【完結】元つく二人の珍道中!〜(元)魔王と聖女の全国行脚美食旅〜

白(しろ)

文字の大きさ
103 / 105
終章 辺鄙な土地でのこれから編

静けさと爆弾

 てぷがいる間の二日間、家は騒がしくなる。二人で住むには丁度いい広さの家は普段はとても静かだ。家主のリヴィウスとステラが言葉を多く必要としない性格というのもあるが、言葉を交わすとなっても距離が近いから、やはり家の中は静寂に包まれている時間の方が長い。

 木造二階建ての建物は元魔王と元聖女が住んでいるとはとても思えない程質素だ。家具の殆どは木製で、たまに街に行った時買った本で本棚が埋まるくらいで、装飾という装飾も特に施されていない素朴な家。
 高価な調度品はどこにもなく唯一目を引くものがあるとするなら、食器棚に置かれた三組の白磁の陶器にラインの入ったカップとソーサーくらいだろうか。

 その家がてぷのいる間は花が咲いたように賑やかになり、帰ったあとは祭りの後のように静寂に包まれる。一抹の物悲しさを感じるけれど、これがステラたちの今の日常だ。
 「寂しいですね」「そうでもない」そんな素っ気無いともとれる会話を一つして、ステラたちは一日を終えるべく過ごしていく。

 庭に干した洗濯物を取り込んで、ステラが食事を作って、リヴィウスが片付けを担当する。元魔王が洗濯物を片付ける姿はいつになって慣れなくて、その姿を見る度にステラは笑ってしまう。一年経とうとしているのにだ。

「いつまで笑っているんだお前は」

 呆れた様子で呟くリヴィウスにステラは笑ったまま首を振った。

「ごめんなさい。でもやっぱり新鮮で」

 息を吐いたリヴィウスがやれやれと首を振り、洗濯物を持って二階の部屋へと上がっていく。その音を聞きながらステラは夕飯を作っていた。野菜と燻製肉を使ったミルクのスープに、最近挑戦を始めたハードパン。それと畑で取れた野菜を使ったサラダと、リヴィウスの腕力に任せて作ったバター。豪華とは言えないけれど、それでも十分な量の食事を作り終えるといつの間にか戻ってきたリヴィウスが興味津々といった様子でステラの背後から様子を見ていた。

「片付けありがとうございます、リヴィ。もうちょっと出来ますよ」
「……ん」

 調理中は触れては来ないけれど、もうほとんど出来上がっている状態だとリヴィウスはよくステラを抱き締めてくる。背中から腹部に腕が回り、頭にリヴィウスの頬が当たる。

「ふふ、お腹が空きましたか?」
「それなりにな」
「てぷ様、元気そうでよかったですね?」
「あいつはいつでも元気だ。何百年も前から変わらん」
「その頃からあの大きさなんですか?」
「ああ。ここ二年で太ったがな」
「あ、こら」
「事実だ」

 そんな会話をしながら料理を木の皿に盛り付けて二人掛けのテーブルに運び、食事を始める。てぷがいれば賑やかだが二人だけの食卓は静かなもので、会話も無く食器が擦れる音も咀嚼音も最低限で、ただただ静かだ。だがそれを気まずいだなんて思ったことは一度もなく、てぷがいた時とはまた違う心地良さを感じられる。

 窓の外は既に暗く、室内は魔力で灯された照明のおかげで明るい。ただ夜になったというだけで静かさは何倍にも広がり、服の擦れる音さえも聞こえる程だった。

「……そういえば」

 リヴィウスの声が良く響いた。手に持ったスプーンにはスープが掬われている。

「初めて食べた人間の食事がこれだったな」

 その視線の先にあるのは野菜と肉のミルクスープだ。始めステラは何を言われたのかわからなかったけれど、もう二年も前になる記憶を思い出して確かにと頷いた。

「そういえば。よく覚えていましたね?」
「俺も今思い出した」

 リヴィウスがまた一口スープを口に運ぶ。それを見てステラは笑みを浮かべた。

「また旅がしたいですね」

 その言葉に対する返答はない。
 そんな沈黙も二人の間では日常だ。

「てぷ様も一緒に。今度は南の国が良いですね。そちらだけまだ行けていませんし、秘境と言われる場所に行くのも楽しそうです。きっと美味しい料理が沢山あるんでしょうね」
「俺は」

 ぽつりと小さく言葉が落ちる。

「多分これ以上美味いと思える料理には出会えない」

 何を言われたかわからず動きが止まる。

「どの国の料理も美味かった。だが俺がこの先一生食べていたいと思うのはステラの料理だけだ」

 朝の挨拶のような気軽さで告げられた言葉だった。その証拠にリヴィウスは特に気にした様子もなくスープを口に運び、スライスされたハードパンにたっぷりのバターを付けて大きな口で頬張っている。
 挑戦を始めたばかりのパンは固くて小麦の香りもあまりしない。野菜だらけのスープもサラダも肉料理が好きなリヴィウスにとっては物足りないはずだ。でも、そういえばとステラは思った。

 この約一年、料理といえばステラが作るものばかりだった。それにリヴィウスは文句を言った事なんて一度もない。ずっとただ一言「美味い」と伝えてくれていた。たまに感謝の言葉もくれるようになっていた。それを人としての感性が磨かれてきたな、なんて思っていたけれどこの言葉は多分違う。
 きっとリヴィウスにとってはなんて事のない言葉だ。けれどステラには違う意味に聞こえてしまう。そう思った途端、ステラの頬に熱が集まった。

「……どうして今その顔をする」

 食事を進めないステラを訝しんで視線を上げたリヴィウスが首を傾げた。それに居た堪れなくなって両手で顔を覆い、ステラは声を絞り出した。

「……照れてしまっただけです」
「今のどこにそんな要素があった」
「強いて挙げるなら全てです」
「……人間はわからん」

 リヴィウスとステラの間には名前のついた関係は無い。ステラはリヴィウスに愛情を抱いているけれど、リヴィウスがどうかはわからない。間違いなく特別扱いはされていると思うし、少ない言葉ながらも一緒に生きていくことにも多分なっている。し、それなりの事もしている。日常的に。
 だからきっと、二人の関係は他人から見れば間違いなく恋人かそれ以上だろう。

 でもいまだに名前はついていないのだ。ステラは別にそれでも良いと思っていた。これから先、きっと余程のことが無い限り自分たちが離れ離れになることはない。
 だからゆっくりと育んでいけば良いと思っていた、のに。爆弾は案外簡単に落とされるものなのである。

「てぷがお前と番わないのかと聞いてきた」

 ステラはベッドから落ちた。
感想 10

あなたにおすすめの小説

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)

てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。 言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち――― 大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡) 20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

薄幸な子爵は捻くれて傲慢な公爵に溺愛されて逃げられない

くまだった
BL
アーノルド公爵公子に気に入られようと常に周囲に人がいたが、没落しかけているレイモンドは興味がないようだった。アーノルドはそのことが、面白くなかった。ついにレイモンドが学校を辞めてしまって・・・ 捻くれ傲慢公爵→→→→→貧困薄幸没落子爵 最後のほうに主人公では、ないですが人が亡くなるシーンがあります。 地雷の方はお気をつけください。 ムーンライトさんで、先行投稿しています。 感想いただけたら嬉しいです。

【完結】星に焦がれて

白(しろ)
BL
気付いたら八年間囲われてた話、する? わんこ執着攻め×鈍感受け 「お、前、いつから…?」 「最初からだよ。初めて見た時から俺はお前のことが好きだった」  僕、アルデバラン・スタクにはどうしても敵わない男がいた。  家柄も、センスも、才能も、全てを持って生まれてきた天才、シリウス・ルーヴだ。  僕たちは十歳の頃王立の魔法学園で出会った。  シリウスは天才だ。だけど性格は無鉄砲で無計画で大雑把でとにかく甘えた、それに加えて我儘と来た。それに比べて僕は冷静で落ち着いていて、体よりも先に頭が働くタイプだったから気が付けば周りの大人たちの策略にはめられてシリウスの世話係を任されることになっていた。  二人組を作る時も、食事の時も、部屋だって同じのまま十八で学園を卒業する年まで僕たちは常に一緒に居て──そしてそれは就職先でも同じだった。  配属された辺境の地でも僕はシリウスの世話を任され、日々を慌ただしく過ごしていたそんなある日、国境の森に魔物が発生した。それを掃討すべく現場に向かうと何やら魔物の様子がおかしいことに気が付く。  その原因を突き止めたシリウスが掃討に当たったのだが、魔物の攻撃を受けてしまい重傷を負ってしまう。  初めて見るシリウスの姿に僕は動揺し、どうしようもなく不安だった。目を覚ますまでの間何をしていていも気になっていた男が三日振りに目を覚ました時、異変が起きた。 「…シリウス?」 「アルはさ、優しいから」  背中はベッドに押し付けられて、目の前には見たことが無い顔をしたシリウスがいた。  いつだって一等星のように煌めいていた瞳が、仄暗い熱で潤んでいた。とても友人に向ける目では、声では無かった。 「──俺のこと拒めないでしょ?」  おりてきた熱を拒む術を、僕は持っていなかった。  その日を境に、僕たちの関係は変わった。でも、僕にはどうしてシリウスがそんなことをしたのかがわからなかった。    これは気付かないうちに八年間囲われて、向けられている愛の大きさに気付かないまますったもんだする二人のお話。

兄様の親友と恋人期間0日で結婚した僕の物語

サトー
BL
スローン王国の第五王子ユリアーネスは内気で自分に自信が持てず第一王子の兄、シリウスからは叱られてばかり。結婚して新しい家庭を築き、城を離れることが唯一の希望であるユリアーネスは兄の親友のミオに自覚のないまま恋をしていた。 ユリアーネスの結婚への思いを知ったミオはプロポーズをするが、それを知った兄シリウスは激昂する。 兄に縛られ続けた受けが結婚し、攻めとゆっくり絆を深めていくお話。 受け ユリアーネス(19)スローン王国第五王子。内気で自分に自信がない。 攻め ミオ(27)産まれてすぐゲンジツという世界からやってきた異世界人。を一途に思っていた。 ※本番行為はないですが実兄→→→→受けへの描写があります。 ※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。 僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。 けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。 どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。 「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」 神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。 これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。 本編は三人称です。 R−18に該当するページには※を付けます。 毎日20時更新 登場人物 ラファエル・ローデン 金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。 ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。 首筋で脈を取るのがクセ。 アルフレッド 茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。 剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。 神様 ガラが悪い大男。