞いたの!」
「世界を滅ぼしかけた魔王と、その魔王と一緒に死ぬことを選んだ聖女さま……。え、待って、これってすんごく良いシチュエーションじゃない⁉︎」
「ちょっとあんたたち! そんな無礼なことお言いでないよ!」
「えー、でも想像するくらい自由じゃん。実際のとこなんて誰にもわかんないんだしさ」
「そうそう」
西と東の大陸の丁度中間地点、辺境の地ともいわれる街の比較的若い住民で賑わう飲食店での会話。空はどこまでも青く澄んでいて、空気も爽やかで、深呼吸すれば草木の香りを肺いっぱいに吸い込むことのできる過ごし易い時期。
甘味と軽食が評判の店では持ち帰りにも対応していて少女たちがきゃっきゃと話している間にも何組かのお客が持ち帰りのセットメニューを購入しては帰っていく。
魔王が復活し、そして聖女がその魔王と共に姿を消した日から一年。世界は確かに平和になっていた。
アズマヒの国での魔族により甚大な被害が発覚し、世界は一斉に魔族狩りに立ち上がった。そのお陰で地上にいた魔族は殲滅され、今度こそ魔族による脅威は消え去った。今の世界にある問題といえばモンスターの討伐や、ヒドラとは違う犯罪組織の取り締まりだろうか。
小さな問題は上げたらキリがないほどにあるけれど、それでも魔族がいた時に比べればそんなものは些細なことだった。
「いらっしゃい。今日は何を買っていくんだい?」
「この燻製肉と、あと野菜をいくつか。おすすめはありますか?」
「お、それならこれなんてどうだい? 山間部で育った珍しい野菜なんだけどね、これがスープに入れると美味いんだ」
「あ、じゃあそれいただきます」
「毎度あり!」
街の中にあるマルシェは賑わっていて、道にはみ出さない程度に展開された商品はどれもこれも美味しそうだ。その中からいくつかの野菜と、店の奥に飾られている燻製肉のブロックを購入した人物はこの店主とも顔馴染みらしく気さくに会話を楽しんでいた。
「今日は一緒じゃないのかい?」
店主の視線が今しがた買い物を終えた人物の隣や後ろ、それからもうちょっと後ろの方を覗き見る。けれどそこには期待した人物はおらず、そんな店主の様子を見たお客は苦く笑った。
「この前女性たちに囲われたので懲りたみたいで」
「……? ああ、確かにありゃ駄目だな。顔が良いってのも考えもんだなぁ」
「あはは。これ、ありがとうございました。また」
木で編まれた籠を軽く持ち上げてから笑顔で去っていく人の背中に「今後ともご贔屓にー!」と大きな声を掛けて店主は後ろを振り返った。
「ねえちょっと」
「おわあ! 何だいびっくりすんだろ!」
随分と近い距離にいた常連客に店主は驚いた。けれどそんなものは知らないとばかりにずずいと常連客が顔を寄せる。
「あれ、あの人とあんた仲良いの?」
「んあ? あー、あの人なぁ。仲が良いってほどじゃあねえけどまあ普通に話はするぜ。なんたって大事なお客様だからな! で、あの人がどうかしたのかい?」
「いやあ特に何かあるってわけじゃないんだけどね。ただ気になるじゃないか、なんていうか独特でさあ」
「……ああー、それは確かに」
店主はマルシェの賑わいをそよ風のように歩いていく背中をもう一度見た。短く切り揃えられた黒髪で男にしては低めの身長に、少し心配になるくらいの華奢な体。けれど本人は至って健康で、顔を合わせればよく笑う優しい印象の好青年だ。
けれどその青年を印象付けているのは昨年から流行り出した「聖女の慈愛」という石と全く同じ色の目を持っているというのが一番大きい。
いつの間にか街に現れてたまにふらっとやってきて様々な店で買い物をしてまたふらっといなくなる。誰もその人がどこに住んでいるのかも知らず、名前を知っている人すらいない。
それだけでも随分と目立つのに、その人はたまに目の覚めるような美丈夫を連れてやって来るのだ。
月の光を集めたような白銀の髪に、宝石をそのまま埋め込んだような赤い目。体格もそれはそれは恵まれていて二人が並んでいる姿はどちらかといえばチグハグなのに、どうにもこれ以上ない程似合いの二人に見えるのだから不思議だ。
「まあ不思議は不思議だけど」
寄り添うようにしてたまにやってくる二人を思い出して店主は自然と口角が上がった。
「俺にとっちゃ良いお客さんだな!」
豪快に笑ってそう言えば常連客は呆れたように息を吐いた。
あの日の出来事はその現場を目撃した人から見ていない人に伝わり、話には尾鰭がついてきっと多分世界全土に広がった。
「世界の危機に救国の聖女が降臨し、今度こそ魔王を討ち倒した」
軽くいえばこの程度だが、あの日魔王と聖女の消える間際のやりとりを見た人は違う解釈もしている。
あの時聖女と魔王は戦う訳ではなく、手を触れ合わせて消滅した。それは聖女による浄化の光が魔王を射抜いたのではなく、魔王と聖女は互いに寄り添うようにして消えたのだと言うものだった。
始めは誰もそんな話を信じはしなかった。「魔王は世界の危機を前に蘇った聖女によって永遠に封印された」この方がわかりやすく、また大衆は受け入れやすかったからだ。だがしかし、人間の想像力とは豊かなものなのだ。
「魔王と聖女さまって、禁断の組み合わせだよね」
「確かにー。しかもさしかもさ、魔王ってすっっごいカッコ良かったんでしょ? お祭り行ってた子から聞いたの!」
「世界を滅ぼしかけた魔王と、その魔王と一緒に死ぬことを選んだ聖女さま……。え、待って、これってすんごく良いシチュエーションじゃない⁉︎」
「ちょっとあんたたち! そんな無礼なことお言いでないよ!」
「えー、でも想像するくらい自由じゃん。実際のとこなんて誰にもわかんないんだしさ」
「そうそう」
西と東の大陸の丁度中間地点、辺境の地ともいわれる街の比較的若い住民で賑わう飲食店での会話。空はどこまでも青く澄んでいて、空気も爽やかで、深呼吸すれば草木の香りを肺いっぱいに吸い込むことのできる過ごし易い時期。
甘味と軽食が評判の店では持ち帰りにも対応していて少女たちがきゃっきゃと話している間にも何組かのお客が持ち帰りのセットメニューを購入しては帰っていく。
魔王が復活し、そして聖女がその魔王と共に姿を消した日から一年。世界は確かに平和になっていた。
アズマヒの国での魔族により甚大な被害が発覚し、世界は一斉に魔族狩りに立ち上がった。そのお陰で地上にいた魔族は殲滅され、今度こそ魔族による脅威は消え去った。今の世界にある問題といえばモンスターの討伐や、ヒドラとは違う犯罪組織の取り締まりだろうか。
小さな問題は上げたらキリがないほどにあるけれど、それでも魔族がいた時に比べればそんなものは些細なことだった。
「いらっしゃい。今日は何を買っていくんだい?」
「この燻製肉と、あと野菜をいくつか。おすすめはありますか?」
「お、それならこれなんてどうだい? 山間部で育った珍しい野菜なんだけどね、これがスープに入れると美味いんだ」
「あ、じゃあそれいただきます」
「毎度あり!」
街の中にあるマルシェは賑わっていて、道にはみ出さない程度に展開された商品はどれもこれも美味しそうだ。その中からいくつかの野菜と、店の奥に飾られている燻製肉のブロックを購入した人物はこの店主とも顔馴染みらしく気さくに会話を楽しんでいた。
「今日は一緒じゃないのかい?」
店主の視線が今しがた買い物を終えた人物の隣や後ろ、それからもうちょっと後ろの方を覗き見る。けれどそこには期待した人物はおらず、そんな店主の様子を見たお客は苦く笑った。
「この前女性たちに囲われたので懲りたみたいで」
「……? ああ、確かにありゃ駄目だな。顔が良いってのも考えもんだなぁ」
「あはは。これ、ありがとうございました。また」
木で編まれた籠を軽く持ち上げてから笑顔で去っていく人の背中に「今後ともご贔屓にー!」と大きな声を掛けて店主は後ろを振り返った。
「ねえちょっと」
「おわあ! 何だいびっくりすんだろ!」
随分と近い距離にいた常連客に店主は驚いた。けれどそんなものは知らないとばかりにずずいと常連客が顔を寄せる。
「あれ、あの人とあんた仲良いの?」
「んあ? あー、あの人なぁ。仲が良いってほどじゃあねえけどまあ普通に話はするぜ。なんたって大事なお客様だからな! で、あの人がどうかしたのかい?」
「いやあ特に何かあるってわけじゃないんだけどね。ただ気になるじゃないか、なんていうか独特でさあ」
「……ああー、それは確かに」
店主はマルシェの賑わいをそよ風のように歩いていく背中をもう一度見た。短く切り揃えられた黒髪で男にしては低めの身長に、少し心配になるくらいの華奢な体。けれど本人は至って健康で、顔を合わせればよく笑う優しい印象の好青年だ。
けれどその青年を印象付けているのは昨年から流行り出した「聖女の慈愛」という石と全く同じ色の目を持っているというのが一番大きい。
いつの間にか街に現れてたまにふらっとやってきて様々な店で買い物をしてまたふらっといなくなる。誰もその人がどこに住んでいるのかも知らず、名前を知っている人すらいない。
それだけでも随分と目立つのに、その人はたまに目の覚めるような美丈夫を連れてやって来るのだ。
月の光を集めたような白銀の髪に、宝石をそのまま埋め込んだような赤い目。体格もそれはそれは恵まれていて二人が並んでいる姿はどちらかといえばチグハグなのに、どうにもこれ以上ない程似合いの二人に見えるのだから不思議だ。
「まあ不思議は不思議だけど」
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