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第一章
ただの役立たず
その日はほとんど眠れないまま朝を迎えた。
部屋を訪れたエルダーは俺の顔を見てとても驚いていたが、昨夜リュシアンが部屋に来たのを知っていたのか、特に何かを聞かれることはなかった。
鏡に写る自分の顔を見て、あまりのひどさに笑いが出る。
泣いたせいで腫れている上に、寝ていないのも重なって目の下には隈ができている。しかも、とても情けない顔をしていた。
王城で過ごしていた時だってこんな顔をしていなかった。
それはそうだ。
あの頃は誰も俺に面と向かって文句なんて言わなかった。陰から言われるのが常だ。
直接文句を言う度胸もない卑怯者だと、当時の俺は見下して悦に浸っていた。そうやって自分のちっぽけなプライドを守っていた。
でも今の俺はただのフィリアスだ。
ランバートの名を背負うことすら許されなくなった、ただの役立たずだ。
「……フィリアス様、そろそろ菜園に行かれるお時間です」
側で控えていたエルダーの声に頷く。
こんな状況でも、休むという選択肢は頭になかった。
与えられた仕事はしなければならない。俺のこのわがままに付き合ってくれた人がいるのだから、せめてその責任くらいは果たしたい。
「エルダー」
「なんでしょう」
菜園に向かいながら口を開く。
屋敷から出ると、爽やかな朝の風が吹き抜けていく。
「迷惑ばかり掛けてすまない」
「……フィリアス様」
「今後は気を付ける」
「……」
それから言葉はなく、ゆっくりと菜園に向かう。
その途中、本邸の入口からリュシアンが馬車に乗って港に向かうのが見えた。現公爵の代わりにこの領地を治めているリュシアンは朝から働き通しだと、以前エルダーから聞いた。
ようやく体が空くのは深夜だけで、そこからも資料や書類に目を通しているらしい。
そう思うと、つくづく俺とは違うなと、さらに自分が矮小な存在に思えてくる。自分がリュシアンのような人物だったなら、父も母も、周囲にだって、俺は認められたんだろう。
「おー! 来たなフィル様! 聞いてくれよ昨日の芋なんだが、どうしたってんだその顔! なんか悪いもんでも食ったか⁉︎」
温室を抜けて菜園に入った途端、待ってましたと言わんばかりの勢いでやってきたゴードンが俺の顔を見て目を見開いた。
「朝食も美味しかったぞ」
「おおそりゃよかった。でもなあ、そんな顔で美味かったって言われても料理人としちゃあイマイチ喜べねえぞ」
いつの間にかエルダーが少し離れた場所に行っていた。
普段とは違う行動を不思議に思ったが、そんな思考を吹き飛ばすようにゴードンが俺の背中を軽く叩いた。
「まあそんな顔で来ただけ偉いわな。今日は果物のとこ行くぞー」
そのまま肩を組まれて連れていかれる。
後ろからエルダーが付いてくる気配はなく。少し焦る。
「ま、待てゴードン。エルダーが」
「ちょっとくらい平気だ、平気」
有無を言わさず連れていかれた先にあったのは果樹がいくつか生えている場所だった。
部屋を訪れたエルダーは俺の顔を見てとても驚いていたが、昨夜リュシアンが部屋に来たのを知っていたのか、特に何かを聞かれることはなかった。
鏡に写る自分の顔を見て、あまりのひどさに笑いが出る。
泣いたせいで腫れている上に、寝ていないのも重なって目の下には隈ができている。しかも、とても情けない顔をしていた。
王城で過ごしていた時だってこんな顔をしていなかった。
それはそうだ。
あの頃は誰も俺に面と向かって文句なんて言わなかった。陰から言われるのが常だ。
直接文句を言う度胸もない卑怯者だと、当時の俺は見下して悦に浸っていた。そうやって自分のちっぽけなプライドを守っていた。
でも今の俺はただのフィリアスだ。
ランバートの名を背負うことすら許されなくなった、ただの役立たずだ。
「……フィリアス様、そろそろ菜園に行かれるお時間です」
側で控えていたエルダーの声に頷く。
こんな状況でも、休むという選択肢は頭になかった。
与えられた仕事はしなければならない。俺のこのわがままに付き合ってくれた人がいるのだから、せめてその責任くらいは果たしたい。
「エルダー」
「なんでしょう」
菜園に向かいながら口を開く。
屋敷から出ると、爽やかな朝の風が吹き抜けていく。
「迷惑ばかり掛けてすまない」
「……フィリアス様」
「今後は気を付ける」
「……」
それから言葉はなく、ゆっくりと菜園に向かう。
その途中、本邸の入口からリュシアンが馬車に乗って港に向かうのが見えた。現公爵の代わりにこの領地を治めているリュシアンは朝から働き通しだと、以前エルダーから聞いた。
ようやく体が空くのは深夜だけで、そこからも資料や書類に目を通しているらしい。
そう思うと、つくづく俺とは違うなと、さらに自分が矮小な存在に思えてくる。自分がリュシアンのような人物だったなら、父も母も、周囲にだって、俺は認められたんだろう。
「おー! 来たなフィル様! 聞いてくれよ昨日の芋なんだが、どうしたってんだその顔! なんか悪いもんでも食ったか⁉︎」
温室を抜けて菜園に入った途端、待ってましたと言わんばかりの勢いでやってきたゴードンが俺の顔を見て目を見開いた。
「朝食も美味しかったぞ」
「おおそりゃよかった。でもなあ、そんな顔で美味かったって言われても料理人としちゃあイマイチ喜べねえぞ」
いつの間にかエルダーが少し離れた場所に行っていた。
普段とは違う行動を不思議に思ったが、そんな思考を吹き飛ばすようにゴードンが俺の背中を軽く叩いた。
「まあそんな顔で来ただけ偉いわな。今日は果物のとこ行くぞー」
そのまま肩を組まれて連れていかれる。
後ろからエルダーが付いてくる気配はなく。少し焦る。
「ま、待てゴードン。エルダーが」
「ちょっとくらい平気だ、平気」
有無を言わさず連れていかれた先にあったのは果樹がいくつか生えている場所だった。
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